【やくみつるのシネマ 小言主義 第293回】『ナースコール』
州立病院の外科病棟で働くフロリア(レオニー・ベネシュ)は、献身的でプロ意識の高いベテラン看護師。遅番シフトに入ったフロリアは、人手不足が常態化しているにも関わらず、同僚が病欠し、ベッドは一つも空いていない状態で、看護学生の教育にもあたらなければならない。そんな状況の中でも、不安や孤独を抱える患者たちに誠実に接するフロリアだったが、やがて手に負えない事態に陥っていき、重大な試練に直面することに…。
世界共通の医療現場の苦悩
凡百の医療ドラマとは一線を画す、良質なドキュメンタリーを見た後のような感慨を覚えた本作。さすが世界の映画賞で絶賛されているだけのことはあります。
スイスのとある州立病院の外科病棟での話。登場人物も一人の看護師フロリアを中心に、担当する26人の患者たちと数人の医師や同僚、看護師見習いだけ。舞台は病棟から動きません。
ですが、長回しのカメラワークで、同時多発的に降り掛かる患者からの要望やクレーム、電話、ナースコールに対応し、息つく暇もないワンオペワークの苛烈さが見ている我々にも我がことのように迫ってきます。
映画で切り取られているのはたったの8時間。ですが、体力気力を限界まで搾り取られる日々が、遠くスイスはもちろん、ここ日本でも続いている。世界共通の医療現場の苦悩が胸に突き刺さります。
救いは、目の前に来る課題を、マジシャンのように次々とさばいていく看護師たちが、悲観も絶望もしていないことでしょうか。
「対応するのに何時間かかっている!」と高級腕時計でタイムを計り、文句をつけてくる金持ち患者がいました。フロリアは、思わずその腕時計を取り上げて、窓から庭へ投げ捨ててしまいます。「とんでもないことをしてしまった」と同僚に告白したら、「よくやったわね!」と大笑い。フロリアもつられて笑い出してしまう様子を見ていると、「患者は神様じゃない」と痛快な気持ちになります。
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看護師という仕事への畏敬
にしても、早晩必ずやお世話になる年齢の自分。多忙な医療現場に役立てないなら、せめて看護師さんの手をわずらわせないようにしなければと肝に銘じるわけです。ただ、そうは言っても、いざ入院生活を始めたら、病状の不安からわがままを言ったりしてしまうかも。せめて本作を記憶に残しておきたい。
日ごろから看護師さんたちには、「感謝」という言葉では言い表せないくらいの畏敬の念があります。激務の割に待遇は芳しくないと聞きますのに、よくぞ看護の道を志してくださったと。
40年ほど前ですが、祖父が元日に倒れたことがありました。救急車で運ばれた病院には、当然ながら元日もへったくれもない。休むことなく、ずっと寄り添い続けてくれる姿に頭が下がりました。
自分はというと、採血する際、腕の血管が細くて分かりにくいらしく、かなりの確率で失敗されてしまいます。その度にクラッと目まいを起こしたりするので、今やベッドで横になり、赤ちゃん用の針を使ってもらう始末。やはり、すでに面倒かけています。
「週刊実話」3月5・12日号より
『ツーリストファミリー』
監督:アビシャン・ジーヴィント 出演:シャシクマール、シムラン、ミドゥン・ジェイ・シャンカル、カマレーシュ・ジャガン、ラメーシュ・ティラク、ヨーギ・バーブ 配給:SPACEBOX 2月6日(金)より、全国順次ロードショー
やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
