
約3億年前、小さな爬虫類が泥の上にぺたりと腹ばいになりました。
ほんの一瞬の休息だったはずです。
しかしその「ちょっと、ひと休み」が、地球史を塗り替える証拠になるとは、当の本人も想像していなかったでしょう。
ドイツ・テューリンゲンの森で発見された化石から、既知で最古となる爬虫類の皮膚痕跡が見つかりました。
しかもそこには総排出腔、つまり「お尻の穴」と解釈される構造が含まれていたのです。
この研究はベルリン自然史博物館(Museum für Naturkunde Berlin)らの国際研究チームによって行われ、2026年に学術誌『Current Biology』に掲載されました。
目次
- 泥の上に残った「皮膚」そのもの
- 最古の「お尻の穴」の痕跡
泥の上に残った「皮膚」そのもの
化石が見つかったのは、ドイツ中部テューリンゲン盆地のゴルトラウター層です。
年代は前期ペルム紀、約2億9800万〜2億9900万年前と放射年代測定によって確定されています。
今回発見されたのは骨ではありません。
動物が泥の上に体をつけたことで残った「体の痕跡(ボディ・インプレッション)」です。
これまでにも恐竜の羽毛や皮膚構造は知られていましたが、ここまで古い時代の爬虫類の鱗の詳細なパターンが保存された例はありませんでした。
【実際の画像がこちら】
鱗は菱形や六角形など多様な形をしており、現生の爬虫類と同様にケラチンでできた表皮性の鱗と考えられています。
これは骨質の皮甲ではありません。
痕跡には足跡や休息痕も伴っており、新たなタイプの痕跡化石として「カバルツィクヌス・プルクルス(Cabarzichnus pulchrus)」と命名されました。
足跡の比率から、この動物はボロサウルス類と呼ばれる初期の爬虫類の仲間だった可能性が高いとされています。
骨格化石ではなく、痕跡化石がここまで多くの情報を与える例は非常に珍しいのです。
最古の「お尻の穴」の痕跡
そして今回最大の注目点が、尾の付け根付近に残された細長い裂け目状の痕跡です。
研究チームはこれを「総排出腔(cloaca)」の可能性が高いと解釈しました。
【矢印をつけた総排出腔の痕跡がこちら】
総排出腔とは、排泄と生殖を兼ねる単一の開口部で、多くの陸上脊椎動物に存在します。
胎盤哺乳類のみが別々の開口部を持っています。
軟組織である総排出腔が明瞭な形で保存されることは、化石記録ではほとんどありません。
これまで最古とされていた例は約1億2000万年前の恐竜プシッタコサウルスでした。
今回の標本はそれを約1億7000万年以上さかのぼります。
研究者らは論文中で、これが羊膜類における最古の総排出腔の化石記録であると述べています。
興味深いのは、その形状です。
恐竜やワニ類とは異なり、むしろカメやトカゲ、ヘビに近い形状と向きを示しています。
これは初期爬虫類の軟組織の進化を考えるうえで重要な手がかりになります。
足跡は語る
「痕跡化石は単なる足跡以上のものです」と研究者は語ります。
骨が残らなくても、体が触れた痕跡は残ることがあります。
そしてそこには、本来なら永遠に失われていたはずの解剖学的情報が刻まれているのです。
約3億年前の小さな爬虫類の一瞬の休息。
それが、爬虫類の皮膚構造と総排出腔の進化を語る、世界最古の証言となりました。
泥の上に残された「お尻の穴」は、進化の歴史を静かに物語っているのです。
参考文献
Oldest Fossilized Butthole Found in 290-Million-Year-Old Reptile
https://www.sciencealert.com/oldest-fossilized-butthole-found-in-290-million-year-old-reptile
Oldest known reptile skin impressions discovered in the Thuringian Forest
https://www.museumfuernaturkunde.berlin/en/museum/media/press/oldest-known-reptile-skin-impressions-discovered-thuringian-forest
元論文
The earliest reptile body impressions with scaly skin
https://doi.org/10.1016/j.cub.2026.01.036
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

