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松井秀喜氏を抜く32本塁打で“シン・ゴジラ”へ――「野球人生最悪」の不振を乗り越えて鈴木誠也が勝ち取った勲章<SLUGGER>

松井秀喜氏を抜く32本塁打で“シン・ゴジラ”へ――「野球人生最悪」の不振を乗り越えて鈴木誠也が勝ち取った勲章<SLUGGER>

“シン・ゴジラ”、ここに誕生す――。

 9月28日(現地)の日曜日、メジャーリーグ(MLB)公式戦の最終日、カブスの鈴木誠也は5回の第2打席で、カーディナルスの2番手左腕ジョン・キングが投じた4球目の低めカーブを左翼スタンドに叩き込んだ。

 それは25日のメッツ戦から4試合連続となる本塁打であり、ナショナル・リーグ7位タイとなるシーズン32本塁打でもあった。“ゴジラ”こと松井秀喜氏のメジャーにおける最多記録は、2004年の31本塁打であり、鈴木が放ったのは「ゴジラ超え」の一発だったのである。

 日本人メジャーリーガーのシーズン本塁打ランキングは、55本(今年)、54本(2024年)、46本(2021年)、44本(23年)、34本(22年)と、上位5番目まではすべて大谷翔平(ドジャース)が占めている。それに続くのが鈴木誠也の32本であり、大谷との距離はあまりにも遠いが、鈴木と松井秀氏を含む3人以外の最多が、06年(19年も前の話だ!)の井口資仁氏(当時ホワイトソックス)と城島健司氏(当時マリナーズ)の18本塁打と、そこもかなり差が開いている。鈴木はもっと評価されて然るべきだろう。

 ただし、だからと言って、同級生で仲の良い大谷に「一歩でも距離が縮まった気がするのでは?」などと問おうものなら、鈴木は「なにバカなこと、言ってんすか?」と笑い飛ばし、天上人・大谷に対し、「ボクは地面の下にいます。比較しちゃいけないと思います」ときっぱり言う。
「僕と翔平とは、右打ちと左打ちでスタイルも違うし、あそこを目指そうとすれば、(打撃が)おかしくなる。自分は自分なりのできることをしっかりやって、それで近づければいいなと思いますけど、まだまだそんなこと言ってられる立場でもないですし、一つ一つ頑張っていきたいなと思います」

 ちなみに日本人選手の30本塁打&100打点も、松井秀氏、大谷に次ぐ史上3人目の快挙である。記録達成直後、鈴木は「畏れ多いです」と言い、彼を取り囲んだ報道陣を笑わせているが、彼は少年時代、ヤンキースの日本開幕戦(04年)でピンストライプのユニォームを着た松井秀氏を観客席から見ていたという。

「僕は右打ちで、松井さんは左打者なので、参考にするところって言うと、ちょっと分からないですけど、日本での成績もそうですし、こっちでの成績も良いですし、本塁打の数とかは日本よりは減ってると思いますけど、打点とか、チームへの貢献度はすごい高かったと思う。今でもこう、イベントとかでヤンキースのユニフォーム姿を見るけど、ああいう声援を送られてるっていうのは、それだけ偉大な人なんだな、とすごく感じる」

 セイバーメトリクス全盛の昨今、前の打者が出塁してこその打点の評価は昔ほどではない。しかし、その打者の、走者を置いた場面での打率や長打率だけではなく、打席の在り方がチームの得点を最優先するような考え方に則ったものでなければ、簡単に逃してしまうのが打点というものだ。

 鈴木の今季の得点圏打率は.311、OPSも.997と高水準だった。得点圏でも12本塁打、8二塁打と6割超えの長打率があり、犠牲フライが8個もあった。2アウトからの得点圏打率も3割を超えており、OPSは何と1.050と、打点を稼いで当然の成績が残っている。 そこに至るまでの道のりは、決して平坦ではなかった。いや、むしろ、彼自身が「今までの野球人生で最悪だと思う」と漏らすほどのスランプを経て残された「苦闘の痕跡」そのものと言ってもいいだろう。

 前半戦、出場92試合で25本塁打、77打点、OPS.867とメジャーリーグ移籍後の最高成績を残していた鈴木は、後半戦が始まった7月18日から9月10日までの出場48試合でわずか2本塁打、14打点しか叩き出すことができなかった。その間のOPSは.603。前半戦終了時、「このままのペースなら40本塁打、130打点も夢じゃない」などと言われていたのが嘘のような急降下だった。当時、鈴木はこう言っている。

「今年の前半戦は、4回に1回ぐらいの確率で出るヒットが、長打になることが多かった。それが後半戦になってから、その4回に1回が野手の正面を突いたり、相手にファインプレーされたりで、たまにシングル(・ヒット)は出るけど、そのうち、シングルさえ出なくなった。良くなる感覚がないと言うか、ここまで感覚がないなんてことは、今まで経験したことがない」

