昨年7月にドーピング違反による4年間の出場停止処分を受けた女子テニスでダブルス元世界ランキング77位のタラ・ムーア(イギリス/現複422位)が、ある大会での禁止薬物に汚染された肉のリスクについて選手に十分な注意喚起を行なっていなかったとして、女子ツアーを管轄するWTA(女子プロテニス協会)を2,000万ドル(約31億円)の損害賠償を求めて提訴した。
現在33歳のムーアは2022年4月にコロンビア大会で実施されたドーピング検査で禁止物質に指定されているアナボリックステイロイド(筋肉増強剤の一種)のボルデノンおよびナンドロロンに陽性反応を示し、同年5月に暫定的な出場停止処分を受けた。その後、独立裁判所はムーアが検体採取の数日前に摂取した肉が禁止薬物に汚染されていたと結論付け、彼女は24年7月に実戦復帰を遂げていた。
ところが第三者機関「ITIA」はこの判決を不服としてスポーツ仲裁裁判所(以下CAS)に控訴。高濃度のナンドロロンが検出されたことに対する説明が不十分だったとしてこれが認められ、逆転でムーアに4年間の資格停止処分が科された。その時点では消化済みの19カ月の出場停止期間は差し引かれている。
一貫して不正行為を否定してきたムーアは、今度はWTAを相手取り、今月12日に提出された訴状を通じて、「2025年11月の仲裁裁定(仲裁人または仲裁廷が紛争を解決するために下す最終的かつ法的拘束力のある決定)の取り消し」を要求している。
訴状の概要によると、「アメリカの法律事務所で提起された本件は、WTAが他の大会では汚染肉のリスクについて注意を促していたにもかかわらず、コロンビア大会では選手に十分な注意を促していなかったことが陽性反応につながった」と主張。「2,000万ドルの損害賠償を求める本訴訟は、当初の無罪裁定が誤った法的基準を適用したCASによって不当に覆された」とも記されている。
CASでの審理においてムーアは、コロンビア大会で採取された21検体のうち3検体が陽性反応を示した点に触れ、「大会の環境に問題があった可能性が高く、WTAは事前に注意喚起や調査を行なうべきだった」としていた。
これを受けてCASはその内訳を精査したところ、3選手のうち1人はボルデノン代謝物の濃度が極めて低く、科学的分析に値しない水準だったとして有効な陽性例から除外。結果的に陽性例は2人と判断され、そのうち1人はムーア、もう1人は女子のバルバラ・ガティカ(チリ/元201位/引退)によるものだった。以上を踏まえ、CASは「該当大会での広範な汚染リスクがあったとまでは認められず、事前注意の義務があったとも言えない」との結論に至った。
アンチ・ドーピング審理は全て独立した専門家パネルによって行なわれているが、ムーアの弁護士であるダニエル・ワイス氏は米『ニューヨーク・ポスト』紙に対し、同選手は「WTAの欠陥のあるアンチ・ドーピング制度の二重の犠牲者だ」とコメント。これに対しWTAは訴訟中であることを認めつつも、「仲裁は仲裁人によって行なわれたもので、裁定を取り消す根拠はない」との声明を出している。
文●中村光佑
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