星野リゾート始動と「コンセプト委員会」発足

「前の運営会社から代わって、星野リゾートのオペレーションが始まったのが2003年の4月だったんです。僕を含めて30代の若手メンバーが招集されて『コンセプト委員会』という、今後このスキー場をどう運営していくのかを検討する場が設けられたんです。
山の特性を考えると、トマムはやっぱりファミリー層に特化していくほうがいいんじゃないかって、委員会全体がファミリー路線に傾きつつあったんですけど、そこで星野代表が言ったんですよね。
『魅力ってのは、考えて見つけ出すもんだよ。絶対にあるはずなんだから』って。だから僕、言ったんです。『今、滑走禁止にしているコース外を開けたいんだ』って。僕らは巡視のために山の隅々まで滑っていたから、コース外が実はすごくいいところだってわかっていたわけです。トマムの上部は白樺やブナやいろいろな樹があって、美しくて雰囲気がとてもいいんです。まるで海外にいるみたいな気分になれる。
20年以上も前の当時は、どのスキー場もコース外を滑ったらリフト券は没収、僕らも木の陰に隠れるようにしてお客さんを見張っていたりしていて(笑)、正直、何やってんだろうなってずっと思ってたんですよね。安全に滑らせてあげたら本当に楽しいところなんだよなって」
この、大宮さんのアイデアに対する星野代表の答えは「だったら、ぜひやったほうがいいよ」だった。
「このときの胸の高鳴りは忘れられない。もうモチベーションが爆上がりでしたよ。僕ら30代のスタッフは希望に満ち溢れていた感じです。
しかし、やるにしても、諸問題がいろいろ絡むから時間をかけてじっくりやったほうがいい……なんて声もあったのですが、僕はこの冬からやりたいんだって訴えたら、星野代表が『できるんだったら時間をかける必要なんてないから、もう一気に進めよう』ということで、上級者限定解放エリアの設定と同時にCATツアーまで最初の冬から立ち上がったんです」
大宮さんは当時を思い出しながら話してくれた。
深層にある思想

しかし、上級者限定解放エリアやCATツアーといった施策は、「トマムの新たな魅力発掘」だけが目的ではなかった。その根底にあるのは、「雪山のリスクを理解し、自ら安全への意識をもって自然と向き合う文化を育てる」という思想だ。
安全に関するレクチャーを行い、ヘルメットを貸出し、ビブをつけて滑ってもらう。解放エリアに入るための条件設定、装備や注意喚起のレクチャーとコンディションの情報提供、そして徹底したパトロール体制。それらが自由を成立させるための基盤として整えられている。ルールを理解し、自分の技量を把握し、判断できる人にこそ、山は自由の喜びを与えてくれる。トマムの安全管理は、利用者を“守る”というより、“育てる”思想に近い。
「我々がコース外の解放を始めた頃は、“トマムが何かヤバイことをやり出したぞ”なんて口コミで広がって、今まで林の中のパウダーを滑りたかった人が隠れて滑っていたのが堂々と滑れるようになったことで、“すごくいいことをやってくれた”っていう声はたくさん耳に入ってきてましたね。
けれど、うちのスキー場だけが林の中を滑れるようになればいい、なんて僕は考えていたわけじゃなくて、それよりも、林の中だってきちんと安全対策をしてやれば滑れるんだよってことを、もっと一般常識のように広く知ってほしいという思いがあった。なので、それから、いろんなスキー場で認識が変わってきたことは、僕自身とても嬉しいなと思っているんです」
いまやツリーランブームとさえいえるほど、続々とコース外が解禁され、多くのスキー場でツリーランを楽しむ森林エリアが拡張している。トマムも始めは2エリアだったものが、現在では6エリアにまで広がった。

どのような背景で広がっていったのだろう。
「まず、林の中でも割と樹の密度が薄いオープンな部分の多いエリアを2つ開けて、そこで実際にどれくらい事故が起きるのか、しっかり検証したかった。でも、実際に開けてみたらケガ人はわずか一桁くらいしか出なかったんですね。しっかりと対策をとってやれば、事故もそうそうはおきないってことがわかったので、徐々に広げていった感じです」
安全面の観点で検証して問題がないという客観的な判断と、現場の「やれる」という手応えが、そこにはあった。
