
失恋のあと、ふとした瞬間に元恋人との思い出がよみがえる。
ダイエットを始めた途端、やたらと食べ物の記憶ばかり浮かんでくる。
そんな経験はないでしょうか。
米イースタン・イリノイ大学(EIU)の最新研究によって、「同じことを繰り返し考える」という行為そのものが、後から自然に浮かぶ記憶の内容を左右することが実験的に示されました。
研究の詳細は2025年11月25日付で学術誌『Consciousness and Cognition』に掲載されています。
目次
- 頭の中で反復すると、記憶が「呼び出しやすい状態」に
- 繰り返し考えた人ほど、関連記憶が自然に浮かんだ
頭の中で反復すると、記憶が「呼び出しやすい状態」に
私たちの脳には、「不随意自伝的記憶」と呼ばれる現象があります。
これは、思い出そうと努力しなくても、突然ふっと浮かんでくる過去の個人的体験のことです。
皿洗い中や散歩中のような何気ない時間に、昔の出来事がよみがえるのはそのためです。
これまでの研究でも、現在の関心事と、浮かびやすい記憶の内容に関連があることは示されていました。
しかし、それが「考えているから思い出す」のか、「思い出すから考えてしまう」のかははっきりしていませんでした。
そこで研究者たちは、因果関係を確かめるために実験室で統制された実験を行いました。
参加者は大学生60名で、無作為に2つのグループに分けられました。
一方のグループは、合計約4分間にわたり「食べ物について考えてください」という指示を繰り返し受けました。
10枚のスライドのうち7枚が食べ物に関するもので、1枚につき35秒間、同じテーマに集中する必要がありました。
もう一方の統制群は、食べ物について考える指示は1回のみで、残りは雨や椅子など無関係な内容でした。
つまり、両グループとも食べ物というテーマには触れていますが、「繰り返し考え続けたかどうか」が決定的な違いでした。
繰り返し考えた人ほど、関連記憶が自然に浮かんだ
その後、参加者は単純な注意課題に取り組みました。
縦線が出たら「はい」と答えるという退屈な作業です。このような低負荷の課題は、心がさまよいやすく、不随意記憶が生じやすいことが知られています。
課題中、もし突然記憶や具体的な思考が浮かんだら、その都度記録するよう指示されました。
スライドの中には「食べ物を買う」「夕食を作る」など、食べ物に関連する言葉も含まれていました。
結果は明確でした。
事前に食べ物について繰り返し考えていたグループは、統制群よりも有意に多く、食べ物関連の不随意記憶を報告しました。
これは、研究者が「先占プライミング(preoccupation priming)」と呼ぶ現象を支持するものです。
特定のテーマを反復して考えると、そのテーマに関連する記憶ネットワークが活性化し、無意識のうちに取り出されやすくなるのです。
さらに興味深いことに、反復思考群は食べ物以外も含めた「記憶の総数」も多く報告しました。
研究者はこれを「副次的プライミング」と説明しています。
ひとつの記憶ネットワークが活性化すると、その周辺の関連記憶にも波及効果が広がる可能性があるのです。
一方で、「記憶ではない単なる思考」の数には両群で差がありませんでした。
つまり、単に考え事が増えたわけではなく、自伝的記憶システムが特異的に活性化されたと考えられます。
この研究は、私たちの日々の思考習慣が、どのように「思い出の風景」を形作っているかを示しています。
私たちは、思い出に振り回されているようでいて、実は「何を繰り返し考えるか」によって、思い出の出現確率を静かに変えているのかもしれません。
参考文献
New psychology research reveals how repetitive thinking primes involuntary memories
https://www.psypost.org/new-psychology-research-reveals-how-repetitive-thinking-primes-involuntary-memories/
元論文
Preoccupation priming: How repetitive thinking can influence our involuntary memories
https://doi.org/10.1016/j.concog.2025.103966
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

