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脳トレ四択クイズ | Merkystyle
スタミナは筋力だけでなく、脳内の持久力細胞の鍛えで伸びていた

スタミナは筋力だけでなく、脳内の持久力細胞の鍛えで伸びていた

スタミナは筋力だけでなく、脳内の持久力細胞の鍛えで伸びていた――回路遮断で効果消失
スタミナは筋力だけでなく、脳内の持久力細胞の鍛えで伸びていた――回路遮断で効果消失 / Credit:Canva

長く走れるようになるのは、脚の筋肉や心臓が鍛えられるから──多くの人はそう習ってきました。

ところが、アメリカのペンシルベニア大学(UPenn)で行われた研究によって、運動のあとに働く特殊なニューロンの働き次第で、同じトレーニングでも持久力の伸び方がほぼゼロのときや、逆に大きく伸びることもあるとわかりました。

研究では運動トレーニング後のマウスの脳内を観察されており、運動のあとにSF1ニューロンが強く活動ているほど、長く速く走れるようになっていきました。

そこで運動後にだけ人工的に刺激すると、普通のトレーニングだけの場合よりもずっと遠くまで走れるようになりました。

何の薬剤も使わず脳回路を刺激するだけで、運動効果が跳ね上がるドーピングのような効果が得られたのです。

逆に、このSF1ニューロンからの信号を止めてしまうと、どれだけ走る練習を重ねてもスタミナがほとんど伸びないこともわかりました。

この結果は脳が運動成果を強く握っている可能性を示唆します。

もちろん筋肉鍛錬が無用というわけではありません。

しかし脳側の信号を止めるだけで、筋肉側に起こるはずの適応や持久力の伸びがほぼ消えてしまうと言うのは、衝撃的な結果です。

つまり「持久力を決めているのは脚だけではなく、走り終わったあとに残業している脳の細胞かもしれない」という、新しい見方が浮かび上がってきたわけです。

研究者たちは同様の仕組みが人間の脳にも存在する可能性があると考えています。

しかし、いったいどんな仕組みで脳で持久力が鍛えられるのでしょうか?

研究内容の詳細は2026年2月12日に『Neuron』にて発表されました。

目次

  • 持久力=筋肉の時代は終わり?燃料管理センターとしての脳
  • トレーニングで鍛えられていたのは脳回路だった
  • 持久力トレーニングは脳トレでもある

持久力=筋肉の時代は終わり?燃料管理センターとしての脳

持久力=筋肉の時代は終わり?燃料管理センターとしての脳
持久力=筋肉の時代は終わり?燃料管理センターとしての脳 / Credit:Canva

部活やジムで走り込みをすると、最初はすぐ息が上がるのに、しばらく続けると不思議と長く走れるようになります。

多くの人は「脚の筋肉が強くなったから」「心臓や肺が強くなったから」と考えますし、教科書にもそう書かれます。

実際、教科書レベルの説明では、持久力トレーニングの効果は、骨格筋や心臓、代謝、ホルモンの変化など“末梢のリモデリング(体の作り替え)”が主役だとされてきました。

一方で、運動が脳の神経回路を作り替えることも古くから知られており、新しい神経細胞が増えたり、神経同士のつながり(シナプス)が増えたりします。

ただしそれらは、「運動した結果としての良いおまけ」であって、持久力そのものを生み出す原因とはあまり考えられてきませんでした。

脳の神経同士の接続が多少変わったところで、持久力のような筋肉的なものが変わるはずがないと思われていたからです。

しかし近年、脳内にはどれくらいエネルギーを使用するかを決めている「燃料管理センター」とも言うべき領域が存在することがわかってきました。

そして、その部分にあるニューロン(SF1)の働きが鈍いと、燃料管理が上手くいかなくなり、マウスが運動トレーニングをしても持久力が伸びにくくなることが示唆されるようになってきました。

ただ、その仕組みはよく分かっていませんでした。

そこで今回、ペンシルベニア大学などの研究チームは、「本当に脳内にスタミナにかかわる持久力脳細胞のようなものが存在しているのか?」「存在しているとしたら、操作したら何か変わるのか?」という疑問に挑むことにしました。

トレーニングで鍛えられていたのは脳回路だった

本当に脳内の回路でスタミナが左右されるのか?

