4連勝で首位を走るナポリを、3位ミランがサン・シーロに迎えたセリエA序盤の首位攻防戦は、開始31分までに2点を挙げたミランが、最後の約30分を10人で戦いながらリードを守り切って2-1で勝利。勝点で並んだナポリ、ローマを得失点差で上回って首位に躍り出た。
開幕からまだ5試合目という現時点で、目先の勝ち負けや順位に過度にこだわることにはあまり意味がない。その観点を脇に置いてこの試合を見た時に強い印象を残したのは、両チームの完成度の差だった。
ナポリはケビン・デ・ブライネ、ミランはルカ・モドリッチと、キャリアのピークを過ぎたワールドクラスを補強の目玉として獲得し、彼らをどのようにチームに組み込み機能させるかが、シーズン序盤の大きな課題となっている。この試合ではまさにその点における違いが浮き彫りになったように見えた。
ミランは、新監督マッシミリアーノ・アッレーグリがプレシーズンから開幕直後にかけて続けてきた試行錯誤を経て、ここ2~3試合でチームが固まり、明確なアイデンティティーを帯びつつあるように見える。大きいのは、移籍マーケットの期限ぎりぎりに「棚ボタ」に近い形で獲得したアドリアン・ラビオが「ラストピース」としてぴったり収まったこと。これで中盤が安定し、モドリッチを司令塔として中核に据えたチームの構造が確立された観がある。
一方のナポリは、2年目のアントニオ・コンテ監督が、昨シーズン確立したチームの構造に手を加える形でデ・ブライネの居場所を作り出そうとしているが、その試みがまだうまくいっておらず、特に攻撃の局面で、彼の持ち味を引き出すことも、チーム全体のバランスを確立することもできていない。
この試合でも、最後の約30分を1人多い状況で戦ったにもかかわらず、受けに回ったミランのローブロックを崩すきっかけを作り出すことすらできず、デ・ブライネは70分過ぎに交代でピッチを去っている。
ここでは、勝ったミランに焦点を当てて、この試合で浮き彫りになったチームの現状を掘り下げていきたい。ミランのアッレーグリ監督がピッチに送り出した布陣は以下の通り。
ミラン(3-5-1-1)
GK:メニャン
DF:トモリ、ガッビア、パブロビッチ
MF:サーレマーケルス、フォファナ、モドリッチ、ラビオ、エストゥピニャン
OMF:プリシック
FW:ヒメネス
8月に戦った開幕からの2試合では、中盤が上記からラビオを除いた4人、ルベン・ロフタス=チークとクリスチャン・プリシックをトップ下に並べた3-4-2-1が基本配置だった。ラビオが加わった第3節のボローニャ戦では、ラビオを中盤に加える一方でプリシックを外した3-5-2、前節のウディネーゼ戦とこのナポリ戦では、同じ3-5-2でトップ下をロフタス=チークからプリシックに替えた上記の布陣となっている。
中盤に加わったラビオは、攻守両局面で広い範囲をカバーして攻守のバランスを担保することができる万能型のMF。アッレーグリが志向する、チームの重心を低めに設定して、ボール保持時にはピッチを大きく使って攻撃するスタイルには不可欠なタイプであり、ユベントス時代にも常に重用されてきた。
ユベントスとの契約満了後、昨シーズンからマルセイユでプレーしていたが、今シーズンの開幕戦後、ロッカールームでチームメイトと大喧嘩してロベルト・デ・ゼルビ監督の不興を買い事実上の追放処分を受けたことで、元々指揮官の強い要望で獲得を望んでいたミランが飛びついたという格好だった。
そのラビオが左インサイドハーフに入って、右のユースフ・フォファナとともにモドリッチの両脇を固める構成となった中盤は、クオリティーにおいても強度においてもセリエA屈指のレベルにある。
攻撃時には、モドリッチが中盤の底でレジスタ(ゲームメーカー)として攻撃の方向性とリズムを作り出し、フォファナとラビオは左右の広いエリアを動いてサポートを提供。さらに機を見て前線に攻め上がって攻撃に厚みをもたらす。守備時には、フォファナとラビオが運動量とデュエルの強さを活かした前に出る守備で相手の中盤と渡り合い、モドリッチはその後方で危険なスペースをケアしながら、鋭い読みで相手のパスをインターセプトする。
この中盤がピッチ中央で常に大きな存在感を発揮することでチーム全体の構造が安定し、両サイドのアレクシス・サーレマーケルスとペルビス・エストゥピニャン、そして前線のプリシック、サンティアゴ・ヒメネスは自由かつ積極的に振る舞うことが可能になった。
アッレーグリはラビオ加入後最初のボローニャ戦では、あえて攻撃のキーマンともいえるプリシックを外し、トップ下によりフィジカルで強度の高いロフタス=チークを入れる、守備の安定を優先した布陣を選んだ。しかしその試合内容を見て攻守のバランスにメドが立ったのか、続くウディネーゼ戦からはロフタス=チークではなくプリシックをトップ下に起用。ラスト30mにおける攻撃のクオリティーを優先した布陣へと移行している。
ウディネーゼ戦で2得点・1アシストとすべてのゴールに絡んだプリシックは、このナポリ戦でも、開始3分に左サイドを単独で抜け出してペナルティーエリアに侵入、大外からファーサイドに走り込んだサーレマーケルスに絶妙のアシストを送り込んで先制点を演出、さらに31分には自ら2-0のゴールを決める大活躍。ラスト30m攻略を一手に担う絶対的エースとしての地位を確立しつつある。
ただし、これは逆から見れば、現在のミランは攻撃、とりわけラスト30mの攻略をプリシックの個人能力だけに依存しているということでもある。この試合でも、左WBのエストゥピニャンがエリア内での不用意なファウルでPKを献上した上に退場になり、1人少ない10人で専守防衛を強いられるまでの約1時間、オープンプレーから作り出した決定機は上で見た2得点の場面以外は、26分にカウンターアタックからフォファナがシュートを放った1回だけ。
その決定機も、裏に飛び出したフォファナに自陣から絶妙なスルーパスを送り込んだのはプリシックだった。さらに言えば、この試合での2得点はいずれも、ナポリの守備陣に故障者が続出したため、今シーズン初めての出場機会を得た若いCBルカ・マリアヌッチのミスに助けられた側面も小さくない。
とはいえミランの前線は、故障離脱から戻ってきたばかりのラファエウ・レオン、新加入でチームに馴染むのはこれからのクリストファー・エンクンクという2人が、まだ本格的に起用される機会がない状態であり、攻撃の最終局面には改善・向上の余地が残されている。現時点で重要なのは、モドリッチ、ラビオという新戦力によってチームの「へそ」と言うべき中盤がしっかりと固まり、全体の構造が安定したことの方だろう。
この試合のラスト30分、10人になったにもかかわらず5-3-1のローブロックでナポリの攻勢を耐え切った事実が示す通り、アッレーグリが何よりも重視する守備の安定は、すでに確立されつつある。ボール保持や地域の支配に強くこだわらず、重心を低めに設定して守備のリスクを減らし、攻撃ではピッチを広く使って前線のアタッカーの個人能力を活かすというアッレーグリのサッカーを実現する「土台」は、現時点ですでにかなり堅固になっていると見ていい。
今後も首位戦線で主役を演じていけるかどうかは、ここにレオンをはじめとする攻撃のクオリティーをどれだけ上乗せして行けるかに懸かっていると言えるだろう。その手始めとなるであろう次節のユベントス戦が楽しみだ。
文●片野道郎
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