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自慰と性交ではオーガズム自体が異なる生理現象の可能性

自慰と性交ではオーガズム自体が異なる生理現象の可能性

Credit:Google Gemini

オーガズムは、一般的に性的な刺激によって得られる快感のことを指します。

人はこの一時の快感のために、性交したり、自慰をしたりします。

しかし、どちらの方法でもオーガズムを体験したことがある人は、2つの方法それぞれでオーガズムの感覚が異なると思ったことがあるのではないでしょうか?

 かつては、プロセスはどうあれ、オーガズムという生理現象は同一のものだと考えられていました。しかし現在では、脳と身体の反応において、これらは明確に区別して捉えられる可能性が示されています。

これは性交のオーガズムでは満たされた安らぎと心地よい疲労感があるのに対して、自慰ではなんとも言えない虚しさが襲ってくる事とも関連している可能性があります。

本記事では、身体の鎮静に関わるホルモンの分泌量、脳内で快感を処理する神経伝達物質のバランス、そして統計データという3つの科学的な視点から、 一見同じに見える「絶頂」が、性交と自慰では異なる反応を起こしているという事実を解説していきます。

目次

  • 自慰と性交では、絶頂に対する身体の反応がまるで違う
  • 男性は自慰、女性はカジュアルセックスの後に最も虚しさを感じる

自慰と性交では、絶頂に対する身体の反応がまるで違う

自慰と性交は、まったく異なる性的体験ですが、最終的に至る「絶頂」においても身体の反応は異なっているのでしょうか?

英国の心理学者スチュアート・ブロディ(Stuart Brody)博士らの研究グループは、男女の被験者に協力してもらい、実験室という管理された環境で「自慰」と「性交(ペニス・膣交配)」それぞれの後の血液を採取し、血液中のホルモン濃度を測定しました。

すると、プロラクチンというホルモン量に非常に明確差が示されたのです。

「プロラクチン(Prolactin)」は、もともと女性の母乳生成を促すホルモンとして発見されましたが、非常に多機能なホルモンであることが後に判明しており、性行動においては「性的満足感(飽和)」のバロメーターと見なされています。

性行動でこのホルモンが十分に分泌されることは、脳に対して「もう十分満足した」という強いシグナルとなり、性的な渇望が満たされた感覚をもたらします。

そしてブロディ博士らの実験では、男女ともに、パートナーとの性交で迎えたオーガズムでは、自慰でオーガズムを迎えた場合よりも、プロラクチンの上昇値が400%(約5倍)も高いことが示されたのです。

これは、パートナーとの性行為による絶頂では、プロラクチンが高ぶった神経を深く鎮めるため、「満ち足りたリラックス状態」を引き起こす可能性を示唆します。

一方で、自慰の場合はプロラクチンが弱いため、身体的な興奮が完全には収まらず、どこか満たされない疲れた感覚が残りやすくなる可能性を示唆しています。

このような結果になる理由について、研究者は生殖に直接つながる性交が、進化の過程で「最も生理的に報われる体験」になるよう、強力な報酬系を組み込まれた可能性が考えられると考察しています。

パートナーとの性行為後に訪れる「40分間の同期」現象

身体的な鎮静メカニズムに続いて、精神的な満足感の違いについても見ていきましょう。

近年の研究では「行為が終わった後の時間」にも、パートナーの有無による決定的な違いがあることが分かってきました。

コネチカット大学(University of Connecticut)のアマンダ・デネス(Amanda Denes)准教授らの研究チームは、カップルが自宅で性行為を行った際、その前後の唾液に含まれる「オキシトシン(Oxytocin)」の値を調査しました。

オキシトシンは、信頼感や親密さを高めることから「絆のホルモン」とも呼ばれています。

これまでの多くの研究では、オキシトシンは絶頂の瞬間にピークを迎えると考えられてきました。

しかし、デネス准教授らが49組のカップルを対象に行った調査では、意外な事実が明らかになりました。

多くの参加者において、オキシトシンの濃度が最も高くなったのは、行為の直後ではなく、その40分後だったのです。

さらに注目すべきは、その時間の二人の状態です。

女性と男性のオキシトシン濃度を比較すると、行為から20分後、そして40分後に、お互いのホルモン値が似たような動きを見せる「同調(シンクロ)」という現象が確認されました。

