
「被るだけで薄毛対策ができる帽子」が現実味を帯びてきました。
韓国科学技術院(KAIST)の研究チームが、帽子のように装着できる有機発光ダイオード(OLED)ベースの光療法デバイスを開発し、毛包の老化に関わる細胞指標を最大約92%抑制できることを示しました。
ただし重要なのは、この92%という数字は「髪が92%生えた」という意味ではないという点です。
これは毛の成長を支える細胞の“老化マーカー”が、細胞実験で大きく減少したことを示しています。
研究の詳細は2026年1月10日付で学術誌『Nature Communications』に掲載されました。
目次
- ヘルメットから「光る帽子」へ
- 老化マーカーを約92%抑制 、細胞レベルで確認
ヘルメットから「光る帽子」へ
現在、薄毛治療にはミノキシジルやフィナステリドといった薬剤が使われています。
しかし長期使用による副作用の懸念もあり、より安全性の高い非侵襲的治療への関心が高まっています。
その一つが低出力光療法です。
しかし従来の光療法機器は、硬くて重いヘルメット型が主流でした。
さらに、LEDやレーザーのような点光源を使うため、頭皮全体に均一な光を当てるのが難しいという問題がありました。
屋外で自然に使うことも困難でした。
そこでKAISTの研究チームは発想を転換します。点で照らすのではなく、「面」で光らせるのです。
チームは、有機発光ダイオード(OLED)を柔らかな布状素材に組み込み、キャップとして装着できる構造を開発しました。

OLEDは薄く柔軟で、頭皮の曲面に自然に密着できます。
そのため、頭皮全体に均一な光刺激を与えることが可能です。
さらに、ディスプレイ用OLEDで培われた波長制御技術を応用し、発光波長を精密に設計しました。
採用されたのは730~740ナノメートルの近赤外光です。これは、毛の成長を調節する「真皮乳頭細胞」が特に反応しやすい波長帯だとされています。
単なるウェアラブル機器ではなく、「細胞が最も反応する光」を狙い撃ちにした点が本研究の核心です。
老化マーカーを約92%抑制 、細胞レベルで確認
毛の成長を支える真皮乳頭細胞は、加齢とともに機能が低下します。
細胞が老化すると、β-ガラクトシダーゼという酵素活性が高まることが知られており、これは細胞老化の代表的な指標として使われています。
チームはヒト真皮乳頭細胞(hDPCs)を用いた細胞実験を実施しました。
その結果、カスタマイズされた近赤外OLEDを照射した細胞では、老化指標であるβ-ガラクトシダーゼ活性が未照射群と比べて約91.6%低下しました。

従来よく使われてきた赤色光条件と比較しても、今回の近赤外光条件の方がより大きな老化抑制効果を示しました。
さらに、細胞の移動能力も向上しました。
真皮乳頭細胞の移動性は毛包の再生や毛周期に関与すると考えられており、この変化も注目されます。
ただし繰り返しますが、これはあくまで細胞レベルでの結果です。
実際の人の頭皮で発毛量がどれほど増えるかは、今後の動物実験や臨床試験で検証する必要があります。
チーム自身も、今後は前臨床試験を通じて安全性と有効性を段階的に確認していくと述べています。
未来の薄毛対策は「日常に溶け込む光」かもしれない
薄毛対策というと、薬や手術、あるいは目立つ医療機器を想像する人が多いでしょう。
しかし今回の研究は、日常生活の中で自然に使えるウェアラブル型治療の可能性を示しました。
帽子のように被るだけで、頭皮全体に均一な近赤外光を届ける。その光が毛包細胞の老化を抑える可能性があるというのです。
もちろん、現段階では「薄毛が止まる」と断言できる段階ではありません。
しかし、光の波長を精密に設計することで細胞の老化反応をここまで抑制できたという事実は、毛髪治療のアプローチを一歩前に進めたと言えます。
参考文献
New Light Therapy Can Suppress a Key Marker of Hair Loss by 92%
https://www.sciencealert.com/new-light-therapy-can-suppress-a-key-marker-of-hair-loss-by-92
KAIST Develops Cap-Like OLED Wearable to Prevent Hair Loss, Replacing Bulky Helmet Devices
https://www.kaist.ac.kr/site/newsen/html/news/?mode=V&mng_no=57930&skey=&sval=&list_s_date=&list_e_date=&GotoPage=1
元論文
Wearable textile-based phototherapy platform with customized NIR OLEDs toward non-invasive hair loss treatment
https://doi.org/10.1038/s41467-025-68258-3
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

