
2026年2月13日、ハロー!プロジェクト30周年プロジェクトの一環として、熱望されていたハロプロの楽曲がサブスクで全面解禁された。現時点でその楽曲数は3219曲(シングル547作品、アルバム157作品)。そして、この楽曲の大半を作詞作曲してきたのが、総合プロデューサーのつんく♂だ(2014年に退任するまで。以降はモーニング娘。のサウンドプロデューサー)。古参のファンにとってハロプロと言えば、やはり“つんく♂の音楽”になる。そして、つんく♂のハロプロ曲と言えば、ガヤ、スルメ、トンチキというのも定番だ。むしろこのつんく♂三奥義こそがハロプロ曲の真髄だ。隠れた名曲という王道コラムではなく、本記事ではサブスク全面解禁を記念したつんく♂三奥義の楽曲を10選紹介したい。
■つんく♂がうるさい曲
サブスク解禁のニュースと同時に、ファンの間ですぐに話題になったのが「つんく♂がうるさい曲」だ。つんく♂総合プロデューサー時代のつんく♂作詞作曲のハロプロ曲には、だいたいコーラスや音のアクセントとしてつんく♂の声が入っている(レコーディングで入れている)。モーニング娘。は女性ボーカルグループなので男性ボーカルで幅を出すこと自体は理にかなっているのだが、時折つんく♂の声がうるさいくらい入っているものがある。
有名なのは、Berryz工房のデビュー曲「あなたなしでは生きてゆけない」(2004)。異国情緒なメロディーが刺さる超良曲、ハロプロの中でも屈指の名曲なのだが、同時にハロヲタに「つんく♂がうるさい曲は?」と聞けば、真っ先に出てくる曲でもある。サビからつんく♂がハモり、コーラスで入り、主旋律のメンバーたちは声の張りを抑え気味に歌っているため、つんく♂の声がかなり前面に聴こえてくる。
一方、モーニング娘。の「SEXY BOY ~そよ風に寄り添って~」(2006)は、かなりガヤだ。MVもメンバーが衝撃的に可愛く、ファン投票で必ず上位に入る人気のナンバーだが、「セクシーふわふわ、セクシーうえうえ」と入るつんく♂のガヤも大人気だ。間奏でも呪文のように声が流れてくる。それなのにやっぱりいい声をしているのがコノヤロー!だ。藤本美貴、田中れいなのこれぞハロプロという子音の尖ったソロパートにも注目だ。
そして、松浦亜弥の「THE美学」(2002)。ガヤやコーラスというレベルではなく、ずっとつんく♂がフルで松浦と一緒に歌っている。もはやデュエットで、ミキシングでつんく♂のトラックを大きくして聴きたいほど。世間的にも有名なヒット曲だが、つんく♂の声に注目して聴いたことがなかったという人は、これを機に意識して聴き直してみてほしい。どの曲もイヤホンで聴くとより鮮明につんく♂の声を聴き取ることができるが、あまり聴きすぎているとつんく♂がうるさくない曲でも幻聴でつんく♂の声が聴こえてきてしまうので注意が必要だ。
■つんく♂のトンチキソング
次はつんく♂のトンチキソング。ユニークだとか、奇をてらっただとか、そういう論評めいた言葉は似合わない。ストレートにトンチキだ。一説によればつんく♂が「ピコーン!」としたときに出てくるらしい。たいていはセールス的に苦戦することが多く、ライトなハロヲタには聴く機会が少なかった人も多いだろう。そんなトンチキソングもサブスクなら聴き放題だ。
代表曲は、やはりBerryz工房から。愉快な個性派集団だったBerryz工房には、つんく♂も意図的に毛色の違う楽曲を書いていたようだ。そんな中での一曲が「行け 行け モンキーダンス」(2008)。トンチキソングだが、“楽しいハロプロ”を象徴するような迷(名)曲とも言える。やっていることはトンチキの極みだが、曲と歌が良すぎるため何度でも聴けてしまうのがちょっと悔しい。MVではメンバーたちがウッキッキのお猿さん衣装を着ているのでそちらも見る価値ありだ。
“アイドルが憧れるアイドル”と言われたプロフェッショナルアイドルの℃-uteにも、ハロプロらしくやっぱりトンチキな持ち歌がある。「ズンタカマーチ 〜人らしく生きよう〜」(2012)はアルバム曲なので知らない人も多いだろう。戦後の昭和歌謡曲をオマージュした楽曲で、植木等や坂本九を思い出す。つまりふざけたトンチキ曲ではないのだが、なぜ℃-uteにこの時代感あふれる曲を歌わせようと思ったのか。イメージのギャップという点で挙げてみた。それにしても岡井千聖の声はこうしたべらんべえ調の曲によく似合う。
せっかくなのでハロプロ研修生からも一曲。「おへその国からこんにちは」(2013)はつんく♂に慣れたハロヲタには良曲と歓迎されたが、普通にトンチキ。ハロヲタはもっと冷静になってほしい。曲は「なあみんな、へそんとこよろしく!」というおかしな呼び掛けから入り、「おへその国からこんにちは」と始まっていく。「おへその国」とは何なのか。真面目に考察すると、当時のハロプロはチューブトップで腰履きのミニというセクシーな衣装がデフォルトだったので、「おへその国=ハロプロ王国」なのかもしれない。
