
夕暮れ時、紫色のアスターの花に身をあずけてじっとしているマルハナバチを見たことはあるでしょうか。
まるで花に抱かれて眠っているようなその姿を見ていると、ふとこんな疑問が浮かびます。
「マルハナバチは夢を見るのだろうか。そしてもし見るなら、それは花の夢なのだろうか」と。
そして近年の研究は、私たちが思っている以上に、ハチの心が複雑で、夢を見ている可能性もあることを示しているのです。
目次
- ハチにも「気分」はあるのか?
- ハチは眠り、記憶を整理している
ハチにも「気分」はあるのか?
マルハナバチやミツバチは、単に本能で動く小さな機械ではありません。彼らは学習し、記憶し、経験をもとに行動を変えることができます。
特に注目されているのが「認知バイアス」と呼ばれる現象です。
これは、曖昧な状況を楽観的にとらえるか、悲観的にとらえるかという傾向のことです。
ある実験では、ハチに甘い液体と苦い液体をそれぞれ異なる匂いと結びつけて覚えさせました。その後、どちらとも言えない「中間の匂い」を提示します。
もしハチがすぐに近づけば、「もしかしたら甘いかもしれない」と楽観的に判断していると考えられます。逆に、ためらえば悲観的な解釈をしている可能性があります。
実際、巣を揺らして捕食者の襲撃をまねた後のハチは、この曖昧な匂いを避ける傾向がありました。
一方で、事前に甘い報酬を与えられたマルハナバチは、より積極的に曖昧な匂いに近づきました。
これはハチが一時的な刺激だけでなく、「気分」のような持続的な状態を持っていることを示唆します。
つまりハチにも、機嫌が良いときと悪いときがある可能性があるのです。
ハチは眠り、記憶を整理している
さらに興味深いのは、ハチが眠るという事実です。
マルハナバチの眠りは、じっと動かない深い休息状態と、触角がぴくぴく動く活動的な状態を交互に繰り返します。
これは人間の深い眠りとレム睡眠に似たリズムです。
ミツバチの研究では、学習した匂いを睡眠中に再び提示すると、目覚めた後の記憶が強まることが確認されています。これは睡眠中に記憶が整理されていることを意味します。
私たち人間では、レム睡眠の間に夢を見ることが知られています。
ハチが人間と同じように夢を見ていると断定することはできません。しかし、眠りの中で記憶を再生している可能性は十分にあります。
もしそうなら、彼らは何を思い出しているのでしょうか。
一日中訪れた花の色や香り、蜜の味、そこへたどり着く道筋。あるいは、温かい巣の記憶かもしれません。
晩秋、米国ニューイングランド・アスターの花は日中の太陽光を吸収し、周囲より少し温かくなります。夜になると花弁が閉じ、花の中はやわらかな寝床のようになります。
そんな場所で眠るマルハナバチが、花の香りに包まれながら、その日の採餌を「思い返している」と想像するのは、あながち非科学的とは言えないのです。
小さな命の内側を想像する
もちろん、アスターの蜜を吸うハチが「幸せかどうか」を直接測った研究はありません。夢の内容を確かめる方法も今のところありません。
しかし、ハチが学び、記憶し、気分のような状態を持ち、睡眠中に情報を整理していることは、実験によって確かめられています。
その事実は、彼らの内側に何かしらの「主観的な世界」がある可能性を示しています。
秋の花の上で静かに眠るマルハナバチ。その触角がわずかに震えるとき、もしかすると彼らは花の夢を見ているのかもしれません。
参考文献
The Dreams of a Bumblebee in Autumn
https://nautil.us/the-dreams-of-a-bumblebee-in-autumn-1266834/
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

