
5500年前に生きていた一人の少女は、亡き父の骨を胸に置かれたような形で葬られていました。
スウェーデン・ゴットランド島の石器時代の墓地で見つかったこの埋葬は、最新のDNA分析によってその家族関係が明らかになりました。
研究を行ったのは、スウェーデン・ウプサラ大学(Uppsala University)のチームです。
舞台となったのは、スカンジナビアでも特に重要な石器時代遺跡として知られるアジュヴィデ遺跡です。
分析の結果、当時の狩猟採集民社会では「親子」や「兄弟姉妹」といった核家族だけでなく、より広い血縁ネットワークが重要だった可能性が浮かび上がってきました。
目次
- 父の骨とともに埋葬された10代の少女
- 血縁の「距離」が語る社会のかたち
父の骨とともに埋葬された10代の少女
アジュヴィデ遺跡は、約5500年前の「ピットウェア文化(Pitted Ware culture)」に属する狩猟採集民の墓地です。

ここでは85基の墓が確認されており、そのうち8基は2人以上が埋葬された合葬墓でした。
今回DNA分析が行われたのは、そのうち4基です。
特に注目されたのが、若い10代の少女の墓でした。
少女は仰向けに手足を伸ばした姿勢で埋葬され、その体の上や隣には複数の骨がまとめて置かれていました。発掘当初、それらの骨が誰のものなのかは不明でした。
しかし歯や骨から抽出したDNAを分析した結果、それらは少女の父親の骨であることが判明しました。
【実際の埋葬された骨の画像がこちら】
父親は少女より先に亡くなっており、いったん別の場所に埋葬された後、骨が掘り起こされて娘の墓へ移された可能性が高いとチームは考えています。
単なる同時埋葬ではなく、意図的な再配置が行われたとみられる点が特徴です。
つまり少女は、亡き父の骨とともに、あらためて葬られた可能性があるのです。
血縁の「距離」が語る社会のかたち
この研究では、ほかの3基の合葬墓も分析されました。
ある墓では、20歳前後の女性の両側に4歳と1歳半の子どもが埋葬されていました。
DNA分析の結果、2人の子どもはきょうだい関係にありましたが、女性は実姉でも母親でもありませんでした。
父親の姉妹、あるいは異母きょうだいである可能性が高いとされています。
別の墓では、少年と少女が一緒に埋葬されていましたが、両者は第3親等、すなわちDNAの8分の1を共有する関係で、いとこであった可能性が高いことが分かりました。
さらに別の墓でも、少女と若い女性が第3親等の関係にあり、大おばと姪孫、あるいはいとこ関係であった可能性が示されています。
興味深いのは、同じ墓に葬られていた人々の多くが「第1親等(親子・きょうだい)」ではなかったことです。むしろ第2親等や第3親等の関係が目立ちました。
チームは、当時の人々が自らの家系をよく理解しており、核家族を超えた広い血縁関係を重視していた可能性があると指摘しています。
農耕がヨーロッパ全域に広がっていた時代にもかかわらず、ゴットランド島では狩猟採集生活が続いていました。
彼らは主にアザラシ猟や漁労で生計を立て、農耕民とは遺伝的にも異なる集団でした。
その社会構造は、単純な「家族単位」では説明できない、より複雑な血縁ネットワークで成り立っていたのかもしれません。
参考文献
5,500 years ago, a teenage girl was buried with her father’s bones on her chest, new DNA study reveals
https://www.livescience.com/archaeology/5-500-years-ago-a-teenage-girl-was-buried-with-her-fathers-bones-on-her-chest-new-dna-study-reveals
Family relationships identified in Stone Age graves on Gotland
https://www.eurekalert.org/news-releases/1116791
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