■つんく♂のスルメ曲
“噛めば噛むほど”と同じく、聴けば聴くほど良さが分かってくるのがつんく♂のスルメ曲だ。つまり最終的には良曲認定されることが多いのだが、その良さは本当に聴き込むまで分からない。一度はフタをしてしまっても、微妙に耳に残り、また聴いてしまう。そしていつしか耳から離れなくなり、何度もリピートする曲になっているというものだ。
モーニング娘。の「青春小僧が泣いている」(2015)は、聴ける曲なのだが乗りにくい曲というもの。Aメロはフレーズごとにバッキングも消える空白の間が入り、リズムが途切れる変わった構成。いろは歌からのサビの疾走感、並走するEDMサウンドが気持ちよくて、乗れないと思いつつ何度でも聴いてしまう。つんく♂はグループのカラーに合わせた楽曲提供がうまいが、モーニング娘。にはこういう実験的な曲が多くある気がする。プラチナ期(後に評価された2007~2011年の時代)のように後年、圧倒的に評価されるときが来るのか、早く時代がつんく♂に追いついてほしい。
2曲目は℃-uteの「The Power」(2014)。イントロから密教風オリエンタルで、「Berryz工房に渡す曲だったのでは?」と思うほどダンスアッパーな℃-uteにとっては珍しい曲。妖艶で神秘的なメロディーがぬるぬる延々と続いていき、聴けば聴くほど沼っていく。数か所入る中島早貴のら行の巻き舌も聴きどころだ。ちなみに歌詞はサクッと世界に羽ばたく自己肯定感爆上げソング。MVは密教テイストで、曼荼羅風の謎シーンも。
そして、Berryz工房の「一億三千万総ダイエット王国」(2014)。タイトル的にはトンチキ枠に入れたくなるが、音楽的にはスルメ曲。サウンドとボーカルはクールな格好よさで聴かせる本曲はどこがスルメなのかというと、その歌詞だ。ダイエット曲かと思いきや、主人公の女の子はダイエットしようなんて一言も言わない。ダイエットも体型のことを指しているとは限らない。「生きてる意味を知りたい」「愛する意味を知りたい」「私の本当の意味を知りたい」というフレーズの歌詞を読み解くのは難解だ。しかし、この奥の深さが女性の共感を呼び、自分のために何度も繰り返して聴かれる曲となっている。
■トンチキ×スルメ×ガヤ、三拍子そろった最高峰の一曲
最後の10曲目は、トンチキであり、スルメであり、つんく♂の声もいい塩梅で楽しめるという、3つが揃った最高峰の一曲、「THE マンパワー!!!」(2005年)だ。これは当時創設されたプロ野球新球団、東北楽天イーグルスの公式応援歌として作られたシングルだ。人気が落ち着いていたモーニング娘。がプロ野球チームの公式応援歌を担当すると知ったとき、どんなアッパーソングが来るのか、話題になるのを楽しみにしたものだが、披露されたのはアンダーで、幾度も「マンパワー」というフレーズを繰り返す怪曲だった。
田中れいなのソロで「グラウンドで~」というワードが唯一野球の応援歌っぽい箇所だが、東北の球団なのに「ものごっつい」と大阪弁を7回も歌ってしまっている。バックトラックも低音ドラムが鳴り続けて単調だ。初めて聴いたときの印象は、「応援歌って、その場でもっと乗れるもんじゃないの?」。これは当時聴いた誰もが同意してくれるはずだ。球場で披露されたときの一般人の置いてきぼり感はすごかった。
しかし、歌詞は漲るマンパワーを歌った奥が深いもの。アンダーな音のわりにはボーカルラインは上がっていき、高揚感もじわじわと湧いてくる。聴き続けると「マンパワー」が耳にこびりつき、どんどん癖になっていく。高橋愛のシャウトが来るのも待ち遠しい。正直、今ではハロプロ全曲の中でも上位に入るほど大好きな曲だ。楽天イーグルスで歌い継がれていないのが残念でならないが、そこはやはり凡人には理解が難しい、つんく♂の非凡の才が生んだ曲なのだろう。
つんく♂自身もこの曲の誕生には相当満足しているようで、リリース時のセルフライナーノーツでは、「2005年のさきがけといたしましては、最高の出来栄えだと自画自賛しております。」と自負している。さらには2013年のアルバム「The Best! ~Updated モーニング娘。~」には、「LOVEマシーン」や「One・Two・Three」といったヒットナンバーと共に、この曲もアップデートアレンジ版を収録。つんく♂の中ではやっぱりベストな曲なのだ。ちなみにこちらの「THE マンパワー!!!(Updated)」は原曲が目じゃないほどつんく♂コーラスも三倍増しにアップデートされている。
「テルマエ・ロマエ」のようなローマ中世風の衣装、曲の世界観とマッチしたホモサピエンスダンス、顔面偏差値が高すぎる2005年のメンバーという三拍子も揃ったMVもぜひ見てほしい。
以上が今回お勧めする10曲だが、3219曲の中にはまだまだ屈指と言える同タイプの曲が山ほど存在する。それらはぜひハロヲタの精鋭たちで教え合ってほしい。
◆文=鈴木康道

