「第169回直木賞」と「第36回山本周五郎賞」W受賞の時代小説『木挽町のあだ討ち』が映画化され、2月27日に公開される。本作は、ある仇討ちの顛末を探る回想構造のミステリーで、人々のモノローグが重なり合い、最後には深い感動へと導く物語だ。”読む”醍醐味に満ちた原作を、いかに映画として”観せる”か。源孝志監督は、映像化不可能といわれた原作を大胆にアレンジ。
文化七年一月十六日、江戸・木挽町。歌舞伎の芝居小屋・森田座のすぐ近くで起きた仇討ち。芝居を観終えた観衆が見守る中、美濃遠山藩士・伊納菊之助(長尾謙杜)が、父・清左衛門(山口馬木也)を殺害し逃亡していた男、作兵衛(北村一輝)の首を見事、討ちとった。それから一年半後、同じ遠山藩で、菊之助の縁者を名乗る加瀬総一郎(柄本佑)が森田座を訪れ、どこか腑に落ちない仇討ちについて森田座の面々に聞き込みを行う。飄々とした主人公・加瀬総一郎が、仇討ちの先にある心温まる粋な人情を鮮やかに描き出した本作。主演の柄本佑さんに、本作の舞台裏と時代劇のこれからについて話を聞いた。
映画化で生まれた原作にない主役
——本作『木挽町のあだ討ち』へ出演が決まった時のお気持ち、感想など教えてください。
僕はあまり小説を読む方ではないのですが、この原作は事前に読んでいました。本屋に行くのが好きなんですけど、”うちの親父、木挽町生まれだし”っていう理由で、この映画の原作を表紙買いして読んだんです。”面白いな、でも映像化は無理だな”と思っていた数年後にお話をいただいたので、”妙な縁があるな”と思いました。 少ない読書歴の中で、こういう縁があったのは、実は2回目です。「空白を満たしなさい」というNHKドラマも事前に原作を読んでいたんです。知り合いに勧められて読んだらすごく面白い。そして、後々ドラマ出演のお話が来た。そういう縁を感じると”自分がやるべき作品なのかな”と思ったりしますね。
——脚本では、原作にはない加瀬総一郎が主人公に据えられています。
証言者のモノローグが続く原作に対し、総一郎という人物を主役に置くアイデアは、さすが源監督だと思いました。ずっとカメラ目線で証言だけを撮るわけにいかないし、源監督のアイデアには驚きましたね。
——加瀬総一郎を演じるにあたって、大切にした点を教えていただけますか?
キャスト陣の頭に僕の名前は一応あるけど、やはり事件が主役で、そこに関わる人たちが主役なので、僕の存在が目立たないように、みたいなことは考えていたと思います。
この映画みたいに事件を追う時代劇でいうと「鬼平犯科帳」。あれなんか、「吉右衛門さん、5分ぐらいしか出てなかったな」とかあるじゃないですか(笑)。なるべく、動きやリアクションも目立たないように、この作品の中に馴染むようにして、むしろ劇中で目立ってくるのは森田座の面々で、僕は下がれるように意識していたような気がしますね。
それと僕、ちょっと背が高いので、 目立ちすぎないようにしなきゃとも考えていたんじゃないかな。 そうそう、出演者のみなさん、作兵衛役をやりたがっていたらしいです。篠田金治役の渡辺謙さんもおっしゃっていました。「俺は作兵衛がやりたかった」って (笑)。いい役なんですよ、作兵衛って。
魅力的な仇討ちの映像美
——完成された本編をご覧になって、どんな感想をお持ちになりましたか?
なかなか客観的に観られないんですよね。いつもそうなんですけど、今回の理由の1つとして、僕は今まで源監督の作品は、NHKのテレビ作品しかやったことがなかったんです。それが、やっと映画に呼んでもらえた感慨と、源監督のこの作品を撮りたいという思いの方に気持ちを持っていかれて、なかなか冷静に観られないんですよ。
——柄本さんにとって源監督、そして源組というスタッフは、どんな存在ですか?
源監督は、僕を一番リピートして使ってくださっている監督で、現場は、もう実家に帰るぐらいの感覚で勝手知ったる場所なんです。
コロナがあってから数年、源組で仕事をしていなくて、NHKのドラマ「グレースの履歴」で数年ぶりに呼んでもらって、衣装合わせに行ったら、知っている人たちがいて‥‥。それに、すごくほっとしたんです。不安定な状況下だったので、みんな大丈夫かなって、どこか無意識で思っているところもあったんでしょうね。あのときは、なにか温かいものに包まれているような安心感のなかで仕事をした記憶があります。そういう場所があるって、本当にありがたいなと思います。
——柄本さんが思う源監督、源組の魅力ってなんですか?
やっぱり映像美ですね。いつも思うけど今回も十二分に発揮されています。冒頭15分ほどの仇討ちのシーンは、源監督とカメラマンの朝倉 (義人) さんが腕を振るった非常に見応えのある美しい仕上がりです。見ていて気持ちいいです。 あと源監督の作品は、一点集中になりすぎないんですよ。常に洒脱というか、シャレが効いたバランスが絶妙。常に引いたところにいて、決して周りが見えていないっていうことにはならない。源監督って、なんでそんなに撮るの?と思うぐらい、年にたくさんの作品を撮っているから、状況を冷静に判断しつつ、見ていて疲れないちょうど良い軽さがあるのが良さだと思います。