 良かった時の自分に戻そうと、ボール球を振ったり、必要以上の力みにつながったり。練習ではタイミングの取り方、バットの出し方、上半身や軸足の動かし方......など、やるべきことはすべてやった。相手投手の配球の研究や、打席内でのアレンジも手を抜くことなくやったはずだった。それでも結果が出ない日々が、およそ2ヵ月近く続いた。

 出口の見えないトンネル。一筋の光も見えない真っ黒な闇。彼は自分自身に怒り、どうしようもない失望と数え切れない落胆の日々を過ごしたが、自ら諦めることだけはしなかった。
「まあ、もう31歳なんで若くはないんですけど、野球人生はまだまだ続いていくんでね。今年で引退するとかだったら、もうとっくの昔に諦めてるでしょうけど、今、いろいろやってることが、シーズン中には出なくても、プレーオフで出るかもしれないし、来年になったら出るかもしれないし。開き直ってるわけじゃないけど、今は勉強してるんだと思ってる」

 悪い時に悪いことは重なるもので、9月5日~10日まで6試合連続でシングルヒットを記録し、復活の予兆なものが出始めた矢先に体調を崩し、三日三晩、食事ができないほど苦しんだという。

 まさに八方塞がり。何をやっても上手く行かなくなった頃、今季前半戦、鈴木とともにチームの快進撃を引っ張った主砲カイル・タッカーが脹脛の怪我で戦線離脱。わずか数日で何kgか体重が落ちるほど状態が悪かったのに、鈴木は17日のパイレーツ戦で「指名打者」としてではなく、「右翼手」として復帰した。当時、彼はこう言っている。

「出れるか? って言うから『出る』って返事しただけ。『途中からどうだ?』って言われたけど、『試合に出るからには、最初から最後まで出る』って言いました」

 18日のレッズ戦では、8月31日以来の長打となる二塁打を放ったものの、試合後のロッカーに行くと、足を引きずるように歩いていたり、まるでフルラウンドを闘い終えたボクサーのように、椅子に座って呆然としていたり。それはそれは酷い姿だった。
 ところが、公式戦も残り5試合となった9月24日のメッツ戦。期待の新人、先発ジョナ・トンと対戦した鈴木は、体調を崩す前後から出始めていた「引っ張った強い打球」を第一打席から放った(結果は三ゴロ)。そして、迎えた第2打席、3回無死一、三塁のチャンスで、彼は再び「引っ張った強い打球」で三塁線を破り、タイムリー二塁打とした。

 後は打球さえ上がれば、前半戦のような結果が残るのではないか?――誰もがそう思った。

 4試合連続の本塁打が始まったのは、その翌日からである。

「ここ最近は吹っ切れて、もうどうでもいいやって感じで思い切って、どんどんスウィングしていこうという気持ちだった。(それまでも)一日一本は(安打が)出ていたんで良かったし、打点もちょっとずつ稼げてたんで、良かったのは良かったですけど、前半戦とのギャップが激しい。自分の中では納得してない部分はたくさんあるんですけど、そこを見ても仕方ない。とりあえず一試合一試合、自分に出せるものを出していきたい」

 公式戦最後の試合で、カーディナルスに3連勝して締めた直後、鈴木は今季を暫定的に振り返り「ゴミのシーズンですね」と笑った。「悪い時期が長かった。(打撃に)スランプってのはあるものだし、調子の善し悪しもあるものだけど、そこの波をもう少し小さくできたら、満足の行くシーズンだったかもしれない。でも、初めての経験もたくさんあって、すごく勉強になった。悪い時期にたくさん考えて、もがいた結果が最後にこうやって良くなったんで、そこはまた自信になりましたし、たくさんのことを感じたシーズンだった」

 我々、メディアが称賛する「ゴジラ超え」にはまったく興味を示さず、「本塁打と打点は良かったですけど、その他はあんまり納得いってないかなって感じ」と躊躇なく言う。

「欲を言えば、もう少し率の方は上げたかったですし、そこが上がりきらなかったのは来年の課題。たくさん良いところもあるので、そこを伸ばしつつ、反省しなきゃいけないところはして、また次のシーズンに生かせればいいかなと思いますけど、まだポストシーズンがあるので、そのことよりは今、次のシリーズをしっかりやれるようにしたい」。

 そう。まだ、終わったわけじゃない。

 パドレスを迎え入れての、2戦先勝のワイルドカード・シリーズ。

 永遠に続くかのように思えた長い、長いトンネルを抜けて、見つけた一筋の光。それをさらに眩く、強い光に変えて、9月30日からの決戦に注ぎ込め――。

文●ナガオ勝司

【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO

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配信元: THE DIGEST

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