
宇宙のどこかで、地球サイズの超高密度天体が、巨大な重力によって引き裂かれたとしたら…
2025年7月、宇宙X線望遠鏡「アインシュタイン・プローブ」が、約80億年前に起きたとみられる異様な大爆発を捉えました。
その光は、これまでのガンマ線バーストとも、通常のブラックホール現象とも異なる振る舞いを見せたという。
香港大学(HKU)を中心とする研究チームは、この正体を「中間質量ブラックホールが白色矮星を潮汐破壊した可能性が高い」と結論づけました。
もしこの解釈が正しければ、長らく存在が確実視されながら決定的証拠が乏しかった「中間質量ブラックホール」を直接的に示す重要な観測例となります。
研究の詳細は2026年2月16日付で科学雑誌『Science Bulletin』に掲載されました。
目次
- 普通のガンマ線バーストとは違っていた
- 白色矮星が「中間質量ブラックホール」に引き裂かれた?
- 「幻のブラックホール」を見つける手がかりに
普通のガンマ線バーストとは違っていた
今回の発見の出発点は2025年7月2日、アインシュタイン・プローブによる定常的な全天サーベイ観測でした。
搭載されている広視野X線望遠鏡は、急激に明るさが変化する非常に強いX線源を検出します。
この天体は「EP250702a」と名付けられました。
ほぼ同時期に、NASA(アメリカ航空宇宙局)のフェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡が同じ方向からのガンマ線バーストも記録しています。
しかし解析を進めると、奇妙な事実が明らかになりました。
ガンマ線が放出される約1日前から、すでに同じ位置で持続的なX線放射が始まっていたのです。
通常のガンマ線バーストでは、ガンマ線が最初に強く放たれ、その後にX線が続くことが一般的です。
ところが今回は順番が逆でした。

さらに、この天体は約15時間後に強烈なX線フレアを起こし、強烈な光度に達しました。
これは宇宙で観測された爆発現象の中でも最も明るい部類だったという。
その後の約20日間で、明るさは10万分の1以下にまで急速に減衰しました。
しかもスペクトルは、高エネルギーの「ハードX線」から、より低エネルギーの「ソフトX線」へと移り変わっています。
この急速な進化と極端な明るさは、既存のモデルでは完全には説明できませんでした。
加えて、この現象は銀河の中心ではなく、外縁部で起きていました。
超大質量ブラックホールが存在する銀河中心とは位置がずれているのです。
こうした観測事実を総合すると、「普通のガンマ線バースト」や「超大質量ブラックホールによる典型的な潮汐破壊現象」とは一致しにくいことが分かりました。
白色矮星が「中間質量ブラックホール」に引き裂かれた?
そこで浮かび上がったのが、「白色矮星が中間質量ブラックホールに引き裂かれた」というシナリオです。
白色矮星は、太陽の約8倍以下の質量をもつ恒星が寿命を迎えた後に残る高密度の天体です。
大きさは地球ほどですが、質量は最大で太陽の約1.4倍にもなります。
その密度は中性子星やブラックホールに次ぐほどです。
これほど密度が高い天体を、潮汐力によって外側から引き裂くことができるブラックホールは限られています。
質量が小さすぎる恒星質量ブラックホールでは、十分なエネルギーを生み出せません。
一方、超大質量ブラックホールでは、白色矮星は引き裂かれる前にそのまま飲み込まれてしまいます。
その「ちょうどよい範囲」にあるのが、中間質量ブラックホールです。

中間質量ブラックホールの質量は、数百から数万太陽質量程度と推定されます。
ただ、中間質量ブラックホールは理論上でこそ存在が予測されていますが、確実な観測例はほとんどありません。
チームは、数値シミュレーションを用いて、白色矮星と中間質量ブラックホールの組み合わせを再現しました。
その結果、今顔観測されたジェットのエネルギー、変化の時間スケール、スペクトルの変化を自然に説明できることが示されました。
特に、秒スケールで見られた急激な変動は、放射領域の大きさに制限を与え、ブラックホールが超大質量ではないことを示唆します。
さらに、後期に出現したソフトX線の熱的成分は、形成された降着円盤の存在と整合的です。
つまり、観測事実と理論モデルを照らし合わせると、「中間質量ブラックホールが白色矮星を潮汐破壊し、ジェットを放出した」という説明が最も自然だというわけです。

