望月春希と「アイ」が見せた驚きの成長
池ノ辺 本作で異才を放つ主演の望月春希さんですが、オーディションの時から光っていましたか?
松本 光っていましたね。でも最初の印象は、マシンガントークが炸裂しまくって、とにかくインパクトがすごかった。「なんなんだこの子は⁉︎ もうびっくり」みたいな感じでした (笑)。
池ノ辺 そういう方なんですか (笑)。
松本 とにかく最初の印象は、「びっくり! 」の一言でした。言葉にうまくできませんが、強く惹きつけられるものがあったんです。そこから「ぜひ二次オーディションにも来てもらおう」となったのが、すべての始まりでした。望月さんの「はるな愛役は自分しかいない」という強い気持ちはもちろんですが、特に驚かされたのは、オーディションを重ねるたびに、ものすごいスピードで成長していったことです。
芝居だけでなく、物事や役柄の捉え方、自身の内面への向き合い方まで含めて、どんどん深まっていく。その成長ぶりに圧倒されると同時に、「この子は一体どこまで行くんだろう」と、未知の可能性に大きな期待を抱きました。オーディションでの芝居は、はるなさんにも見ていただいたのですが、その瞬間、はるなさんが号泣されたんです。それが、キャスティングの大きな決定打になりました。
池ノ辺 はるなさんの号泣は何に対しての号泣だったんですか。
松本 そこで演じてもらったのが、「自分は女の子として生きていきたい」とお父さんに告白するシーンだったんです。はるなさんはそのお芝居を見て、当時を思い出したとおっしゃっていました。特に望月さんの「間の使い方」に共感されていました。自分自身のことを打ち明けるのは、すごく緊張するし、ましてやあの怖そうなお父さんが相手ですから「ヘタしたら殺されるんじゃないか」ぐらいの気持ちで。だからなかなか言葉が出てこない。そのリアルな「間」に、はるなさんもすごく感情移入されたんじゃないかと思います。
池ノ辺 望月さん自身も、この作品と共に成長していったのかもしれないですね。
松本 そうですね。この作品の撮影を通じて、望月さんが大きく成長していく姿を、僕自身も間近で感じていました。しかも本作は、「アイ」が成長していく物語でもあるので、その変化が役と重なって見えた部分も大きかったと思います。望月さんには、とても魅力的な「未完成さ」があって、だからこそ、この「望月春希」という俳優がこれからどんな道を歩んでいくのか、本当にワクワクしています。
池ノ辺 これからが楽しみですね。
松本 そう思います。ただ、それは望月さん自身が本当に努力し、全力で向き合ってくださったからこそでもありますし、同時に、たくさんの人のサポートがあってこそだと思っています。衣装やメイクはもちろん、役者がしっかりと芝居に集中できる環境をどう作るか、そのために力を尽くしてくれたスタッフの皆さんの存在がありました。そうしたスタッフ一人ひとりの支えがあってこそ、この作品、そして望月さんの成長があったと感じています。
池ノ辺 それは忘れちゃいけないところですね。
「アイ」と「和田」~その光と影
池ノ辺 今回の撮影では、何か楽しいエピソードはありましたか。
松本 今回は、たとえばメイクルームや商店街のシーンなど、キャストとスタッフ全員の動きが噛み合わないと成立しないカットがいくつもありました。なかなかタイミングが合わず、何度も撮り直して、気づけば何十テイクにもなっていて。それでも、ようやくOKが出た瞬間の、現場が一気にお祭り騒ぎになる感じが本当に凄くて、感動しましたね(笑)。
池ノ辺 みんなで「やったー‼︎」みたいな (笑)。
松本 みんなワーッて拍手して、なんか毎日お祭りをやってるような感じだったなと思います。
池ノ辺 楽しそう。確かにそれは映像からも伝わってきました (笑)。でも一方で、斎藤工さんが演じる和田先生の存在、その演技があることで、並大抵のことではなかったんだろうなということも、きっちり表現されていたように感じました。皆さんがそのお祭り騒ぎをしているときは、斎藤さんはどうしてるんですか。
松本 和田先生は、アイと出会い、手術を行ったことをきっかけに患者さんが増え、ようやく自分の生き方を見つけていきます。ところが、その矢先に医療事故が起こり、警察や世間から追い詰められていく。手術後、人気を得て上昇していくアイの姿とは対照的に、和田先生は少しずつ転落していきます。精神的にも肉体的にも追い込まれていくその過程を、斎藤さんは役を通してしっかりと体現してくださいました。
