
ワニと聞くと、川辺にどっしりと横たわる、重厚で装甲のような体を思い浮かべる人が多いのでしょう。
しかし今から約2億1500万年前、現在のイギリスに生きていた“ワニの仲間”は、まるでグレイハウンド犬のようにスリムで、地上を俊敏に駆け回るハンターだったようです。
このほど、英ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の研究チームは、後期三畳紀の地層から見つかっていた化石を再検討し、それが新属新種のクロコディロモルフ(ワニ形類)であると発表しました。
研究の詳細は2026年2月12日付で学術誌『The Anatomical Record』に掲載されています。
目次
- 1969年に発見されていた化石、半世紀後に「新種」と判明
- ワニなのに「走る捕食者」だった?
1969年に発見されていた化石、半世紀後に「新種」と判明
問題の化石は、1969年にイングランド南西部のクロムホール採石場で発見されました。
発見当初から博物館に収蔵されていたものの、長らく既知種「テレストリスコス(Terrestrisuchus)」に近い個体と考えられていました。
チームは今回、この標本を新たに調査することに。
骨格を解剖学的に精査し、既知の初期ワニ形類と比較。その結果、少なくとも13の重要な形態的違いがあることを突き止めます。
とくに目立ったのは四肢と手首の骨の違いでした。
新種では手首の骨がより短く、がっしりとした形状を示し、中手骨や大腿骨の形態にも差異が認められました。
これらの違いは、単なる個体差ではなく、分類学的に区別すべき特徴だと判断されました。
【復元された新種の古代ワニのイメージ画像がこちら】
さらに系統解析の結果、この標本はテレストリスコスの「姉妹群」にあたる位置に入り、ドイツ産のサルトポスコス(Saltoposuchus)などとともにサルトポスコス科(Saltoposuchidae)に属することが示されました。
チームは、既存のデータセットでは両者の違いが十分に評価されていなかった可能性を指摘し、頭骨が保存されていない点も踏まえたうえで、属レベルで分けるべきだと結論づけました。
こうして新たに記載されたのが、新属新種「ガラハドスコス・ジョネシ(Galahadosuchus jonesi)」です。
属名の「ガラハド」は、アーサー王伝説に登場する騎士ガラハッドに由来し、直立気味の姿勢を反映しています。
種小名は筆頭著者の恩師であるウェールズの物理教師デイヴィッド・リース・ジョーンズ氏への献名です。
ワニなのに「走る捕食者」だった?
現代のワニは水辺で暮らす半水生動物ですが、この新種が生きていた後期三畳紀のイギリス南西部は、石灰岩からなるカルスト地形が広がる沿岸環境でした。
地面には洞窟や割れ目が多く、死んだ動物の骨がそこへ流れ込み、堆積物として保存されました。
この地層からは、初期の恐竜テコドントサウルスやペンドライグ、小型爬虫類のクリプトヴァラノイデス、滑空性爬虫類クエネオサウルスなど、多様な動物が見つかっています。
今回の新種ガラハドスコスも、そうした生態系の一員でした。
骨格の特徴から、この動物は長く細い四肢をもち、直立的な姿勢で陸上を走るタイプだったと考えられています。
論文では「二足歩行を示す決定的な証拠はない」と慎重に述べられていますが、少なくとも現生ワニのような重厚な体型ではなく、より軽量で機動性の高い体つきだったことは確かです。
イメージとしては「ワニの顔をしたサイトハウンド犬」。
下草の中をすばやく移動し、小型の爬虫類や両生類、初期の哺乳類を狙う陸上捕食者だった可能性があります。
この時代は、三畳紀末の大量絶滅の直前にあたります。
火山活動の活発化によって地球環境が大きく変化する直前、ワニの祖先たちはすでに多様な体型と生態を獲得していたのです。
ワニの形状も多様だった
今回の発見は「ワニは昔からずっとあの姿だった」という私たちの固定観念を揺さぶります。
現代のワニは水辺の王者ですが、その祖先の一部はスリムで俊敏な陸上ハンターでした。
進化の歴史をさかのぼると、ワニの仲間は思いのほか多様で、実験的ともいえる体型を試していたことがわかります。
博物館に半世紀眠っていた骨が、最新の解析によって新種としてよみがえる。そこには、進化の物語がまだまだ“発掘途中”であるという事実が詰まっています。
もし三畳紀の高地に立っていたら、あなたの足元を、細身の“ワニ”が風のように駆け抜けていたかもしれません。
参考文献
New species of ancient crocodile named in honour of Welsh school teacher
https://www.nhm.ac.uk/discover/news/2026/february/new-species-ancient-crocodile-named-after-welsh-school-teacher.html
元論文
A second species of non-crocodyliform crocodylomorph from the Late Triassic fissure deposits of southwestern UK: Implications for locomotory ecological diversity in Saltoposuchidae
https://doi.org/10.1002/ar.70162
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

