日本での舞台公演は、2007年に劇団四季によって開幕。人気演目となり再演を重ね、「ウィキッド」は確固たるファンベースを築いてきた。そんな舞台ファンの間でも、映画版は大好評を博している。熱狂的「ウィキッド」ファンであるイラストレーター、千助も映画を熱烈にプッシュするひとりだ。劇団四季版は初演から幾度となく鑑賞し、『ウィキッド ふたりの魔女』も映画館で11回観たというから、まさに筋金入り。そんな千助が、最新作に備えて「ウィキッド」のあらすじやすごさをまるっと振り返ることのできるイラストを描きおろし!さらに、映画の魅力を、強い「ウィキッド」愛と共に語ってもらった。

■いよいよ最終章!の前に…『ウィキッド ふたりの魔女』を振り返ろう

魔法と幻想の国オズにあるシズ大学で出会った、生まれながらに緑色の肌を持ち、魔法の才能がありながら孤独なエルファバと、魔法使いになることを夢見る人気者のグリンダ。

正反対の2人は反発し合うが、互いの本当の姿を知っていくにつれ、かけがえのない友情を築いていく。

ある時偉大な“オズの魔法使い”に見出されたエルファバは、グリンダと共に彼が司るエメラルドシティへ旅立つが、そこでオズの国に隠された真実を知ってしまう。それをきっかけに、別々の道を歩むことになった2人。

エルファバは“悪い魔女”として民衆の敵にまつりあげられ、グリンダは “善い魔女”として、民衆の希望の象徴に。2人の溝が埋まらないなか、突如現れた“カンザスから来た少女”によって、オズの国の運命も大きく動き出す。
■「最初に映画を観た時は『生きてて、よかった…』と思いました!」

映画化の企画が進行し始めたころから関連ニュースを追い続け、SNSなどを通じて自主的に最新情報を発信していたという千助。それは15年以上前から始まった。「最初のころはブログでしたが、『2010年に公開だって!』みたいなことを書いていました。実際は、映画化が決まったと思ったらうまくいかなくて、また動き出したらと思ったら製作がストップして…」とやきもきした時期があったことも明かす。ハリウッドでは映画製作の難航や中止は日常茶飯事。「ウィキッド」も、その荒波に揉まれることになる。「だから『ウィキッド ふたりの魔女』が公開されるだけでもすごいことだと思っていました。さらに実際に観てみたら、本当に愛情をもって作られていて、それでいてスケールも大きくて。最初に映画を観た時は『生きてて、よかった…』と思いました!」。と、初めて映画「ウィキッド」に出会った感動を振り返る。
■「ジョン・M・チュウ監督は強火の『ウィキッド』オタクだと思っています」

「ジョン・M・チュウ監督は強火の『ウィキッド』オタクだと勝手に思っています」と彼女は笑う。「私なりに『映画になったら、こうしてほしいなあ』と思うところはありました。チュウ監督はそんな期待に応えてくれただけでなく、私の予想をはるかに超えてきました。うまく言えませんが、物語に対する解像度や理解度が違うというか。オタク目線も交えて制作してくれているのだと喜んでいたら、さらに向こう側を提示されて…『スゴい!』と感動したんです」。

例えば、転校生としてやってきた王子、フィエロが持ち前の魅力を発揮し、シズ大学の図書館で学生たちと軽快なダンスを披露する「ダンシング・スルー・ライフ」。グルグルと回転する本棚のセットなど、ミュージカル・シークエンスは映像ならではのマジカルな表現にあふれており、話題となっていた。
これはファンには難問だが、1作目でもっとも好きなミュージカル・シークエンスはどれ?と千助に訊いてみた。「いっぱいありすぎて困るのですが」と前置きしたうえで彼女が選んだのは、「ワット・イズ・ディス・フィーリング?」。意に反して同室になってしまったエルファバとグリンダが、まったくわかり合えない互いへの不満を爆発させる楽曲だ。
「ミュージカルの映画化で、もっともワクワクするのが、私の場合は環境音がはっきりと聞こえてくることなんです。舞台では難しい表現ですよね。この曲は学生時代のエルファバとグリンダのケンカのシーンで歌われますが、寮の部屋の中から学校内まで、生活音や足音などの音がはっきり聞こえて、そのリズムをうまく取り入れているんです。映画を観ながら、夢を見ているような気分になりました」。
■「舞台版への最高のリスペクト」

ミュージカルシーンの要となる演者たちの歌声はもちろん、折り紙付き。エルファバ役にエミー賞、グラミー賞、トニー賞受賞の経歴を持つ実力派俳優シンシア・エリヴォ、グリンダ役に言わずと知れた世界の歌姫アリアナ・グランデと、超豪華キャストが集結している。圧倒的歌唱力を持ちながら、努力と作品への真摯な姿勢を貫く彼らについても、「すごいとしかいいようがない」と、彼女は語る。「アリアナさんのインタビューを読みましたが、『私は“アリアナ・グランデのグリンダ”になりたいんじゃない。グリンダそのものになりたい』と語っていて。熱いものをもって、この映画に臨まれたんだなあと思いました。それにアリアナさんも、シンシアさんも、映画でお芝居をしながら歌も同時録音されています。これは舞台版への最高のリスペクトだと思います」。映画の撮影では芝居だけ先に撮影して歌はアフレコで吹替える、ということが頻繁にある。しかし、本作の俳優たちは、一発勝負である舞台版への敬意を表し、演技と同時に歌うことを選んだのだという。
■「誰もが最高だし、誰もが最悪。そこが好きなんです!」

