
もし約2億9000万年前の森にタイムスリップできたなら、そこには恐竜よりも前にいた捕食者たちが闊歩していたはずです。
そして今回、その時代の“食後のワンシーン”が、思いもよらぬ形で現代に伝わってきました。
発見されたのは、なんと吐き戻しの化石です。
今回、ベルリン自然史博物館(Museum für Naturkunde)らの研究により、ドイツ・テューリンゲン州から小さな骨の塊を発見。
調査の結果、陸上で見つかったものとしては、世界最古級のレガージタライト(吐き戻し化石)だと結論づけられました。
研究の詳細は2026年1月30日付で学術誌『Scientific Reports』に掲載されています。
目次
- 太古の「吐き戻し」の証拠
- 2億9000万年前の「食物網」をのぞく
太古の「吐き戻し」の証拠
問題の標本は、長さ約5センチほどのコンパクトな骨の塊です。
内部には、20ミリ未満の小さな骨が40点以上含まれていました。
マイクロCTによる解析の結果、これらの骨は少なくとも3種類の動物に由来することが分かりました。
【吐き戻しの化石に含まれていた骨の画像がこちら】
ここで重要なのは、この化石が「糞の化石(コプロライト)」ではなく、「吐き戻しの化石(レガージタライト)」だと判断された点です。
両者の違いは、骨の状態と化学組成にあります。
糞化石の場合、消化が進んでいるため骨は細かく砕かれ、周囲の基質にはリンが多く含まれます。
ところが今回の標本では、骨は比較的原形を保ち、一部はつながった状態で残っていました。
さらに、骨の周囲の基質にはリンがほとんど含まれていなかったのです。
これは獲物をある程度飲み込んだものの、完全に消化される前に吐き戻された可能性を示唆しています。
2億9000万年前の「食物網」をのぞく
では、誰がこの“リバース”をしたのでしょうか。
研究チームは、当時この地域に生息していた大型の肉食単弓類、ディメトロドン・テウトニスまたはタンバカルニフェクス・ウングイファルカトゥスのいずれかが生産者である可能性が高いと考えています。
単弓類は哺乳類の祖先にあたる系統で、人間の遠い親戚にあたる存在です。
彼らは現在の爬虫類のような姿をしていましたが、進化的には私たちの側に近いグループでした。
【チームが復元した当時の吐き戻しのイメージ画像】
吐き戻された骨には、爬虫類に属する3種の小型生物が含まれていました。
これは、当時の頂点捕食者が特定の獲物に限定せず、その場で得られる獲物を利用する「機会的摂食」をしていた可能性を示しています。
さらに重要なのは、これが陸上環境で保存されたという点です。
湖や海に比べ、陸上は化石が残りにくい環境です。その中で、吐き戻しという行動の痕跡が約3億年後まで残ったこと自体が驚きなのです。
手のひらサイズのタイムカプセル
この小さな骨の塊は、単なる奇妙な化石ではありません。
手のひらに収まるその中に、同じ場所、同じ瞬間に存在していた3匹の動物の痕跡が閉じ込められています。約2億9000万年前の陸上生態系の断面図が、そのまま保存されているのです。
恐竜よりも古い時代、森の中で繰り広げられた捕食と吐き戻し。その一瞬が、石となって私たちの前に現れました。
世界最古の「リバース」は、古代の食物網を解き明かす新たな窓になりそうです。
参考文献
The Oldest Fossilized Vomit Ever Found On Land Captures The Victims Of A 290-Million-Year-Old Hunt
https://www.iflscience.com/the-oldest-fossilized-vomit-ever-found-on-land-captures-the-victims-of-a-290-million-year-old-hunt-82673
元論文
Early Permian terrestrial apex predator regurgitalite indicates opportunistic feeding behaviour
https://doi.org/10.1038/s41598-025-33381-0
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

