
青い顔につぶらな瞳、ぷっくりとしたタラコ唇。
思わず二度見してしまうこのユニークなサルの名前は「トンキンシシバナザル(Rhinopithecus avunculus)」といいます。
この種は今、世界で最も絶滅の危機にある霊長類の一つであり、ベトナム北部にしか生息しない固有種で、一時は絶滅寸前とまでいわれていました。
しかし最新の調査で、この稀少なサルに“静かな希望”が見え始めています。
目次
- わずか50頭からの再出発
- 赤ちゃんの確認が意味するもの
わずか50頭からの再出発
トンキンシシバナザルは、ベトナム北部のカルスト石灰岩地帯に広がる森林にのみ生息しています。
現在確認されている主な生息地は、クアンバ森林と一部の生息地保全区です。
1990年代にはほとんど姿が確認されず、一時は絶滅した可能性さえ疑われました。
2002年、保全団体ファウナ・アンド・フローラ(Fauna & Flora)の調査チームがわずか50頭の個体群を発見したとき、状況は極めて危機的でした。
このサルは国際自然保護連合(IUCN)で「絶滅寸前(Critically Endangered)」に分類されています。
【トンキンシシバナザルの画像はこちらからご覧いただけます】
世界に現存するシシバナザル属の中でも最も希少な種とされ、総個体数は近年まで約250頭と推定されてきました。
主な脅威は密猟と森林伐採です。特に農地拡大による生息地の分断は深刻で、森が小さな断片に分かれてしまったことで、個体群の孤立が進みました。
それでも保全活動は続けられました。地域コミュニティと協力しながら、監視体制の強化や環境教育、生計支援プログラムなどが地道に実施されてきたのです。
赤ちゃんの確認が意味するもの
そして今回、生息地保全区で行われた最新の個体数調査により、約160頭の個体が確認されました。
数としては決して多くありませんが「安定している」と評価されたことが重要です。
さらに心強いのは、調査中に複数の幼体が確認されたことです。
繁殖期外の調査にもかかわらず赤ちゃんが見つかったことは、個体群が機能的に維持されている証拠といえます。
こちらは調査で確認された実際の個体の映像。音量に注意してご視聴ください。
調査では双眼鏡やカメラトラップに加え、サーモグラフィー搭載ドローンや音響記録装置も使用されました。
また、調査区域を格子状に分割し、各チームが担当区画を重複なく調べる新手法も導入されました。これにより、より正確なカウントが可能になりました。
嬉しいことに、今回の調査では密猟の痕跡は確認されませんでした。
かつて最大の脅威だった違法捕獲は、少なくともこの地域では抑えられていると考えられます。
ただし課題は残ります。現在最大の問題は生息地の喪失です。
森林の劣化や分断を食い止め、野生動物回廊を復元しなければ、長期的な回復は難しいとされています。
慎重ながらも楽観的に
青い顔と赤みを帯びる唇は、繁殖期にオスの唇がより赤くなる社会的シグナルとも考えられています。その鮮やかな姿は、まるで森の中の小さな旗印のようです。
総個体数は依然として約250頭前後と推定され、依然として非常に脆弱な状況です。しかし、50頭から始まった保全の物語が、いま160頭の安定という形で実を結びつつあります。
保全の世界では、こうした状況を「慎重ながらも楽観的」と表現します。
森の奥で生まれた小さな赤ちゃんが、未来への希望をつないでいます。
この青い顔のサルの物語は、まだ終わっていないのです。
参考文献
Blue-faced, puffy-lipped monkey scores a rare conservation win
https://www.popsci.com/environment/tonkin-snub-nosed-monkey-conservation-vietnam/
One Of The World’s Most Endangered Primates Is Making A Comeback, One Pouty Baby At A Time
https://www.iflscience.com/one-of-the-worlds-most-endangered-primates-is-making-a-comeback-one-pouty-baby-at-a-time-82626
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