これは、二人の生物学的なリズムが、性行為の後の時間を通じて一つに重なり合っている可能性を示唆しています。

興味深いことに、このオキシトシンの上昇は、必ずしも「オーガズムに達したかどうか」とは直接関係していませんでした

つまり、絶頂そのものよりも、その後の時間をパートナーとどう過ごすかが、二人の絆を深めるホルモン的な同調を生み出している可能性があるのです。

生物学的な性行為の報酬は、絶頂そのものだけでなく、その後の40分間にパートナーと共有する「同調した時間」にあったのです。

ただ、男性が性交でオーガズムに達しないということは稀ですが、女性は性交でオーガズムに至れないケースが比較的多いことが報告されています。

そのため、このパートナーとの同調は女性において特に重要になっている可能性があります。

この点については、他にも興味深い研究報告があります。それが女性と男性における行為後の気分の落ち込みの違いです。

男性は自慰、女性はカジュアルセックスの後に最も虚しさを感じる

自慰と性交、それぞれのオーガズムでは、身体と脳の中で起きている物質的な変化に違いがあることがわかりました。

では、こうした生理的な反応の違いは、実際に私たちの「心」にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。

よく聞くのが、自慰行為後の俗に言う「賢者タイム」に襲いかかってくる、虚しさや自己嫌悪の感覚です。

この現象は、実際は自慰行為だけでなく、性交のあとにも男女ともに襲ってくることがあるとされており、専門的には「性交後抑うつ(Post-Coital Dysphoria:PCD)」と呼ばれています。

2024年、ダーシー・ラフテリー(Darcie Raftery)氏らの研究チームは、このPCDの発生率に関する調査を行いました。 その結果、男女間で非常に興味深い「逆転現象」が起きていることが判明しました。

まず、男性のデータを見てみましょう。 男性が最も虚しさ(PCD)を感じるシチュエーションは、圧倒的に「自慰(ソロ)」でした。

  • 男性のPCD発生率

    • 自慰(Masturbation):約72.5%

    • カジュアルセックス:約49.0%

    • パートナーとの性交:約21.6%

男性の場合、パートナーとの行為に比べて、一人での行為後は3倍以上も多くの人が憂鬱感を感じています。これは前述した「プロラクチン(身体的鎮静)」の不足がダイレクトに影響しており、男性は「物理的な孤独」に対して生理的な脆弱性を持っていることがうかがえます。

一方、女性のデータは全く異なる傾向を示しました。 女性が最も虚しさを感じるのは、自慰ではなく、「カジュアルセックス」の直後だったのです。

  • 女性のPCD発生率

    • カジュアルセックス:約77.1%

    • 自慰(Masturbation):約51.4%

    • パートナーとの性交:約11.4%

ここで言う「カジュアルセックス」とは、一夜限りの関係やセフレ(FWB)など、恋愛関係の確約がない(非コミットメントな)関係全般を指します。女性の場合、物理的に相手がいても、そこに「心理的なつながり」が欠けている場合、自慰以上に強い虚無感に襲われる傾向があったのです。

この男女差は、私たちが何を「報酬」として求めているのかを浮き彫りにしています。

男性の脳は「鎮静と休息(プロラクチン)」の不足に敏感に反応し、女性の脳は「精神的な結合(オキシトシン)」の欠落により敏感に反応している可能性があります。

いずれにせよ、共通しているのは「パートナーとの親密な性交」が最もメンタルヘルスに良い(PCDが低い)という事実です。強力な鎮静と、精神的な同期。この2つの生理的報酬が揃った時初めて、私たちの脳と身体は「完全な満足」を得られるようにできているのかもしれません。

元論文

The post-orgasmic prolactin increase following intercourse is greater than following masturbation and suggests greater satiety
https://doi.org/10.1016/j.biopsycho.2005.06.008
Charting Salivary Oxytocin Across an Episode of Naturally Occurring Partnered Sex
https://doi.org/10.1007/s10508-025-03144-z
Further Exploration of the Correlates of Post-Coital Dysphoria and Its Prevalence within Different Sexual Contexts
https://doi.org/10.1080/0092623X.2024.2346165

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

配信元: ナゾロジー

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