ブランドのアイデンティティとなるメガネを作り続けたい──。カーニーが歩んできた12年間から、セルロイド眼鏡の今を知る。

絶滅危惧素材セルロイドにこだわって
今年2月に2店舗目となる直営店「sost.(ソスト)」を自由が丘にオープンしたメガネブランド「kearny(カーニー)」。同ブランドといえば、創業当時からセルロイドにこだわったアイテム作りのイメージがあるが、今現在その方向性はどのように変化しているのか。ブランドのディレクターである熊谷富士喜氏が、セルロイドの現在とブランドの今後について語る。
セルロイドメガネといえば原材料の管理の難しさから工場の閉鎖が相次ぎ、いまやメガネ店でもセルロイドを使ったアイテムはほとんど見かけることはなく、超希少素材の一途を辿っている。
「2013年にブランドを創業したので、今年で12年が経ちますが、セルロイドの確保は年々大変になっています。そもそも古いメガネを好きになるきっかけがセルロイドという素材からでした。それが学生の頃で、いまから20年くらい前の話。その時ですら調べるともう“絶滅危惧素材”だったので、いよいよ絶滅かなと(笑)」。
カーニーはもともと全アイテムをセルロイド素材で作るブランドとして話題を呼んだ。現在のラインナップについて熊谷氏は以下のように語る。
「現在は全体の20%を維持するのでやっとです。2021年頃アジアの工場で大規模な爆発事故があり、その影響で大手セルロイド工場が完全にストップ……。まったく材料が手に入らない状態になってしまったんです」。
2021年といえばコロナ禍真っ只中。当然そのダメージもあり、いよいよアセテート素材のメガネ作りに着手したという。
「最初はやっぱり残念というか、セルロイドメガネへのこだわりはブランドのアイデンティティだったので、それを崩すというのはすごく葛藤がありました。でもこのまま何もしなければブランドが停滞し、下手したら終わってしまうという危機感の方が大きかったかな」。
そうして生まれたのが佐渡の石をモチーフにしたシリーズ「グラベル」だった。
「セルロイドってフロントは4㎜厚までが限界で、それ以上細く薄くするには芯を入れないと折れてしまいます。それに比べてアセテートは弾力性に優れるのでかなり薄くできる。デザインの幅がとても広がりました。もともとセルロイドならではのもどかしさというか、『アセテートならこうできるのに』みたいな感覚は間違いなくあったので、使ってみるとやっぱりアセテートも悪くない……いやむしろ楽しいなって(笑)」。
アセテートを使うことでブランドとして奥行きが生まれたという熊谷氏。雨降って地固まるとはまさにこのこと。2022年からスタートした新ライン「acekearny(エーシーカーニー)」は脱セルロイドラインであり、アセテートフレームにも精力的に取り組んでいる。
セルロイドメガネはプロダクトじゃない
「さっきうちのラインナップでセルロイドフレームの割合は20%くらいといったのですが、メガネ業界全体で考えるとセルロイド素材のメガネの流通量は体感ですが0.1%も満たないのではないかと思います。しかもセルロイドは発火性が高く、保管するにも規制があるなどコストもかかる。そりゃあ素材メーカーは減る一方ですよね」。
しかしセルロイドで作られたメガネ、これだけでこだわりやクラフトマンシップを感じる愛好家が少なからずいる。熊谷氏自身もそのひとりであり、セルロイドには人を惹きつけてやまない魅力があるという。
「個人的にはセルロイドのメガネはプロダクトだと思えないんですよね。もっと“民藝”に近いというか。セルロイドメガネを作れるのは世界中で日本だけです。それは日本の技術力の高さの裏返しであって、ひいては職人さんたちのモノづくりの技で紡いできたものだと確信しています」。
日本の高い技術力を示す存在であるセルロイドメガネ。一見輝かしいもののように感じられるが、一方でその技術力の高さが足枷となり、セルロイドメガネに厳しい現実をもたらしているという。
「これはメガネに限った話ではないのかもしれないですが、やはり職人さんの高齢化は素材不足と同じくらい大きな問題です。メガネってパーツごとに本当に細かく分業化が進んでいるので、ひとつのパーツの工場が閉業するだけで製品が完成しなくなります。定番モデルと簡単に言っていますが、まったく同じモノを変わらずに作り続けることがいかに難しいことなのか年を経るたびに痛感していますね」。