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海のオタマジャクシ、タウリンの匂いで変態していた

海のオタマジャクシ、タウリンの匂いで変態していた

海のオタマジャクシ、タウリンの匂いで変態していた
海のオタマジャクシ、タウリンの匂いで変態していた / Credit:川勝康弘

中国の中国海洋大学(OUC)で行われた研究によって、ホヤ(Ciona savignyi)のオタマジャクシ型の幼生が、エナジードリンク成分として知られるタウリンの匂いをたどり、集まってきた場所で多くが大人へ変身する仕組みが明らかになりました。

研究では、ホタテやホヤ成体の体から小さな分子だけを取り出し、どの成分がホヤのオタマジャクシ型幼生を引き寄せるかを一つずつ調べています。

その結果、強く幼生を集めたのはタウリンだけで、しかもタウリンが多いほど幼生の尾が縮みはじめ、変態(姿と生活スタイルがガラリと変わること)のスタート合図になっていることが分かりました。

もしこの成果を応用できれば、港のロープやホタテのカゴをびっしり覆う「ホヤ汚れ(生物汚損)」を、タウリンの匂い経路をうまく操作することで弱めたり、逆に食用ホヤの養殖では「幼生を集める香り」として利用したりできるかもしれません。

今回の研究内容の詳細は、2026年2月20日に『Science Advances』にて発表されました。

目次

  • 脳を捨てて生きるホヤ、その人生最大の決断はどこで下される?
  • タウリンの香りでホヤが集合・変態する
  • タウリンの香りが決めるホヤの人生とホタテ養殖の未来

脳を捨てて生きるホヤ、その人生最大の決断はどこで下される?

脳を捨てて生きるホヤ、その人生最大の決断はどこで下される?
脳を捨てて生きるホヤ、その人生最大の決断はどこで下される? / Credit:Canva

ホヤはちょっと変わった生き物です。

ホヤは子どものころは脊椎動物に近い姿で、オタマジャクシ型の幼生として海を泳ぎ回ります。

体の中には背骨に似た脊索と単純な脳があり、まさに「小さな魚の原型」といった姿です。

ところが、一度どこかのロープや貝のカゴにくっついてしまうと、尾も脊索も脳もほとんど溶けてしまったような状態になり、「動かないプヨプヨの袋のような姿」で一生を過ごします。

この「どこにくっつくか」は、ホヤにとって一生を決める重大な選択です。

ホヤは脊索動物の中まで私たち脊椎動物に非常に近い種類です。しかし大人になるとその形態は劇的に変化し脳なども溶かして脊索動物に見えないものになります
ホヤは脊索動物の中まで私たち脊椎動物に非常に近い種類です。しかし大人になるとその形態は劇的に変化し脳なども溶かして脊索動物に見えないものになります / ホヤは幼生期は遊泳しているが、大人になると固着生物になる Credit:慶応大学

海の中には、細菌の膜、ほかの生き物の匂い、フンなど、さまざまな化学シグナル(匂いのもとになる分子)がただよっています。

しかし、こうした匂いのどれが、どんな神経回路(脳の配線図)を通じてホヤ幼生の決断につながるのかは、ほとんど分かっていませんでした。

そこで今回研究者たちは、ホヤがくっ付き先によく選ぶホタテなどの体から染み出す成分に着目し、ホヤ幼生がどんな匂いを「住む場所ナビ」として使っているのか、そしてその匂いが原始的な頭のどんな回路を通って行動と変態を動かしているのかを明らかにしようとしました

もしこの秘密の物質を特定できれば、ホタテ養殖業などホヤの汚損に悩む産業に、新しい対策のヒントが生まれるかもしれません。

タウリンの香りでホヤが集合・変態する

タウリンの香りでホヤが集合・変態する
タウリンの香りでホヤが集合・変態する / Credit:Canva

ホヤの固着を促す成分は本当にあるのか?

答えを得るために研究者たちはまず、実際のホタテ養殖用の網カゴを海に沈め、6か月後に回収して、ホタテが入っているカゴと殻だけのカゴとで、どれだけホヤが付着しているかを比べました。

すると、ホタテが入っている方によりホヤが多く付着しており、「ホタテの中身から出る何か」が幼生を呼び寄せているらしいことが見えてきました。

次に、研究者たちは、ホタテの筋肉や生殖腺、ホヤ成体の体から、小さな分子だけを含んださまざまな抽出液を作りました。

これを寒天につめて、周りにホヤの幼生をたくさん放ちました。

そしてホヤがより多く集まった抽出液を分析し、どんな成分がどれだけ入っているかを調べました。

するとホヤの幼生を強く引き寄せていた成分が「タウリン」だけであることがわかりました。

タウリンはエナジードリンクにも含まれていることが知られる、アミノ酸の一種です。

研究者たちがタウリンの濃度を変えた海水にホヤの幼生を放ったところ、タウリンの濃度が濃いほど尾が縮んだ幼生の割合が増えました。

つまりタウリンは、幼生を集める「匂いの目印」であると同時に、その場で変態を始めさせる「変身スイッチ」でもあったのです。

では幼生の体のどこで、タウリンの匂いを感じているのでしょうか。

研究者たちは細胞が活動したときに光るタンパク質をホヤの幼生に仕込み、タウリンを加えた時にどこがどう光るのかを調べました。

するとホヤ幼生たちの頭の先端部分にある突起に含まれるニューロン(一次感覚ニューロン)が強く光っていることが判明します。

続いて、その下にある運動神経節、そして尾の中を走る神経索へと、光る場所が時間差で広がっていきます。

まるで、「タウリンを見つけたぞ!」という知らせが、頭の先から尾の先までリレーされているようでした。

またこのとき中継役をしているのが特定のホルモンであるGnRHを出す神経細胞であることが示唆されました。

これらをまとめると、ホタテやホヤ成体からしみ出したタウリンの濃さの差を、先端のセンサーにあるニューロンが感じ取り、その情報が中継神経を通って運動神経節と尾の神経索に送られます。

その結果、幼生はタウリンが多い方向へ泳ぎ、そこで脳や尾を捨てて大人になっていく――──という流れが見えてきます。

言いかえれば、タウリンの匂いはホヤ幼生にとって「ここに行けば仲間とご飯がたくさんある安全地帯だよ」という案内板であり、その案内板の前で変身ボタンまで押してしまう役割を担っているのです。

配信元: ナゾロジー

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