
「SNSをあまり使っていない方が社会的には健全だ」という考え方があります。
一方で、「今の時代、SNSで他の人とどんどん繋がっていくべきだ」と考える人もいるかもしれません。
イタリアのパドヴァ大学(University of Padova)の研究チームは、これらのイメージに疑問を投げかける結果を報告しました。
思春期の若者を数年間にわたり追跡したところ、SNSは友情を壊す装置でも育てる装置でもなく、もともとの人間関係を“増幅”する場に近いことが見えてきたのです。
本研究は2025年12月6日付の『Computers in Human Behavior』に掲載されました。
目次
- 「SNSをあまり使わない人は、健全な社会生活をもつ」と言える?
- SNSは友情を“作る”のではなく“映す” もの
「SNSをあまり使わない人は、健全な社会生活をもつ」と言える?
ここ数年、「SNSはメンタルに悪い」「スクリーンタイムが長いほど有害だ」といった言説が繰り返し語られてきました。
そこから、「それならいっそSNSをやめてしまった方が健全だ」という発想も生まれています。
しかし研究チームは、この見方には大きな問題があると考えました。
現実の使い方は、「長く触っているかどうか」だけでは測れないからです。
若者は、ただタイムラインを眺めるだけでなく、自分の近況を投稿したり、友だちの投稿にコメントしたり、オンラインで悩みを打ち明けたりと、さまざまな行動を組み合わせています。
「どれくらい時間を使ったか」だけでは、この違いが見えません。
そこで研究では、オランダの10〜15歳の中学生1211人を対象に、数年間にわたる3回の調査からなる縦断研究を行いました。
調査では、SNSを含むソーシャルメディアでの行動を細かく尋ねています。
- 受動的な閲覧(タイムラインを見る頻度)
- 自分の投稿の頻度
- 友だちへのリアクション(いいねやコメント)の頻度
- 感情や個人的な出来事をどれくらいオンラインで打ち明けるか(オンライン自己開示)
あわせて、「取り残される不安(FoMO)」「オンラインで話す方が楽だと感じる傾向(POSI)」「人気や注目を得たいという動機」といった心理的な動機も測定しました。
さらに、友だちとの関係についても、親しさや信頼、支え合いなど「友情の質」を、最初の時点と数年後の調査で評価しました。
そして統計手法を使い、SNSの使い方のパターンをいくつかのタイプに分けました。
その結果、ほどよく何でも使う「オールラウンド型」、ほとんど使わない「低利用型」、感情をよく打ち明ける「高自己開示型」、自己アピールが強い「自己志向型」の4タイプが見つかりました。
興味深いのは、「低利用型」の若者は、調査の最初の時点から友情の質が他のタイプより低く、その傾向が数年後もほとんど変わらなかったことです。
一方で、オールラウンド型や高自己開示型の若者は、中〜高い水準の友情の質を保っていました。
つまり、「SNSをあまり使わない=人間関係が健全」という単純な図式は、少なくともこのデータとは合わなかったのです。
より詳細な結果とその意味について、次項で見ていきましょう。
SNSは友情を“作る”のではなく“映す” もの
まず大事なのは、因果関係の向きです。
低利用型の若者は、SNSをあまり使わないことで友情が悪くなったわけではありません。
調査の最初の時点からすでに、他のタイプに比べて友情の質が低く、その状態が数年後の追跡時点でもほとんど変わりませんでした。
つまり、「SNSを使わないから孤立した」というより、もともと親しい友だち関係が弱い若者が、SNSでも交流の機会をあまり持っていない可能性が高いのです。
一方、オールラウンド型の若者は、閲覧・投稿・リアクション・自己開示のどれもを中くらいの頻度で行っているタイプです。
このグループは全体として、友情の質が中〜高い水準で安定していました。
SNS上でのやり取りは、リアルの友だち関係の延長線上にあり、すでにある関係を維持する「連絡手段」として機能していると考えられます。
高自己開示型の若者は、感情や個人的な出来事をオンラインでよく打ち明けるタイプです。
このグループでは、不安や抑うつといった指標がやや高い一方で、友情の質そのものは、全体として高い水準を保ち続ける傾向がありました。
対面では言いにくい弱さや悩みを、オンラインの方が話しやすいと感じている若者が、SNSを使って友だちとのつながりを支えている可能性があります。
SNSが、精神的に苦しいときの「補助輪」のように働いていると見ることもできます。
そして対照的なのが自己志向型です。
このタイプは、自分の投稿が多く、注目やステータスを求める動機が強いグループでした。
このグループでは、追跡期間を通して友情の質がわずかに低下していました。
自分をよく見せる投稿が中心になると、「見てもらう相手」は増えても、「お互いに頼り合える友だち」が育ちにくいのかもしれません。
研究チームも、自己アピール中心の利用は、長期的な親密さの深まりとは結びつきにくい可能性を指摘しています。
こうした結果から、この研究は「SNSは良いか悪いか」という単純な問いから、「誰が、どのような動機で、どう使うのか」という視点への転換を促しています。
SNSは、孤立した若者を自動的に救ってくれる魔法の道具ではありませんが、もともとある友だちとの関係を維持するには役立ちます。
また、対面で話しづらい若者にとっては、自分の気持ちを伝えるための一つのチャンネルにもなり得ます。
その一方で、承認欲求だけが強くなるような使い方は、かえって関係を弱めてしまうリスクもあります。
もちろん、この研究には限界もあります。
調査はオランダの若者を対象としているので、文化や学校環境が違う国で同じ結果が得られるかは分かりません。
さらに、友人がオンラインで知り合った相手か、学校や地域で知り合った相手かを厳密に区別しているわけでもありません。
それでも、この研究が示すのは、「SNSをあまり使わないからといって、社会生活が健全だとは限らない」ということです。
大切なのは、オンラインかオフラインかにかかわらず、「信頼できる友だちとのつながりをどう育てていくか」なのかもしれません。
参考文献
Staying off social media isn’t always a sign of a healthy social life
https://www.psypost.org/staying-off-social-media-isnt-always-a-sign-of-a-healthy-social-life/
元論文
Adolescent social media use profiles: A longitudinal study of friendship quality and socio-motivational factors
https://doi.org/10.1016/j.chb.2025.108880
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

