
食事中に「味が少し物足りないな」と感じて、塩入れに手が伸びてしまうことはありませんか。
そしてサッサッと塩をひとかけ、ふたかけする行為。
その何気ない「塩ふり行為」が、うつ病のリスクと関係している可能性があることが、中国・南方医科大学(SMU)の最新研究で明らかになりました。
研究の詳細は2025年12月9日付で科学雑誌『Nutritional Neuroscience』に掲載されています。
目次
- 「塩ふり行為」と「うつ症状」の意外な関係
- 遺伝子レベルで見えてきた「因果関係」
「塩ふり行為」と「うつ症状」の意外な関係
研究チームは、米国の大規模公衆衛生調査(National Health and Nutrition Examination Survey)のデータを解析しました。
2007年から2018年の間に参加した1万5000人以上の成人を対象に、食卓でどのくらいの頻度で塩を追加するかを尋ねています。
ここで重要なのは、「調理中に使われた塩」は含めず、あくまで食事中に自分で振りかける塩だけを対象にしている点です。
参加者は「ほとんどない」から「非常に頻繁」までの選択肢から回答しました。
さらに、参加者は「Patient Health Questionnaire(患者健康質問票)」という標準的なうつ症状の評価尺度にも回答しています。
この尺度では、過去2週間の気分や日常活動への関心を点数化し、合計10点以上で臨床的うつ病が疑われるとされています。
統計解析の結果、塩を頻繁に追加する群ほど、抑うつ症状を示す確率が高いことが明らかになりました。
塩をほとんど使わない人と比べると、最も頻繁に使う人たちは、うつ症状を抱える割合が有意に高かったのです。
この関連は、年齢、性別、収入、教育歴、慢性疾患、喫煙習慣などを統計的に調整した後でも維持されました。
つまり、「塩を振る」という行為そのものが、独立して関連している可能性が示唆されたのです。
もっとも、観察研究だけでは因果関係は断定できません。
落ち込んでいる人が、気分を紛らわせるために塩味の強い食品を好む可能性もあるからです。
そこでチームは、さらに一歩踏み込んだ解析を行いました。
遺伝子レベルで見えてきた「因果関係」
チームは「メンデルランダム化」という手法を用いました。
これは遺伝的変異を利用して因果関係を推定する方法です。
人には生まれつき味覚の好みに影響する遺伝的変異があります。
中には、塩をより好みやすい一塩基多型という遺伝マーカーを持つ人もいます。
研究者たちは、約50万人分の遺伝情報を含む「UK Biobank(英国バイオバンク)」のデータを利用し、塩の嗜好と関連する遺伝変異を特定しました。
そのうえで、これらの遺伝マーカーが、うつ症状や大うつ病性障害とどのように関連しているかを解析。
その結果、塩を多く好む遺伝的素因を持つ人は、抑うつ症状のリスクが約11%、大うつ病性障害のリスクが約28%高いことが示されました。
DNAは一生を通じて基本的に変わらないため、この解析は一時的な気分の影響を受けにくいという特徴があります。
つまり、生物学的なレベルで、塩分摂取とうつリスクが結びついている可能性があるのです。
では、なぜ塩が心に影響するのでしょうか。
研究者は、視床下部‐下垂体‐副腎軸と呼ばれるストレス応答系への影響を挙げています。
ナトリウムの過剰摂取は、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を乱す可能性があります。
この系の機能異常は、うつ病患者でしばしば観察される特徴です。
また、高塩分食は炎症や酸化ストレスを促進し、感情調節に重要な海馬などの脳領域に影響を与える可能性も指摘されています。
さらに、悲観的思考とうつ症状が不健康な食行動を招き、それが再び気分を悪化させるという悪循環も考えられています。
塩ひと振りを見直すという選択
今回の研究は、食卓で塩を追加するというごく日常的な行為が、心の健康と関連している可能性を示しました。
もちろん、自己申告データであることや、正確な摂取量が測定されていないことなど、限界もあります。
しかし、遺伝データを用いた解析でも同様の傾向が確認された点は重要です。
もし、あなたが無意識に毎回塩をふっているなら、一度立ち止まってみる価値があるかもしれません。
味覚の満足度だけでなく、長期的な心の健康という視点からも、食卓の習慣を見直す時代が来ているのです。
小さな「ひとふり」が、心の健康に影響する可能性があるのです。
参考文献
Adding extra salt to your food might increase your risk of depression
https://www.psypost.org/adding-extra-salt-to-your-food-might-increase-your-risk-of-depression/
元論文
Linking salt consumption to depression: triangulating evidence from Mendelian randomization and observational studies
https://doi.org/10.1080/1028415X.2025.2595174
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

