
見えない相手との間でも脳の同期が起きていました。
フィンランドのヘルシンキ大学(University of Helsinki)で行われた研究によれば、オンラインゲームで協力プレイを行うと、物理的に隔てられた場所にいても、プレーヤーの脳波が同期しているのだという。
脳波の同期はペアで行うスポーツ選手の間や楽器演奏者たちの間でも起こることが知られていましたが、どうやら全く姿が認識できないオンラインゲームにおいても発生するようです。
しかし、いったいなぜ私たちの脳は、協力によって同期するように進化したのでしょうか?
この研究の詳細は、2022年7月20日付けで科学雑誌『Neuropsychologia』にて掲載されています。
目次
- 私たちの脳は連携によって不思議な同期状態を作り出す
- 相手がみえないオンラインゲームで脳の同期は起こるのか?
- 脳の同期レベルは休憩後に上昇する
私たちの脳は連携によって不思議な同期状態を作り出す

私たち人類には、複数の個人が連携することでグループ行動を行う能力があります。
素晴らしいバンド演奏や美しいシンクロナイズドスイミングが実現するには、個人としての器用さに加えて、他人と精神を同調させるような、より高次の脳の働きが必須とされているからです。
このような精神の同調は脳科学においても興味深いテーマ(対人同期)として考えられており、既存の研究では、協同行為を行っている個人の脳波には不思議な同期が発生することが知られています。
また協同行為のパフォーマンス(成績)は、脳波の同期レベルの高さと相関していることも報告されています。
(※以前に行われた研究では、脳波の同期レベルだけを参考にして、協同行為のパフォーマンスの高さを推測することに成功しています。また個人的に親しみのある相手のほうが脳波の同期が起こりやすいことも示されています)
この結果は協同行為のパフォーマンスが単に個人の運動能力だけでなく、脳を同期させるより複雑で高次の力に依存していることを示しています。
古くから言われている「心を合わせる」などの精神的な文言にも、背後に神経科学的なメカニズムが潜んでいたと言えるでしょう。
しかし「脳の同期」が発生する条件については、まだ大きな謎となっていました。
特に、協同行為を一緒に行う相手を視覚や聴覚などで直接認識していることが重要なのか、仮想空間でのアバターでも代用が効くのか、それとも全く相手を認識できずとも協同で行為を行うだけでも自然に同期が起こるのかは、極めて大きな問題です。
(※脳の同期が相手が存在するという認識に依存するのか、協同行為そのものに依存するかは大きく違います)
そこで今回、ヘルシンキ大学の研究者たちは、オンラインゲームを用いて、お互いの姿を全く認識できない場合でも、脳の同期が起こるかどうかを確かめることにしました。
相手がみえないオンラインゲームで脳の同期は起こるのか?

協力する相手が認識できなくても脳の同期が起こるのか?
調査にあたってはまず、被験者たちに2人組のペアを作ってもらい、物理的に隔離された部屋に配置した状態で、簡単なオンラインゲームを行ってもらうことにしました。
このゲームは「1台の車を2人で操縦するレースゲーム」となっており、1人目が車のアクセルとブレーキを使った加減速を担当し、2人目がハンドル操作を担当します。
コースは上の図のように4種類が設定され、通常のレースゲームのように「道」部分で素早く加速できますが、コースアウトした「泥」部分では減速してしまいます。
ゲームを行うにあたっては、プレーヤーたちにの頭部に脳波測定器を設置して、できるだけ早く巡回するよう求められました。
一方、本物のペアと比較するために測定結果から「ニセペア」の抽出も行われました。
本物のペアが実際に共同でゲームを行ったのに対して、ニセペアは1人目と2人目が別のペアから抽出された測定結果が組み合わされています。
実際に組んでゲームを行った本物のペアと、実際に組んでゲームを行っていない組み合わせによって選抜されたニセペアの比較を行うことで、本物のペアに起きた脳波の同期レベルの高さを導き出すことが可能になります。
(※比較するニセペアの成績は本物のペアの成績に近くなるように組み合わせられました。たとえば本物のペアが10秒でコースを回れた場合、作成されるニセペアの組み合わせも10秒に近いものたちが選ばれました。これによってゲームの性質やコースの癖など他の要素を排除して、本物のペアだけが持つ特徴を探し出すことが可能になります)
すると(本物のペアでは)ゲームの瞬間的なパフォーマンスの高さはガンマ波の同期レベルと相関しており、平均的なパフォーマンスはアルファ波の同期レベルと相関していることが判明します。
この結果は、相手を直接認識できない状況においても、脳波の同期が発生しており、協同行為のパフォーマンスの向上に重要な役割を果たしていることを示します。
しかしより興味深い結果は、脳波の同期レベルと休憩効果の関係にありました。

