※以降、『神社 悪魔のささやき』のネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)に該当する要素を含みます。未見の方はご注意ください。
■「自らアイデアを提案したクライマックスのシーン、自然に涙があふれてきました」

舞台は、日本の神戸。廃神社で大学生たちが次々と失踪する“神隠し”事件をきっかけに、韓国からやって来た祈祷師ミョンジン(JAEJOONG)が、土地に潜む“悪しき存在”の正体に迫っていく。
「初めて挑むホラーというジャンルのなかで、僕がどうやって表現できるのかっていう思いがありました。自分の人生そのものにとっても、すごくいいチャレンジだったと思います」。
ホラー作品を選んだ理由を問うと、こう答えたJAEJOONG。強い決意で臨んだ現場だったが、最初に脚本を受け取った際には、意外な驚きもあったという。「脚本を読む前は、日本語を話す役なのかなと思っていたんです。でも実際は、日本語をほとんど話さない役だったので、少し驚きましたね(笑)」。

JAEJOONGが演じるミョンジンは、シャーマンの家系に生まれ、卓越した霊能力を持ちながらも、過去の事件に傷つき、占い師としてひっそりと生きている複雑な人物だ。学生時代に特別な想いを寄せていたユミ(コン・ソンハ)から助けを求める連絡を受け、彼は神戸へ向かい、再び運命と向き合うことになる 。
役作りにおいては、韓国の伝統的な祈祷師・ムーダンの作法を学びつつ、熊切監督のビジョンに合わせて「あえて型にはまらない」表現を模索した。「ムーダンは子どもの頃に見たことがありましたが、演じるにあたって仕草や伝統についてあらためて勉強しました。ただ、ミョンジンが唱える呪文はムーダンのものではなく、韓国の仏教をベースにしたものでした。一見矛盾しているようですが、監督から『これはファンタジーだから、慣習にとらわれなくても大丈夫だよ』と言っていただいて、自由に演じることができました」。
特に苦労したのは、内に秘めた力を解放するまでの「引き算の演技」だったという。ミョンジンの感情の起伏について、こう振り返る。「最初はミョンジンが持つ能力をほとんど見せずに、最後に一気に出す。感情をひたすら抑えるというのが、すごく難しかったですね」。

その抑制された感情が解き放たれるのが、クライマックスのシーンだ。ここで彼は、監督に自らアイデアを提案した。
「トンネルの中で悪魔と戦う場面でのミョンジンの表現については、『ここからはこれぐらい出してもいいのでは』と監督に伝えました。涙を流すシーンもありますが、もともとは泣く設定ではなかったんです。ミョンジンは強い人だから。ミョンジンの中に悪魔が入ってきても、本来なら悪魔は泣かないはずですよね。だけど、ミョンジンの意志があまりにも強くて、体の98%を悪魔に支配されていても、2%だけ彼自身の感情が残っている。そのわずかな感情が出てしまうという設定で演じたんですね。2テイクしか撮っていないのですが、 すごく泣いてしまって。『みんなを守らなきゃいけない、悪魔に絶対に負けちゃいけないのに……』という悔しさがあって、自然に涙があふれてきました。ミョンジンの気持ちをきちんと表現できてうれしかったです」。
■「日韓のスタッフが意見を言い合い、情熱が倍になるいい現場でした」

物語のもう一つの軸が、ユミとの関係だ。過去の誤解によって別れてしまった初恋の相手。再会してもなお、感情を表に出せないミョンジンの揺れる心をどう演じるか、悩んだという。
「失踪した学生たちを捜しに行く途中、ユミにライトを渡すシーンがあります。ユミに対する思いが残るミョンジンを表現するために、照れ隠しのように意地悪する仕草を入れたかったんです。でも、もっと感情を抑えたテイクが選ばれて。どうしても、1秒でもそういうところを入れたかったんですけど(笑)」。
本作は、オール神戸ロケという点でも話題を呼んでいる。歴史ある港町、薄暗いベルトコンベヤ跡のトンネル、人々の生活感が残る廃屋群。実在する風景が、映画に不気味な説得力を与えている 。しかし、JAEJOONGはタイトルにもなっている「神社」に、撮影前はあえて足を運ばなかったと明かす。
「むしろ神社に行かないほうが、役作りにはいいんじゃないかと思ったんです。物語の最後に、事件が終わったあとユミと一緒に神社へ行くシーンがありますよね。そこでおみくじを引いて、『これはなんだろう』みたいな表情をする。ミョンジン自身は祈祷師なのに、こういう迷信のようなものを本当に信じるのか?という少し距離のある顔をするんです。だからこそ、事前に神社を体験しないほうが、その瞬間に自然な表情が出るんじゃないかなと思いました」。

撮影現場は、熊切監督率いるチームと、韓国の製作会社、そして日韓のキャスト・スタッフによる混成チームだった。言語の壁を超えた意見のぶつかり合いもあった。「スタッフが言い合いになることもあって。でも、意見を言い合うのは、いい作品にするためですよね。日本と韓国のスタッフがぶつかると、僕はどっちも聞き取れるじゃないですか。だからおもしろいんですよ(笑)」。
監督からは「JAEJOONGが現場のまとめ役だった」という証言もあるが、本人は笑って否定する。「いや、実はまとめ役が嫌だったんです。どんどん激しくなっていってほしかった(笑)。意見を言い合って仲直りしないまま撮影に入ると、情熱が倍になるんです。すごくいい現場でした」。
■「30代とは違う新たなチャレンジがすごく楽しみです」

日本での活動を始めて約20年。かつては高く感じられた日韓のエンタメの壁もいまでは溶け合い、自由に行き来できるようになった。
「僕が日本でデビューした頃は、日本のエンターテインメントの世界で活動するためには、乗り越えなきゃいけない壁がもうあまりにも高すぎて。でもいまは、日本の方々も韓国で活動を始めようとトライしていますし、韓国からも日本に来て活躍している人たちもたくさんいる。こんな自由な時代が来るとは思わなかった。めちゃめちゃうれしいですね」。
自身も8人組多国籍ガールズグループ「SAY MY NAME」のプロデュースを手掛けるなど、次世代への架け橋としても精力的に活動するJAEJOONG。今年40歳という節目を迎え、その視線はさらに先を見据えている。
「音楽以外にも、こうして映画でまたご挨拶することができて、本当にうれしいです。30代とは違う新たなチャレンジができる気がしていて。これからがすごく楽しみですね」。
取材・文/桑畑優香
