
※本記事は、後半よりストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。
■「今回よく言われたのは『躊躇』でした。ヨルゴスには見透かされていたよう」
『ブゴニア』は、製薬会社CEOのミシェル(エマ・ストーン)を宇宙からの侵略者と信じ込み、彼女を誘拐し地球を救おうと画策するテディ(ジェシー・プレモンス)と従弟のドン(エイダン・デルビス)が繰り広げる騒動を描く。韓国映画『地球を守れ!』(03)のリメイクで、ミシェルとテディたちの攻防戦も見どころ。その緊迫感に、現場で西島のシャッターを押す手が止まることもあった。

「『哀れなるものたち』の撮影現場では、ヨルゴスから『Be Human(人間らしく)』『落ち着いて』と言われていたんですけど、今回よく言われたのは『躊躇』でした。地下室のシーンなどで、俳優たちの邪魔をしないようにと思ってちょっと躊躇していたら、ヨルゴスが携帯で調べて、『躊躇、躊躇』と日本語で言われるようになりました」と、西島は思い返す。ストーン、プレモンスはランティモス監督とは何度も組んでいるキャストたちだが、2人の役柄へのコミットメントや集中力には目を見張るものがあったという。「エマもジェシーも、5日前に撮影した時の感情を、同じシーンを撮る別日にもちゃんと持ってきて演じていました。そんな彼らの姿に、『いま、撮ってもいいのかな?』『あまり邪魔しないように』と感じていたのが、ヨルゴスには見透かされていたようです」。
何度も参加しているランティモス監督の現場でも、立ち位置は作品によって変わってくる。「その時々で入れるところが限られているので、いられる場所に行くのが基本です。ヨルゴスの隣で撮る時もあれば、撮影現場から離れていることも結構あります。『ブゴニア』では、フィルムの入れ替えのタイミングにどんな感じかなと地下室を覗いてみたら、エマとジェシーが2人でセリフを見直していました。そういう時にパッと入って撮る、というような感じです」と語る。

今作で西島が気に入っている写真は、芝生に倒れているエマ・ストーンを上から撮っているところをおさえたオフショット。「撮影監督のロビー・ライアンがビスタ・ビジョンといういつもと違うカメラを使っていたので、その形状が少し宇宙というか、円盤ぽいなあと思って。エマが寝転がっていて、ヘアメイクのトーステン・ウィットが髪を直しているところを撮りました。ビスタ・ビジョンのカメラ自体が映画にマッチしているようで個人的におもしろかったんです」。

この1年に北米で公開された作品だけでも、本作のほかにもジョシュ・サフディ監督の『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』(3月13日日本公開)、セリーヌ・ソン監督の『マテリアリスト 結婚の条件』(5月29日日本公開)、ジム・ジャームッシュ監督の『Father Mother Sister Brother』、ドラマシリーズの「ストレンジャー・シングス 未知なる世界」など錚々たる作品に参加し、多忙を極める西島。例えば日本でも間もなく公開される『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』は、劇中のテンションの如く忙しない撮影だったそうだ。「映画そのままという感じで、すごかったですね。撮影はほぼニューヨークだし、いつもよりも走り回って撮り、結構いろいろなカメラにもトライしてみようと思ってやっていたので」。
撮影に使うカメラは作品によって変わってくる。デジタルは同じソニーのカメラを使うが、フィルムカメラは様々。『ブゴニア』では、ランティモス監督も好きだというプラウベル社のマキナという中判のカメラ、ローライフレックス3.5F、ライカMP、日付が入るカメラなどを使っている。これに併せてPENTAX67、マミヤ6を使用した。
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■「『僕、なにやってんだろうな』とちょっとおもしろくなってきました」

ヨルゴス・ランティモス作品も5作品目、今作で西島は新たな挑戦をしている。映画の終盤、エイリアンが出現するシーンでキャストとしても出演した。「元々は、10人ぐらいのエイリアンがバックグラウンドで必要です、という話だったんです。なので、『いいですよ』と。エイリアン役には、監督のアシスタントや製作会社のスタッフなどいろいろな部署のスタッフから集められて、なかには音楽監督のイェルスキン・フェンドリックスもいます。衣装のフィッティングをやって、気づいたらセリフがあることになっていた。台本は撮影の1、2か月前にちらっと読むことはありますが、(ランティモス監督作品では)1週間や5日ぐらい前から読めない環境になるので、パッと読んで、あまりよくわかってないまま撮影現場に行っていました。作られた言語(アンドロメダ星人の言語)のセリフなので暗記しないといけないので、自分のカメラは置いて、セリフの暗記などの準備をしました。衣装とウィッグをつけたのですが、夏だからものすごく暑いんです。脱ぐとスチームが出るくらい(笑)」。
ランティモス監督からは、「カメラのほうは見ないで」と演出を受けたという。そして、やはりエマ・ストーンのすごさを目の当たりにしたそうだ。

「『前にいる人の目を見て』とヨルゴスに言われるとエマが立っていて、こちらをギュッと凝視している。それを見て覚えたセリフを言っている時に、『僕、なにやってんだろうな』とかちょっとおもしろくなってきました。フィルムで撮っているし、ちゃんとやらないと終わらないので、もうここはやるしかないと思って、演技の経験もないので棒読みでセリフを言いました。でもエイリアン語だし、最終的には合ってる合ってないとかないと思うので、もうただやるのみ。僕が日本語のアクセントでエイリアン語を話していたら、エマは、僕の日本語アクセントのエイリアン語に合わせてくれたんですよね。エマが日本語アクセントを真似て話すと、明らかにちょっと違う言葉みたいに聞こえてきてとてもおもしろかったですね」。
図らずも、いつも撮影するカメラの後ろから捉えていた映画の中に入り、ヨルゴス・ランティモスの世界を体感することになった。どんな作品に関わる際にも作品の本質を捉え、唯一無二の瞬間を切り取る西島篤司のカメラは、これからも「躊躇」することなく撮影現場を記録し続けることだろう。

取材・文/平井伊都子
