みんな選挙後の自らのポストを当てにしているだけ
筆者も長年、選挙取材に関わってきた。街頭演説での動員など、選挙に「やらせ」はつきものだ。とはいえ、相手陣営への中傷を、立場を隠して実施したとなると深刻だ。ところが、騒動が発覚しても小泉陣営内では当初、いまいち深刻に受け止められていなかったようだ。
文春発売の当日は小林史明議員が記者へのブリーフでおおむね事実関係を認めていた。だが、小泉氏が会見で謝罪したのは翌日だ。それも閣議後の農水大臣としての定例会見だった。今回の事態を受けて、陣営サイドが率先して開いた記者会見ではなかった。
小泉陣営は「メディア対応」「SNS対応」「危機管理」というどれをとっても後手後手で統率がとれていない。党内の全派閥、さらには無派閥からもかき集めた混成部隊だからだ。
ある陣営スタッフは言う。
「本気で小泉さんを総理総裁に押し上げようと体を張っている人はいない。みんな選挙後の自らのポストを当てにしているだけだ」
そもそも誰が秘書たちを仕切っているのかもわからない
本来、総裁選挙とは私たちが見せられる表の討論会などよりも、党員一人一人への電話かけなど地道な作業が大事になってくる。そうした作業は議員よりも秘書たち実動部隊の仕事だ。
ある秘書は「普通の選挙では秘書たちは土日もシフト表が組まれて交代で電話かけをさせられる。小泉陣営は土日のシフト表も作られていないし、そもそも誰が秘書たちを仕切っているのかもわからない」と嘆く。
福田赳夫氏と大平正芳氏が争った1978年の総裁選は、現職の総理総裁が負けた唯一の総裁選だ。当時は田中角栄氏が大平氏の支援に回った。そのときに史上最強と称されたのが「田中秘書軍団」の地をはうような選挙戦だ。
その結果、地方の党員による予備選挙で大平氏が大逆転した。総裁選の勝敗のカギを握るのは議員たちよりも実動部隊となる「秘書軍団」というのが総裁選の歴史だ。現職の総理総裁ながら予備選に負けた福田氏は「天の声にもたまには変な声がある」と言い残して、本選を辞退している。