池ノ辺 斎藤さんのそういう役作りで一層真に迫る感じがしました。
松本 そこはやはりプロの役者さんですよね。本当にすごいと思います。和田先生としてはいろいろ複雑だったと思うんです。はるな愛さんの活躍というのは、和田先生にとっても自分自身を肯定することでもある。でも一方で、いろいろなことが起きて自分はどんどん落ちていく。そのことに対するなんとも言えない悔しさみたいなものもあったんじゃないかと思うんです。
池ノ辺 そういう視点でこの作品を観ると、「ああ、人生って複雑だな」と思いました。本当に光があり影があるんですよね。そしてそれを含めて成長していく。いろいろあっても楽しく元気に、そして「自分らしく」。そんなところを表現してみせてくれた素敵な作品でした。
松本 ありがとうございます。
池ノ辺 それでは最後の質問です。監督にとって映画とはなんでしょうか。
松本 そうですね。カッコつけるつもりはないんですが、映画は自分の人生そのものだという思いがあります。僕自身、映画に救われてきたからこそ、この世界を目指しました。はるなさんが、松田聖子さんや当時の昭和歌謡に救われ、「アイドルになりたい」という思いに支えられてきたように、僕にとっての救いは映画でした。はるなさんにとっての救いが「歌」だったとしたら、僕にとってはそれが「映画」だったんです。だから、映画は自分にとって、恩人のような存在でもあります。そして今度は、僕自身が、苦しんでいる人たちに届く作品を、恩返しの気持ちも込めて撮っていきたい。そんな思いでこの映画と向き合いました。
池ノ辺 そういう作品になっていましたよ。
松本 ありがとうございます。映画を撮るって、本当に楽しいんですよ(笑)。映画は一人では作れない。ひとつの作品のために、たくさんの人が集まって、力を合わせて作り上げていく。その過程は、まさにお祭りのようだと思っています。だから一度その楽しさを経験すると、もうやめられない。もっといい作品を作りたい、という気持ちが自然と湧いてくるんです。その欲は、たぶん死ぬまで満たされないのかもしれません。だからこそ、僕も死ぬまで映画を作り続けたいと思っています。
池ノ辺 今回の作品もまさに忘れられない映画になると思います。
松本 そう言ってもらえると嬉しいですね。誰かにとって忘れられない、そして語り継がれていくような作品になってくれたらいいなと思っています。それは小説でも映画でも同じだと思うのですが、古典として今も残っている作品には、やはり残るだけの理由がある。自分も、いつかそんなふうに時代を超えて残っていく作品を作っていきたいですね。
インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 立松尚積
監督
2022年『ぜんぶ、ボクのせい』で商業映画監督デビューを果たし、2023年に公開された『Winny』は異例のロングランヒットを記録した。主な監督作品は、ドラマ「シリウスの反証」(2026/WOWOW)、『透明なわたしたち』(2024/ABEMA・Netflix)
作品情報
Netflix映画『This is I』
「アイドルになりたい」と夢を抱きながら“自分らしさ”に悩み、周囲の視線に苦しんでいた大西賢示。その運命を変えたのは、一人の医師との出会いだった。過去に患者を救えなかったことで苦悩を抱える医師・和田耕治は、賢示との出会いをきっかけに、それまで知らなかった性別違和を持つ人々の苦悩に初めて向き合う。そして賢示は、和田医師が初めて執刀する性別適合手術の1人目の患者となる。偏見に晒されながらも信念を貫き、性別移行に真摯に向き合う中で「本当の医療とは何か」を悩み、患者に寄り添い続けることを選んだ和田。そして、性別適合手術という決断を通じて自身が望む“本当の自分”を確立していく決意をした賢示。世間の反発や逆風の中で孤独を抱えていたふたりが築き上げたのは、かけがえのない信頼と絆だった。孤独を抱えたふたりが互いを支え合い、自分らしく生きるための道を見つけていく。
監督:松本優作
出演:望月春希、木村多江、千原せいじ、中村中、吉村界人、MEGUMI、中村獅童、斎藤工
Netflixにて世界独占配信中
作品ページ netflix.com/thisisi
