原作者の伏瀬がストーリー原案・監修を務め、シリーズで初めて海を舞台にした物語が描かれる本作では、主人公リムル(声:岡咲美保)と仲間たちが海底にある国・カイエン国の危機に立ち向かう。そんなリムルたちの前に立ちはだかる劇場版オリジナルキャラクター、カイエン国の大臣・ゾドンを演じるのが堂本光一だ。
■「僕の経験を声の芝居に乗せられたらいいなと思いながら演じました」
劇場アニメの声優に本格的に参加するのは初となる堂本は、本作へ参加したことに巡り合わせを感じているという。
「地上波でアニメが放送された時の第1話を偶然観ていました。スライムって、言ってみれば雑魚キャラじゃないですか(笑)。最初にやられがちなキャラだけど、このアニメではそうではない。そういう意味でもすごく印象に残っていたアニメで、まさか自分がこの世界に入るなんてことは思ってもいなかったです」。

「転スラ」のようないわゆる“異世界転生モノ”の作品はたくさんあるが、堂本自身は、転生することに対してどのようなイメージを持っているのだろうか。
「みんな転生願望があるのかなってくらい流行っていますよね。僕自身、転生についてはあまり深く考えたことはないです。転生願望は…ありません(笑)。ありがたいことに、仕事である意味いろいろな人の人生を疑似体験しているようなものというのもあるし、いまの人生を胸を張って生きられるように生きようと言い聞かせているので」と笑顔を見せる。ちなみに、いまの自分の人生を胸を張って生きられるようにするためには「とにかく頑張る。踏ん張って頑張るしかないんです!」と力を込めていた。
アニメ作品で声優を務めるのは2006年放送のTVアニメ「獣王星」以来、実に20年ぶりの参加となる。参加の決め手となるような出来事やきっかけがあったのか気になるところだ。
「20年ぶりという感覚はそんなになくて。自分ができるものを捧げることができたらいいなという思いで演じました。お話をいただけたことはすごくうれしかったです。当時もすごく楽しかったし、機会があれば声優のお仕事はぜひまたやりたいと思っていたんです。なにかに背中を押されたとか特に大きな理由はないのですが、アニメにせよ舞台にせよ、声を使う仕事という点で大きな違いはないけれど、与えられた役をどのように表現できるか。自分なりにきちんと考えて向き合いました」。

声を使うという共通点はあれど、声だけで表現するという声優としての芝居は、難しさを感じるところもあったという。
「アフレコの段階では情景が見えにくい。そこを声だけで表現するのはやっぱり難しかったです。わからないところは現場で細かく相談しながら進めていきましたが、僕がこの役をやるとなったなら、僕の持っている経験みたいなものを声の芝居に乗せられたらいいなと思いながら演じました」と、自身に巡ってきた役だからこその表現にはこだわりを持っていたようだ。
■「風邪を引いていた時のかすれ声を褒められて困りました(笑)」

演じるゾドンについては「いままで演じたことのないような役」ともコメントしていた堂本。演じたことのない役を通して感じた表現の楽しさや発見はあったのだろうか。
「いわゆるヒール役。自分とはかけ離れている役はやっていて楽しいもの。もちろん声のお芝居特有の難しさは感じつつも、楽しいアフレコでした。ゾドンはTVアニメには登場しない劇場版オリジナルキャラクターなので、観客はキャラクターの背景を知りません。そういった意味では、登場した時からこのキャラクターはどういう人生を歩んできたのか、どういう特徴があるのかをしっかりと示さなければいけない。芝居に自分の人生の経験を乗せられたら…ということに繋がるのですが、本作で言えばゾドンの人生をきちんと声に乗せることは意識していた部分です」と解説する。

登場時にどういうキャラクターなのかを印象づけるのは、舞台で培った経験が役立っていると語る。「『ハムレット』や『リチャード三世』などシェイクスピア作品の役も演じてきています。演じるのは彼らの人生のほんの一部分だけ。だから第一声からその人物がどういう人物なのかをはっきり表現する必要があります。ハムレットやリチャード三世のように有名なキャラクターであればあるほど、そういった表現が求められてきます。その感覚、表現は声優としてもできたらいいなという思いは常に持っていました」と演じる上で心がけていたことを振り返る。
また、収録時にはちょっとしたハプニングもあったようだ。「実は1日目のテストの時に、風邪をひいてしまっていて。非常に申し訳ないと思っていたのですが、そのかすれた声を監督さんから『その感じ、いいですね!』と言われたんです。これは困ったぞって思って。風邪を治したら本番、この声出ないですって言いました(笑)」と茶目っ気たっぷりに語る。本番では風邪は完治。褒められた声の感じをどのように出したのだろうか。「かすれた声でも通常時の声でも、声を鳴らすポイントは変わらない。そこを踏まえてやったらOKでした!」と笑いながら振り返っていた。
■「余白を残すアニメならではの表現がおもしろい」

では、「自分とはかけ離れている役」と語ったゾドンというキャラクターをどのように捉えていたのだろうか。
「まず見た目がダンディだったので、なぜこの役を僕に?というのが最初の感想でした。ヒゲが生えない僕から見たら、すごく羨ましいビジュアルだなと(笑)。実写だとヒゲを生やしたキャラクターがハマらなくても、アニメの世界でなら演じることが可能なのがアニメーションの良いところですよね。今回、役でダンディな見た目のヒゲキャラを経験できたのはうれしいですね」とニコニコしながらゾドンのビジュアルからの印象に触れていた。

ゾドンとリムルが戦うアクションに加え、カイエン国で水竜に祈りを捧げる巫女・ユラ(声:大西沙織)とゴブリンのゴブタ(声:泊明日菜)とのパートも本作における注目ポイントとなっている。
「明確な答えみたいなところは表現されていないのですが、ユラの本心はどのようなものだったのか。恋の心があったのか。これはもう、観た人の判断に委ねたいと思います。これも声優のおもしろいところだと思うのですが、表現しすぎないほうがいい場合もある。もちろん振り切ったお芝居が必要な場面もあるけれど、観た人がどう感じるのかという余白を残す表現は、アニメならではの表現でおもしろいんじゃないかなと個人的に思っています」。

いろいろな魔法が登場する本作だが、堂本が番組などで後輩たちに投げかける言葉にはある種、“魔法”がかっていると感じられる場面に遭遇する。「そんなことはない(笑)」と照れながら謙遜する堂本だが、言葉の受け手の反応や表情から、その言葉からもらったものの特別さが伝わってくるのだ。堂本が誰かに言葉を投げかける際に意識していることについても訊いてみた。
「いまの世の中、言葉も含めて誠実であることがすごく大事じゃないですか。でも、そうなっていけばいくほど相手の本心がわからないな…みたいなところに、逆に恐怖を感じることがあります。誰かが喋っていることに対しても、その言葉の裏にあるものをしっかり読み取りたいと考えているし、誰かに言葉を投げかける際には、上辺だけにならないようにしたいと思っています。わかってほしい人には読み取ってほしいところまでしっかりと伝えるように心がけているんです」。
取材・文/タナカシノブ
