中国人が集団大移動する春節期間(2月15日~23日)の京都で、ちょっとした異変が起きている。街は相変わらず外国人観光客でにぎわっているのに、清水寺や祇園界隈でおなじみだった「外国人の着物姿の行列」が明らかに減っているのだ。
京都市の統計では、外国人宿泊者数全体は前年より増加している一方で、中国からの宿泊客は前年同月比で、1割以上減少。全体の観光客数が減ったわけではなく、客層が大きく変わったのだ。
これまで着物レンタル店を支えてきたのは、中国や台湾からの観光客だった。着物姿で京都の街並みを歩き、写真に撮るのは日本旅行の定番コース。ところが最近は、欧米や東南アジアからの個人旅行客が増加し、彼らの関心は寺社巡りやグルメ、アニメ聖地巡礼などに向かいつつある。
原因はそれだけではない。欧米圏で広がりを見せる「文化盗用(カルチュラル・アプロプリエーション)」への配慮が影響している可能性が指摘されているのだ。
文化盗用とは、歴史的に弱い立場に置かれてきた文化の象徴を、外部の人間が消費することへの批判的な考え方だ。アメリカでは先住民の衣装や黒人文化の髪型をファッションとして取り入れ、炎上する例がある。そうした価値観の中で育った若い世代の一部が、「他国の伝統衣装を観光目的で着てもいいのか」と慎重になるのは不思議ではない。
もちろん日本では、外国人が着物を着ることに抵抗感はほとんどない。むしろ「日本文化を楽しんでくれて嬉しい」という受け止め方が一般的であり、京都のレンタル着物もれっきとした人気観光コンテンツだ。
「なのに欧米の旅行者には『他国の伝統衣装を観光目的で着ても失礼にならないか』と考える人がいます。相手の文化を尊重しようとする意識が強いためですが、その『気を使いすぎる遠慮』が、結果として着物体験を選ばない理由のひとつになっています」(旅行アナリスト)
伝統を「歓迎」と受け取るか「踏み込みすぎ」と感じるか。伝統ビジネスは今まさに、静かな転換点に立たされている。
(京野歩夢)

