
もし、私たちの遠い祖先がアジアへ渡った時期が、これまでの想定より60万年も早かったとしたらどうでしょうか。
中国・湖北省で発見されていた「ホモ・エレクトス」の頭蓋骨が、このほど、約177万年前のものだと判明。
これは東アジアで「その場の地層から確実に出土した」人類化石としては最古級となりました。
ホモ・エレクトスがアフリカを出てアジアへ拡散した時期について、従来の理解を大きく書き換える可能性があります。
研究の詳細は2026年2月18日付で学術誌『Science Advances』に掲載されました。
目次
- 年代論争に終止符を打つ「177万年前」という数字
- ホモ・エレクトスは想像以上に早くアジアへ広がった?
年代論争に終止符を打つ「177万年前」という数字
湖北省にある遺跡では、1989年と1990年に2体の頭蓋骨が、さらに2021年から2022年にかけて3体目の頭蓋骨が発見されました。
いずれも絶滅したヒト科のホモ・エレクトスに分類されています。
しかし、その年代については長年議論が続いてきました。
近くで見つかった動物化石や電子スピン共鳴法(ESR)、ウラン系列年代測定などから、約60万年前から110万年前といった幅広い推定が出されていたのです。
【こちらが発見されたホモ・エレクトスの頭骨と、そこからの復元イメージの画像です】
今回、米ハワイ大学マノア校(UH Manoa)の研究チームは、従来とは異なる特殊な手法(宇宙線生成核種埋没年代測定法)を用いました。
この方法では、石英中に含まれるアルミニウム26(Al-26)とベリリウム10(Be-10)という同位体を測定します。
これらは地表で宇宙線を浴びることで生成されますが、地中深くに埋まると生成が止まり、あとは放射性崩壊だけが進みます。
2種類の同位体の減り方の比率を調べることで、「いつ地中に埋まったのか」を逆算できるのです。
チームは、頭蓋骨と同じ地層(C3層)から採取した石英を分析し、その結果、年代は約177万年前(±約8万年)と算出されました。
これは従来想定されていた最古年代よりも約60万年古い数字です。
東アジアにおける確実なホモ・エレクトス化石の年代が、一気に更新された瞬間でした。
ホモ・エレクトスは想像以上に早くアジアへ広がった?
ホモ・エレクトスは、アフリカで約200万年前に出現し、最初にアフリカを出た人類だと広く考えられています。
ジョージアのドマニシ遺跡では、約178万〜185万年前の化石が見つかっています。
今回の年代は、ドマニシとほぼ同時期です。
つまり、ホモ・エレクトスはアフリカを出たあと、比較的短い時間で中国内陸部まで到達していた可能性があります。
さらに興味深いのは、湖北省で見つかった頭蓋骨は同時期のドマニシ個体よりも脳容量が大きい特徴を示している点です。
これはアフリカ外に出た初期ヒト族のあいだに、すでに多様性が存在していたことを示唆します。
ただし、問題はまだ残っています。
中国では約210万年前や243万年前とされる石器も報告されています。
もしこれらの年代が正しいなら、石器のほうが化石よりもさらに古いことになります。
そうなると、最初にアジアへ到達したヒト族が必ずしもホモ・エレクトスだったとは限らない可能性も浮上します。
今回の年代更新は、その議論に新たな基準点を与えたにすぎません。
ホモ・エレクトスがいつ最初にアジアへ到達し、いつ姿を消したのかは、依然として研究の最前線にあるのです。
参考文献
‘Absolute surprise’: Homo erectus skulls found in China are almost 1.8 million years old — the oldest evidence of the ancient human relatives in East Asia
https://www.livescience.com/archaeology/human-evolution/absolute-surprise-homo-erectus-skulls-found-in-china-are-almost-1-8-million-years-old-the-oldest-evidence-of-the-ancient-human-relatives-in-east-asia
Rewriting our understanding of early hominin dispersal from Africa to Eurasia
https://phys.org/news/2026-02-rewriting-early-hominin-dispersal-africa.html
元論文
The oldest in situ Homo erectus crania in eastern Asia: The Yunxian site dates to ~1.77 Ma
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.ady2270
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

