カール・ゴッチと動物園に行って…
――藤波さんは20代前半の若い頃、米国フロリダ州の“プロレスの神様”カール・ゴッチさんのもとで数ヶ月間修行してたんですよね。
藤波 あの時、ゴッチさんはもう50代で試合はしてなかったんだけど、トレーニングは毎日欠かさず続けていたからね。
――ゴッチさんは82歳で亡くなる直前までずっとトレーニングを続けて、生涯レスリングを追求していたそうですからね。
藤波 そうでしょ? ゴッチさんは「レスラーにとって最も大事なことはトレーニング、コンディショニングなんだ」っていうことを常に言っていたからね。技の研究ももちろん熱心なんだけど、それ以前に「まず、自分の身体を常に動ける状態にしておかなきゃいけないよ」と、いっつも言われてましたよ。
――そういうゴッチさんの姿勢が、藤波さんに強い影響を与えたわけですね。
藤波 僕も若かったからね、それをすべて素直に聞いて、フロリダではとにかく毎日練習ばかりでしたよ。ゴッチさんのところは、バーベルとかウェイト器具が一切ないんだもん。器具といえば、コシティとか、ロープ登りとか、体操の吊り輪、それしかないからね。そんな練習ばっかりしてたら、そりゃコンディションはよくなるよ(笑)。
――藤波さんは、1978年にWWWF(現・WWE)ジュニアヘビー級王者として、当時のプロレスラーとしては珍しい脂肪の少ないバキバキな身体をしていましたけど、あれは見栄えのいい身体にしようと思ったわけじゃなく、トレーニングで自然とああいう身体になったんですよね?
藤波 そう。僕は本当は体重を増やしてお腹を出したかったんだから。でも、ゴッチさんのところでずっとトレーニング漬けの日々だったので、太れなかったというだけでね。
――ストイックな生活を強いられていたわけですね。
藤波 ゴッチさんはもともとアマチュアのオリンピック選手だったでしょ?(1948年ロンドン五輪ベルギー代表) プロレスの考え方が、いまの総合格闘技みたいなんだよね。だから、あの人はアメリカンプロレスを観なかったから。
――エンターテインメント的なことではなく、とにかく強さを求めていた、と。
藤波 僕がフロリダのゴッチさんの家にいた時は、日本からプロレス雑誌が送られてくるのが月に一度の楽しみだったんだけど、「こんなの見る必要ない」って全部没収だもん。その代わり、「おまえはこれを読め」って渡された本が分厚い昔のパンクラチオンが載っているような技術書だからね(苦笑)。そんなのばっかりだもん。
――マインドコントロールですね(笑)。
藤波 それで練習休みの日に動物園に連れていってくれたことがあるんだけど、ゴッチさんの場合は動物を見て楽しんだり、癒されたりするために行くんじゃないから。ゴリラとかライオンの檻の前でじーっと観察してね。筋肉の動きを参考にしようとしている。「ああいう筋肉をつけなきゃいけないんだ」って、野生動物と一緒にされちゃうからね(笑)。
昭和の日本の道場は根性論だった
――そういったゴッチ道場での日々が、こんにちの藤波さんのベースになってるわけですね。
藤波 ああいう練習を毎日やっていたから本当にコンディションが良くて、当時は1時間でも2時間でも試合ができそうなくらいだったから。
――今回の本に出てくる「コシティ」のトレーニングも、ゴッチさんが新日本の道場に導入したんですよね?
藤波 そう。あれはインドや中近東のレスリングの選手が昔からやっていたトレーニングで、野球のバットを何倍にも太くしたような棍棒を振り回すんだけど、ゴッチさんが新日本の道場に取り寄せてくれたんだよね。あれは肩やヒジの柔軟性を養うのに最適だし、グリップも鍛えられる。また、重いコシティを振り回すから、体幹や下半身の強化もできるんだよね。
――コシティのトレーニングは昭和の新日本道場の象徴みたいな感じがありましたけど、当時はコシティなんか手に入らないから、真似したくても真似できなかったんですよね。でも、今回の本ではコシティの代わりに水を入れたペットボトルでも同じようなトレーニングができるって書いてあったので、早速真似したくなりました(笑)。
藤波 本物のコシティはすごく重くてあれを振り回すのは難しいんだけど、一般の人なら500mlのペットボトルでもけっこういい運動になるし、肩のストレッチにもなる。一般の人は、われわれレスラーと同じ運動をする必要はないわけだから。
――昭和のプロレス少年は、「プロレスラーはヒンズースクワットを3000回やる」って聞いて自分でも真似してみて、100回くらいやって筋肉痛になった経験は誰しももってますけどね(笑)。
藤波 ゴッチさんの練習は理にかなったものなんだけど、昭和の日本の道場は根性論だったからね。鍛えたプロレスラーでも屈伸運動を3000回、4000回とやったらヒザを壊しますよ(笑)。だから、今回出した僕の本を読んでくれる人たちには、家でもできるストレッチとか、そういった部分を真似してほしいね。
取材・文/堀江ガンツ 撮影/甲斐啓二郎

