【スージー鈴木の週刊歌謡実話第25回】
石野真子『狼なんか怖くない』
作詞:阿久悠/作曲:吉田拓郎/編曲:鈴木茂
1978年3月25日発売
ニューミュージック系の作曲家が起用された珍しいケース
いや、確かに引退宣言していたのです。
「吉田拓郎さん、第一線から退く意向 テレビ出演、来月引退」(朝日新聞/’22年6月25日)
しかし2月2日のニッポン放送『吉田拓郎のオールナイトニッポンPremium』の中で、7年ぶりのコンサート開催を発表。
番組内で「『吉田拓郎さんは引退』って言われるけど、いつ『引退します』って言ったか?」「ミュージシャンは引退なんてない。引退なんて言っているミュージシャンは好きじゃない」と吠えたといいます。
ここで私が言いたいことは「吉田拓郎、それはないだろう!」ではない。まったくない。そうではなくって――「またやったか『やめるやめる詐欺』(笑)」。
どれだけ具体的に「引退します」と言ったかどうかは別として、これまで引退を示唆するコメントを何回も発し、そして撤回してきたのです。吉田拓郎という人は。だから歓迎こそすれ、今回の件に腹を立てるファンなど1人もいないはず。
というわけで、今回は「拓郎歌謡」をご紹介。でも本連載は拓郎びいき。すでにキャンディーズ『アン・ドゥ・トロワ』(’77年)、アグネス・チャン『アゲイン』(’78年)と2曲も取り上げています。3曲目は石野真子『狼なんか怖くない』でどうでしょう。
1978年リリース、石野真子のデビューシングル。こちらもすでにご紹介した尾崎亜美作曲、同年の金井夕子『パステルラヴ』同様、歌謡曲の権化のようなNTV『スター誕生!』出身でありながら、ニューミュージック系の作曲家をあてがわれた、とても珍しい例。
【スージー鈴木の週刊歌謡実話】アーカイブ
「この子がアイドルに?」拓郎が感じた第一印象
レコーディングの経緯は、石田伸也『吉田拓郎疾風伝』(徳間書店)にある、石野真子本人へのインタビューに詳しい。まず電話越しに吉田拓郎自身が歌うデモテープを聴いたときの感想がいい。
――「これが私のデビュー曲なんだ。なんてやさしい歌声なんだろう」
しかし東京で吉田拓郎本人と会うと、
――「私はまだ17歳で丸々と太っていて、拓郎さんは『この子がアイドルに?』って表情をされていました。私はそれからレタスばっかり食べてのダイエット。レコーディングまでには絶対に痩せようと思っていました」
そして、いよいよレコーディングの日。慣れないせいか1曲録るのに8時間もかかってしまう。
――「拓郎さんはレコーディングにもいらして、歌い方をアドバイスしてくれました。私も必死だったから『おそろしく大きな声だなあ』って笑われたのを憶えています」
それにしても声量を誇る当時の吉田拓郎に「おそろしく大きな声」と言わせる石野真子はすごい。
そんな天性の伸びやかな声も武器にしながら石野真子は、ブレイクしていくのでした。
そして今、石野真子65歳。吉田拓郎はもうすぐ何と80歳。まだまだ元気な2人に、狼どころか、何も怖いものなどないでしょう。
「週刊実話」3月5・12日号より
スージー鈴木/音楽評論家
1966(昭和41)年、大阪府東大阪市出身。『9の音粋』(BAYFM)月曜パーソナリティーを務めるほか、『桑田佳祐論』(新潮新書)、『大人のブルーハーツ』(廣済堂出版)、『沢田研二の音楽を聴く1980―1985』(講談社)など著書多数。
