宇宙のはじまりは、静かにゆっくりと進んだ──。長い間、そう考えられてきました。
ところが、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(以下、JWST)が捉えたのは、その想像とはまったく違う光景でした。ビッグバンからわずか約8億年後の宇宙で、5つの銀河がごく狭い範囲に集まり、激しくぶつかり合いながら一体化しつつあったのです。 この発見は「初期宇宙の銀河は小さく、孤立していた」というこれまでの常識を覆すものでした。
小さく孤立していたはずの初期宇宙で起きていた異変
これまで天文学者たちは、宇宙が誕生して間もない頃の銀河は、小さく、互いに距離を保って存在していると考えてきました。銀河同士が本格的に衝突し、合体を繰り返すのは、もっと時間がたってからだと想定されていたのです。
ところが、JWSTはその想定と正反対の光景を捉えました。今回見つかった銀河の集まりは、「JWSTのクインテット」と呼ばれています。5つの銀河は数万光年離れているものの、銀河としては異常なほど密集しており、互いの重力に引き寄せられて衝突を続けていました。
さらに驚くのは、その活動量です。この銀河群では、5つの銀河がごく狭い範囲で激しく衝突・融合していました。その結果、1年に太陽およそ250個分の星が新たに生まれるという、当時としては考えられないほどのスピードで“星の大量生産”が進んでいたのです。
銀河の外にまで広がっていた衝突の影響
今回の研究では、銀河そのものだけでなく、その周囲の空間にも注目すべき変化が見つかっています。
JWSTは、銀河のまわりに広がる淡い光を放つガスの広がりを観測しました。これは、銀河を包み込むように存在するガスの集まりで、専門的には「ハロー」と呼ばれます。簡単に言えば、銀河の周囲に広がる“ガスの雲”のようなものです。
このガスの中には、酸素などの重い元素が含まれていました。酸素は星の内部でしか作られない元素です。そのため、本来は銀河の外に大量に存在するはずがありません。
研究チームは、銀河同士が強く引き合い、ぶつかる過程で、内部のガスが外へ引きずり出されたと考えています。こうした重力による引っ張り合いは「潮汐力」と呼ばれますが、要するに、衝突によって銀河が“引き裂かれるような状態”になったということです。
また、銀河内部で活発に生まれた星の影響で、ガスが外へ吹き出す現象も起きていた可能性があります。これは「銀河風」と呼ばれ、星の誕生が激しいほど強くなります。
つまり初期の宇宙では、銀河の衝突が周囲の空間にまで影響を及ぼし、宇宙の環境そのものを作り変えていた可能性があるのです。