様々なバックグラウンドと個性を持ち、共感性の高いキャラクター像も本作の人気の秘密。どのキャラクターにも思い入れがあるという千助が、その魅力を語ってくれた。「エルファバは本当はみんなに愛されたいけど、おかしいと思ったことにはまっすぐ立ち向かう正義感がありますよね。一方で、グリンダはみんなに愛されるキャラ。でも逆に言うと、そのための努力を惜しんでいないのがすごい」。一見すると軽薄そうに見えるフィエロ王子については、「彼は頭がからっぽのフリをしていることをエルファバに指摘されて、本当の自分に気づくんですよね」とエルファバと出会ったことで徐々に変わっていき、新たな魅力を発揮していくと紹介。さらに、「オズの民に祭り上げられた魔法使いの気持ちもわかるんですよ…そう思われてるならそうしてあげようと思っているところが人間臭くて」とのこと。「誰もが最高だし、誰もが最悪なんです。そこが好きなんですよ!で、いま現在の私はオズの民に落ち着いています(笑)」と、彼女は名もなき登場人物たちにさえ共感していることを笑って語る。

実は、日本公開よりもひと足早く、『永遠の約束』も鑑賞した千助。エルファバとグリンダの2人がたどる運命を見届けたいま、彼女たちにどんな想いを抱いたのか。熱のこもった感想を語ってくれた。「ここに登場するキャラクターは、各々の信念を持っています。魔法の才に長けたエルファバは正義感が強く、そのために不器用だけれど、一方では愛されたいという強い願望を抱いています。逆に誰からも愛されるグリンダは、本物の魔法使いになりたいと願っています。どちらもなかなか夢はかなわない。でも、2人がお互いを認め合い、友情を育むことで、ひとりではできなかったことを成し遂げます」。『ウィキッド 永遠の約束』では、そんな彼女たちの絆の強化がエモーショナルに描かれている。それがピークに達した時、千助は涙が止まらなくなったという。映画を観て、千助最大の号泣シーンを探してほしい!
■「『ウィキッド』はいろんな角度から観ることができる映画」

映画「ウィキッド」シリーズは、とにかくゴージャスなエンタテインメントだ。歌と踊り、美術と衣装のめくるめくスペクタクルに、とにかく圧倒される。映画館映え必至のシリーズであることは間違いなしで、千助も「舞台で観ていた世界が、画面いっぱいに広がっていくスケールの大きさ、感動はものすごかったです!IMAXとか、ドルビーシネマとかいろんなフォーマットで楽しめるのも最高ですね」と、太鼓判。

そして、エルファバとグリンダの友情を筆頭としたドラマも感動的だが、一方では少数派を排斥する社会問題も浮き彫りにされる。それらを踏まえたうえで、いまや“オズの民”となっている千助に、この映画を「ウィキッド」を知らない人にどう勧めるかを訊いてみた。すると、なによりもまず、「この作品に“出会う”という一歩を踏み出してほしい」と熱くプッシュしてくれた。そのうえで、「まずは楽しんでほしいです。とにかく規模の大きい作品だから、予備知識がなくても楽しめます。そしてエルファバとグリンダの物語を見届けてほしい。そのうえで、差別という社会派の要素を深掘りしたいと思ったら、ぜひしてほしい」と、先入観を持たずに本作の世界へ飛び込むことをおすすめする。

「舞台版の時から、初めて『ウィキッド』を観たという人に、『この映画の結末は“なにエンド”なのか。ハッピーエンドなのか、バッドエンドと思うのか』を訊いてきたんです」と彼女は言う。「なにが正解でなにが誤りということではないし、浅い、深いでもありません。『ウィキッド』はいろんな角度から観ることができる映画です。エルファバとグリンダが2人で出した答えを、観た方がどう受け止めるのか?それを知りたいし、どんどん語ってもらえればうれしいです」。
1作目のあちらこちらに散らばっていた伏線が、次々と2作目にリンクしていく様も見どころだと語る。「歯車のように、本当にうまくハマッていくんです。後半に向けて、伏線がどんどん回収されていく」。「オズの魔法使い」といえば、そう…カンザスから竜巻で飛ばされてきてしまう少女・ドロシーという存在。2作目ではいよいよ彼女がオズの国に降り立つわけだが、彼女の登場がエルファバとグリンダの物語にどう絡んでくるのか?それについては、ぜひ映画を観て確認してほしい。

千助のいうとおり、「ウィキッド」は様々な要素を内包している映画だ。頭を空っぽにしても楽しめるし、深く探求しようと思えば探求もできる。まずは1作目『ウィキッド ふたりの魔女』でオズの国に足を踏み込み、最新作『ウィキッド 永遠の約束』でその深淵に分け入ってほしい。そこには、虹の彼方に足を踏み込んだ者だけの感動があるのだから。
取材・文/相馬学
