
アメリカのニューヨーク大学(NYU)で行われた研究によって、スピーカーと発泡スチロールのビーズを2つを使用して、普通の力学で現れる時間結晶(古典的時間結晶)を手に持てるサイズで作ることに成功しました。
この揺れは外から一定のリズムで揺らしているわけではなく、ビーズと音の波がつくる環境から自然に生まれるリズムです。
しかもそのカギは、学校で習う「作用と反作用は等しい」というニュートンの第3法則が、ビーズ2個だけを見ると成り立っていないように見える、という少し意地悪な状況でした。
この実験は、「時間結晶」という難しそうな概念を、量子コンピュータのような装置や極低温装置も使わず、理科室にありそうな材料で実現してみせた点で、とてもおもしろい一歩になっています。
研究内容の詳細は2026年2月6日に『Physical Review Letters』にて発表されました。
目次
- 量子の世界から日常サイズへ
- 作用≠反作用に見える世界から、手のひら時間結晶が生まれた
- エンジンなしで場からエネルギーを吸収して動く物質が教えてくれること
量子の世界から日常サイズへ

私たちの身の回りには、いろいろな「リズム」があります。
目覚まし時計のチクタク、心臓のドクドク、駅に向かう足音のテンポ。
多くの場合、そのリズムには「元になる何か」がいます。
バネとおもり、電池と歯車、脳の信号など、外からリズムを作ったり整えたりする仕組みが必要です。
しかし一部の物質は外からの強制的な合図がなくても、自分で勝手にリズムを刻み続ける「物質の状態」を持っておりこれが時間軸に対して同じ構造を持つという意味で「時間結晶」と呼ばれるようになりました。
時間結晶は、理論的には10年ほど前に提案され、その後、量子系などで少しずつ実験的に確かめられてきました。
ただし、その多くは複雑な装置や多数の粒子を必要とし、私たちが「手で持って眺める」ようなものではありません。
そこで最近注目されているのが、「古典時間結晶(日常サイズの世界で起こる時間結晶)」というアイデアです。
目に見えるサイズの粒子を時間結晶のように周期的に動かす試みだと言えるでしょう。
このタイプの時間結晶を動かす仕組みとして考えられていたのが「波」です。
実は、波や光のように、途中でエネルギーや運動量を運び去ってしまう仲介役がいると、何もエンジンを持たない粒たちが、一定のリズムを刻み始める状態になり得ると考えられているからです。
しかし、それを実験的にきれいに示した例は多くなく、とくに「ごく少ない粒数で、しかも連続時間結晶の条件を満たす状態」を作るのは難題でした。
そこで今回研究者たちは、ビーズと音波という意外な方法で、目に見える時間結晶の構築に挑みました。
作用≠反作用に見える世界から、手のひら時間結晶が生まれた

本当に目に見えるサイズの時間結晶なんてつくれるのか?
研究チームはまずスピーカーから超音波(人には聞こえないくらい高い音)を出して、その音を空間の中で重ね合わせることで、山と谷が決まった場所に止まっている波を作りました。
この波の「谷」の部分では、空気の圧力のゆれが小さい節になっていて、小さな“空気のくぼみ”のような場所ができます。
発泡スチロールのビーズをそこに入れると、そのくぼみがビーズを四方から押さえつける形になり、ビーズは重力に逆らって空中でふわっと止まります。
こうして1個だけ浮かせることもできますが、研究ではこの「くぼみ」が並んだ場所に、少し大きさの違うビーズを2個並べて浮かせました。
浮かべた直後は、2個ともほとんど動かず、空中でじっとしているように見えます。
しかし現実には、空気のわずかなゆらぎや装置の微妙な振動のせいで、ビーズはごく小さく前後にゆれています。
ここからが本番です。
ビーズは周りの音の波をさえぎる「小さな壁」であり、同時に「小さな反射板」でもあります。
1個のビーズが音の波を散乱させると、その近くの“空気のくぼみ”の形が少し変わり、そのゆがみが、ビーズ自身を特定の方向へ押す力として働きます。
もう1個ビーズを置くと、お互いが散乱した音によって、相手のまわりの圧力分布を変えてしまいます。
その結果、「相手がいるせいで自分にかかる音の押す力が変わる」という、見えないバネでつながったような関係が生まれます。
ここでサイズの違いが効いてきます。
大きいビーズは、より多くの音を散乱させるため、相手の周りの圧力分布を強くゆがめます。
つまり「相手を強く押す」側になります。
一方、小さいビーズは散乱する音が少ないので、相手への影響は弱く、「押し返す力」は相対的に小さくなります。
ビーズ同士だけに注目すると、「押した力」と「押し返された力」がきっちり同じには見えず、わずかにアンバランスな押し合いが成立します。
水に浮かぶ大小の船でたとえると、2隻の船は、それぞれが起こした波で相手を押しますが、体の大きい船の方が波をたくさん作り、小さい船をより強く揺さぶってしまいます。
小さな船の起こす揺れも確かに存在しますが、大きな船を揺らす力は僅かです。
大きなほうが強く押せるのに、小さな方は強く押し返せないという状態です。
しかしこのアンバランスは、ニュートンの法則違反ではありません。
見えない役者として「音の波」がいて、そこが運動量を持ち去ったり持ってきたりしているからです。
ビーズ2個だけを切り取ると帳尻が合っていないように見えますが、「ビーズ+音の波」まで含めた全体では、行きと帰りのバランスはきちんと保たれています。
次に研究チームは、高速カメラでビーズの動きを長時間撮影し、その映像をコンピューターで解析することで、「最初は小さかったゆれが、少しずつ一定の大きさの振動へと育っていく」様子を確かめました。
もちろん、ビーズは空気の中を動いているので、動くたびに空気抵抗でエネルギーを失っています。
ところがこの実験では、ビーズの大きさの組み合わせや音の強さをうまく調整しているので、「音からもらう分」と「空気に奪われる分」がちょうど釣り合う条件を作ることができます。
そうなると、揺れの速さ(周波数)はある値「66ヘルツ前後」でピタッと落ち着き、その後は超音波は出し続けたまま、外からいじらなくても、同じリズムと同じ振幅の振動が少なくとも6700周期以上続きました。
このリズムは外部から「指定」されたわけではなく、音の波とビーズの大きさという自分たちだけの性質から生まれ、周期的に繰り返されます。
こうして、時間が経っても止まらない安定した振動=時間結晶を手に取るサイズに拡大した「古典的な時間結晶」が実現します。
理論解析では、この2粒子系が4種類の動的状態をとれることも示されています。
そのうち2つは外から一定のリズムで揺すらなくても動き続ける「活性定常状態(外部の波からエネルギーを取り出して続く状態)」であり、その1つが今回観測された連続古典時間結晶です。
研究者たちは、時間結晶モードでは空間と時間の対称性(いつ・どこを見ても同じという性質)が自発的に壊れ、系が安定した“周回軌道”に乗っていること、さらにその裏側に「パリティ時間対称性(PT対称性)」の破れと「例外点」が潜んでいることも示しました。

