「引き寄せられてきた」

狩振岳CATツアーを、立ち上げから今日まで指揮してきた、玉井幸一さん。自らオペレーターとして雪上車のハンドルを握り、ゲストたちをその日の最高のスポットに案内するガイド役も担う。
玉井さんも、2003年4月のコンセプト委員会のメンバーだった。
「当時、僕は索道スタッフだったんですが、コンセプト委員会で、今までと違う魅力を発信できるようなことをやるって聞いたので、自分で立候補したんですよ。僕、富良野出身なんですけど、その前からバックカントリーがすごく好きで、バックカントリーをとにかくやりたかったんです。

CATツアーの始まりで一番悩んだのは山、フィールドの選定でした。トマムのスキー場から離れたところでやりたかった。それを前提として周辺には候補になりそうな山は複数あったのですが、狩振岳にはなぜか自分が呼ばれているような感覚があって(笑)、引き寄せられるように決まった感じでした。この山には伐採のためのブル道がもともとあった。なので圧雪車が走れる道がすでに用意されていたんです。それもよかった点ですね」
大事なのは無事に時間通り戻ってもらうこと


もう20年以上、玉井さんは狩振岳と向き合ってきたが、一日として同じ日はない。エスコートするゲストのために、玉井さんは研ぎ澄まされた感覚で、その日のベストコンディションを選び出す。
「マニュアル? ないですよ(笑)。その日の風と雪と気温で、自分が”ここだな”って思うところを選択して、アプローチします。自然のコンディションは刻々と変わるから、マニュアル通りにはいかないんですよね。ゲストの滑りの志向や技術レベルにも合わせないといけない。基本は朝一番で一気にトップまで上がるのですが、最初にレベルを見極めたいときは、まずちょっと緩い斜面に連れていって、その後のプランを考えたりもします。
なにより大事なのは、ゲストを安全に時間通りに戻すことなんです。いい思いをしてもらって、次の日に疲れを残さない程度に戻ってもらうのが理想かな」
その思想は、上級者限定解放エリアと共通している。規制のない自然のフィールドで、ゲストが自分の体力や技量を自身に問いながら、どんなランを滑るか考える。自然と自分に向き合うことが、単に滑る楽しさとはまた別の貴重な時間になっているのだ。
数字から見えてくるもの

このCATツアー、毎年シーズン中の運営予定の80%がリピーターですぐに予約がいっぱいになるという。シーズン中の金曜日・土・日・月曜日が開催日で、金曜日と月曜日は貸切ゲスト専用日だが、貸切日の予定もどんどん埋まり、すでに今シーズンも予約をとるのはひと苦労なほど。
「皆さんがリピートしてくれるのが何より嬉しいことです。この体験の価値がどう評価されているか、リピーターの実績がすべての答えだと思うから。『玉井さん、いついつ行きたいんだけど』って僕に直接電話がかかってくることもあります(笑)」
上級者限定解放エリアやCATツアーの歴史を紐解くと、興味深い傾向が見えてくる。事故発生の少なさ、安全を意識したゲストの行動変容、リピーター率の高さなど……これらはトマムの取り組みが一過性の話題や単なるアクティビティではなく、文化として根付き始めていることを物語っている。
星野リゾート トマムが描く雪山文化の未来へ

大宮さんは言った。
「僕の理想は事前申請も一切必要なしで、すべてが自由で、でもみんなちゃんと自己責任で安全を守って楽しく滑っている世界になることですね。解放エリアという言葉が特別でなくなること」
この言葉は、とても象徴的だ。
トマムが目指しているのは、日本の冬山文化の成熟だ。
上級者限定解放エリアも、CATツアーも、ただサービスとして自由を提供するものではない。それは、冬山に魅せられたひとり一人が、自然と自分に向き合うためのフィールドであり、特別な時間がそこにある。
訪れた人が、山を敬い、学び、また戻ってくる。
その連なりの先にこそ、「冬山解放宣言」が本当に意味する未来があるのではないか。
Information
星野リゾート トマム
〒079-2204 北海道勇払郡 占冠村中トマム
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