
IQと暴力にはどんな関係があるのでしょうか。
「頭が良い人は冷静で、衝動的な行動をとりにくい」と感じる人もいれば、「知能と暴力は関係ないはずだ」と考える人もいるかもしれません。
もし、ケンカや事件の背景に「考える力の差」が関わっているとしたら、私たちのイメージは少し変わってきます。
この疑問に正面から挑んだのが、スペインのバレンシア大学(University of Valencia)の研究チームです。
彼らは、これまでに発表された多くの研究をまとめて調べる「系統的レビュー」と、たくさんのデータを統合して全体の傾向を数字で示す「メタ分析」という手法を使い、IQと暴力行動の関係を包括的に検証しました。
この研究成果は、2025年11月11日付の学術誌『Intelligence』に掲載されています。
目次
- IQが高い人ほど暴力に関わる可能性が引くなる
- 「突発的な暴力」とIQの関係が明らかに
IQが高い人ほど暴力に関わる可能性が引くなる
これまでの研究でも、IQの低さが犯罪行動全般と関連する可能性は指摘されてきました。
ただ、「万引きや詐欺も含めた犯罪全体」と「他者に対する直接の暴力」とでは性質が違います。
殴る・蹴るといった身体的な暴力とIQの関係だけに絞って、世界中の研究をまとめて検証した例はほとんどありませんでした。
そこで研究チームは、「暴力をふるう人は本当にIQが低いのか」「もしそうなら、それは単なる背景要因ではなく、暴力行動に関わる重要な要素なのか」という点を確かめることを目的としました。
研究者たちはまず、PubMedやScopusなどの主要な科学データベースを使って関連論文を徹底的に検索しました。
その結果、最初に5,000本以上の論文が見つかりました。
その中で重複を除き、暴力とIQの両方をきちんと測定しているかどうかなどの基準でふるいにかけ、最終的に131本の実証研究を対象にしました。
分析は大きく二つのパートに分かれています。
一つ目は、暴力行為を行った人とそうでない人のIQを直接比べる分析です。
ここでは、暴力行為のある人1,860人と、暴力行為のない人3,888人のIQが比較されました。
二つ目は、IQと攻撃性・暴力傾向がどのくらい一緒に増減するかという「関係性」を調べる分析です。
こちらは合計33,118人分のデータが統合されました。
対象となった行動には、殴る・蹴るといった暴力だけでなく、怒りをうまくコントロールできない行動や、周りに向けて問題行動を繰り返すタイプの行動も含まれていました。
またIQは、全体的な知能を示す「総合IQ」に加えて、言葉の理解や語彙力を示す「言語性IQ」、図形やパターンから法則を見つける力などを示す「非言語性IQ」に分けて分析されました。
その結果、暴力行為を行った人は、行っていない人に比べて総合IQが有意に低いことが分かりました。
さらに、言語性IQと非言語性IQの両方でも、同じように暴力群の方が低い傾向が見られました。
また、IQと暴力傾向の間には、一貫して「IQが低いほど暴力に関わる可能性が少し高くなる」という関係が確認されました。
より細かい結果の違いや、その背景にあるメカニズムについては、次項で詳しく見ていきます。
「突発的な暴力」とIQの関係が明らかに
この研究で特に重要なのは、「どのようなタイプの暴力」とIQが結びついているのか、という点です。
研究チームは、暴力を大きく二つのタイプに分けて整理しました。
一つは、怒りや恐怖、フラストレーションに反応して突発的に起こる「反応的な暴力」です。
たとえば、口論の最中にカッとなって相手を殴ってしまうようなケースがこれに当たります。
もう一つは、利益を得るために計画的に行われる「計画的な暴力」です。
こちらは、脅してお金を取る、復讐のために準備して攻撃する、といった冷静で目的志向の暴力を指します。
メタ分析の結果、IQの低さと強く結びついていたのは、このうち前者の反応的な暴力でした。
つまり、感情の高ぶりに押されるようにして起こる突発的な暴力と、IQの低さとの間には、はっきりとした関連が見られたのです。
一方で、計画的で冷静な暴力との関係は明確ではありませんでした。
では、なぜIQが低いと反応的な暴力に走りやすくなるのでしょうか。
研究者たちは、「認知資源」という考え方から説明しています。
ここでいう認知資源とは、「頭の中のゆとり」や「考える力の余裕」のようなものです。
人はストレスの高い状況や対立場面に直面したとき、自分の気持ちを言葉にする力、問題解決のために選択肢を探す力、衝動を抑える力などを総動員して対応します。
こうした力が十分に働けば、「言い返すだけで終わる」「その場をいったん離れる」など、暴力に訴えない選択肢を選びやすくなります。
しかし、こうした認知資源が限られていると、強いストレスや怒りをうまく処理できず、手が出る、物に当たるといった形で爆発してしまいやすくなります。
研究者たちは、IQの低さがこの認知資源の少なさと関係し、それが突発的な暴力を後押ししている可能性を指摘しています。
さらに、精神疾患や人格障害を抱える暴力者では、非暴力者とのIQ差がより大きいことも分かりました。
これは、認知的な弱さに加えて別の心理的負荷が重なることで、衝動的な暴力のリスクが高まる可能性を示しています。
一方で、IQが低いからといって必ず暴力的になるわけではなく、IQが高いからといって絶対に暴力に走らないわけでもありません。
暴力行動は、生物学的要因、育った環境、現在の生活状況など、多くの要素が絡み合って生じる複雑な現象です。
IQはその中の一要因に過ぎず、直接の原因というより、リスクをやや高める促進因子と考えられます。
今後は、衝動のコントロールや認知の柔軟性といった、より具体的な認知機能に注目した研究が求められています。
こうした知見をもとに、個人の認知特性に合わせた更生プログラムや対処スキルの訓練を設計することも期待されています。
確かにIQが高い人は、突発的な暴力に走りにくい傾向があるかもしれません。
しかし、この研究が伝えたいのは、人を知能の高さで判断することではなく、暴力を減らすためには「考える力」や「対処スキル」を育てる視点も重要だということなのです。
参考文献
People With Lower IQs Are More Likely to Engage in Impulsive Violence
https://www.zmescience.com/science/news-science/people-with-lower-iqs-are-more-likely-to-engage-in-impulsive-violence/
People who engage in impulsive violence tend to have lower IQ scores
https://www.psypost.org/people-who-engage-in-impulsive-violence-tend-to-have-lower-iq-scores/
元論文
Analysis of the intelligence quotient and its contribution to reactive violence: A systematic review and meta-analysis
https://doi.org/10.1016/j.intell.2025.101969
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