答えを得るために研究者たちはまず、マウスをトレッドミルで走らせ、その前後で先に話に登ったSF1ニューロンの活動を調べました。

調査にあたっては神経が活動状態になると光る仕組み(カルシウムイメージング法:活動すると光が変わる観察法)を使用して、1週間の運動の前後でマウスのSF1ニューロンを調べました。

その結果、走り終わった直後に強く反応する活性化細胞の割合が、トレーニング1日目の約3割から、8日目には5割強まで増え、反応の強さも大きくなっていました。

次にチームは、「脳側にも“筋トレ”のような変化が起きているのではないか」と考え、SF1ニューロンの電気的な性質と、神経の枝につく小さなトゲ(スパイン:シナプスの付け根)を詳しく測りました。

すると3週間のトレーニングを受けたマウスでは、SF1ニューロンの自発的な発火頻度が、運動していないマウスの約3倍近くまで増えており、ほとんど動かなかったSF1ニューロンが、ほぼ見られなくなっていました。

また、興奮性シナプスからの入力の頻度も約2倍に増え、樹状突起のスパインの密度もほぼ2倍になっていました。

つまり、運動を続けると、筋肉だけでなく「SF1ニューロン自身も、よく反応する・よくつながるように作り替えられていく」ことが分かります。

では、この“鍛えられたSF1ニューロン”は、本当に持久力アップに必要なのでしょうか。

研究者たちは、同様の3週間の運動トレーニングをテタヌス毒素(神経の信号を止める道具)でSF1ニューロンのシナプスからの出力をほぼ止められたマウスに対して行ってみました。

すると最大酸素摂取量(体が取り込める酸素の最大量)は普通のトレーニングマウスと同じなのに、持久力がほとんど伸びていないことがわかりました。

SF1ニューロンを運動後に不活性化するとトレーニング効果が激減する
SF1ニューロンを運動後に不活性化するとトレーニング効果が激減する / Credit:Exercise-induced activation of ventromedial hypothalamic steroidogenic factor-1 neurons mediates improvements in endurance

さらに、通常なら運動で強くなる筋肉の遺伝子スイッチも、SF1を止めたマウスではほぼ変化しませんでした。

つまり、筋肉側の変化を引き出すには、脳のSF1からの指令が必要だったのです。

最後に、研究チームは「いつのSF1活動が大事なのか」を切り分けました。

研究者たちは光刺激で脳細胞を制御する仕組み(オプトジェネティクス:光で神経をオン・オフする技術)を使用し、運動後に毎回15分だけSF1ニューロンを不活性化させると、持久力が伸びないことがわかりました。

一方、運動が終わったあと1時間にわたってSF1ニューロンを光で軽く刺激してやると、同じメニューをこなしているにもかかわらず、最終的な持久力テストでの走行距離、最大スピード、仕事量(運動でこなした量)がいずれも対照マウスより大きくなりました。

SF1ニューロンを運動後に活性化するとトレーニング効果が激増する
SF1ニューロンを運動後に活性化するとトレーニング効果が激増する / Credit:Exercise-induced activation of ventromedial hypothalamic steroidogenic factor-1 neurons mediates improvements in endurance

この操作をしたマウスでは、対照群より長く走れる例が増え、中には研究者たちが“ヘラクレス級”と表現するほどスタミナを得た個体もいました。

運動中ではなく、「走り終わった直後の余韻タイムのSF1活動」が、次回のスタミナを底上げするスイッチになっている可能性があるわけです。

ある意味で「走り込みの本体は、実は“休憩時間の脳”だった」とも言えるでしょう。

配信元: ナゾロジー

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