
短時間ですぐに明快な答えを提出する人は頭の回転が速く、「賢い人」と見なされやすいかもしれません。
しかし賢さにも様々なタイプがあります。
コーネル大学およびコロラド大学ボルダー校で学位を取得した心理学者マーク・トラヴァース氏は、一見すると非効率に見える思考パターンが、高い知的能力の表れである場合もあると述べています。
この記事では、彼が紹介する「実は賢い人」に見られやすい3つの思考法について、その心理学的な背景とともに分かりやすく見ていきます。
目次
- 賢い人の思考法①:会話を頭の中で再生する
- 賢い人の思考法②:矛盾する2つの考えを同時に持てる
- 賢い人の思考法③:知っていても答えるのが遅い
賢い人の思考法①:会話を頭の中で再生する
私たちはつい、「早く答えられる=頭が良い」と思いがちです。
しかしトラヴァース氏は、知性とは必ずしもスムーズで軽やかなものではないと指摘します。
むしろ、内側ではとても忙しく、複雑で、時間のかかる思考が行われている場合があるのです。
その代表例が、「会話を頭の中で何度も再生する」傾向です。
たとえば、「さっきの場面、こう言えばよかったかな」「次に会ったときは、こう言われたらこう返そう」といったことを、何度も頭の中でシミュレーションしてしまうことがあります。
一般にはこれを「考えすぎ」「不安が強い」と片づけてしまいがちです。
しかし、こうした傾向は高度なメンタル・シミュレーション能力の表れである可能性が示されています。
ある研究によると、流動性知能が高い人は、複数の「もしも(what if)」シナリオを同時に処理しやすいとされます。
これは単なる後悔ではなく、「将来起こり得る展開を事前にテストしている」ような状態です。
相手がこう言ったら自分はどう返すか、この選択をしたらどんなリスクがあるか、といった分岐をあらかじめ確認しているのです。
このとき脳は、強いワーキングメモリを使って情報を一時的に抱え込み、必要に応じて更新しています。
同じ考えをただグルグル回しているだけではなく、視点を変えながら仮説を少しずつ調整している点が重要です。
ここで、不安やうつなどで見られる「反芻」との違いも押さえておく必要があります。
反芻は感情的な部分にとらわれ、同じ内容を何度も繰り返す傾向があります。
一方、メンタル・シミュレーションはもっと柔軟で、視点を切り替えたり前提を見直したりしながら、より良い理解や気づきに向かっていきます。
確かに外から見ると「ぼんやりしている」「決められない」と見えるかもしれません。
しかし実際には、内側でかなり高度な準備運動が行われている場合があるのです。
賢い人の思考法②:矛盾する2つの考えを同時に持てる
2つ目の特徴は、「矛盾する考えを同時に持てる」という点です。
多くの人にとって、矛盾は不快なものです。
「あれもこれも正しそう」という状態は、モヤモヤして落ち着かないため、どちらか一方に早く決めてしまいたくなります。
そのため私たちはふつう、「自分の考えに都合の良い情報だけを集める」「どちらかを切り捨てて、話を単純化する」といった形でバランスを取りがちです。
一方、2023年の研究では、高いIQを持つ人ほど「早く答えを出したい欲求」が低く、曖昧さに耐えやすい傾向があると報告されています。
つまり、すぐに白黒つけなくても大丈夫な人たちです。
このような人は、「この意見にも一理あるけれど、反対側の主張も軽視できない」「どちらか一方だけでは、この問題を説明しきれない」といった状態を、そのまましばらく抱えておくことができます。
これは優柔不断というよりも、「現実はそんなに単純ではない」と理解しているからこそ生まれる態度でもあります。
こうした曖昧さへの耐性は、認知的柔軟性ともつながっています。
ひとつの考えに固執せず、状況や新しい証拠に応じて、自分の考え方を調整できる力です。
もちろん、これには社会的なコストもあります。
議論が対立しやすい場面や、結論を急ぎたい場では、「どっちつかず」「はっきりしない」と誤解されることも少なくありません。
しかし心理学的な視点から見ると、矛盾を抱えたまま考え続けられることは、むしろ思考の成熟度のひとつの指標だと考えられます。
複雑な現実に対して、安易に単純な答えを当てはめないことで、長い目で見たときにより正確な判断や理解につながる可能性があるからです。

