
『映画ドラえもん 新・のび太の海底鬼岩城』の主題歌として、「Honto」を書き下ろしたsumika。メンバー全員が幼い頃から親しんできたドラえもんへの想いを胸に、映画に寄り添いながら彼ららしい優しさが詰まった楽曲を作り上げた。表題曲「Honto」の他、シングルには「赤春花(feat.幾田りら)」「Blue」「ルサンチマンの揺籠」という多彩な楽曲が収録されており、sumikaのさまざまな顔が楽しめる。ドラえもん愛と「Honto」の制作秘話から、それぞれ個性の違う曲たちを収録した理由、2026年の展望まで、3人にたっぷり語ってもらった。
■大事にしたのは「ドラえもんと出会った小学生時代の自分」
――まずは、主題歌というオファーを受けてどのような気持ちで制作に向かっていきましたか。
片岡健太(Vo・G):子どもの頃から慣れ親しんできた作品に携わらせてもらうということで、光栄な気持ちとともに、いい意味でのプレッシャーもありました。作品の力になるためにどうしたらいいのか頭をひねって、まず大事にしたのはドラえもんと出会った小学生時代の自分ですね。
映画では難しいテーマも扱っているけど、それをなるべく簡単な言葉で表現したいなと。同時に、1983年に公開された『映画ドラえもん のび太の海底鬼岩城』を見て、今は大人になった世代にも同じ解像度で伝わるように考えました。やっぱり、幅広い世代に等しくメッセージを伝えられることが『ドラえもん』のすごさだと思うので。
小川貴之(Key):音楽家の自分と少年時代の自分というふたつの視点でいろいろ考えつつ、両方をブレンドしながら制作を進めていきましたね。音楽家としてのプレッシャーは大きかったですが、ドラえもんは少年時代からずーっと寄り添ってきた存在なので、今までやってきたタイアップの中でもかなり自分との距離感が近くて。シンプルに、僕の中のドラえもん像をイメージしながらピアノを弾きました。
荒井智之(Dr):もともとマンガの『ドラえもん のび太の海底鬼岩城』を読んでいて、オファーをいただいた時にストーリーがすぐ浮かぶくらい身近な作品だったので。制作しながら、初めて読んだ時のドキドキした気持ちやワクワク感が甦ってきて、改めて自分の中のピュアな気持ちに触れられた感覚があります。
――ドラえもんを彷彿させるフレーズがあったり、途中で海底に沈んでいくような音が入っていたり、まさに映画に寄り添ったアレンジになっていますね。
片岡:アレンジは宮田'レフティ'リョウくんと一緒にやったんですけど、彼も僕と同じ年だから、ドラえもんに対する価値観が近かったんですよね。だから、これくらいの忍ばせ方がドラえもんらしいんじゃないか?と話し合いながら、小さじ1杯ずつ足していくような作り方をしていきました。
小川:みんなで海底を探検していろいろな問題を解決していくストーリーなので、曲の中でも海底の雰囲気を出したくて。ピアノを高いところに置くことで、海底から上を見ているような描写ができたと思います。
荒井:ドラムで特徴的なのは、細かくスネアを刻むマーチングっぽいフレーズですね。行進曲のような、海底をみんなで一歩ずつ進んでいくイメージが湧いて。僕たち自身、バンドを始めていろいろな方と繋がってここまで歩いてきたという気持ちにもリンクしたのでで、大切に叩きました。
片岡:デモの時点でマーチングっぽいフレーズは入れていたんですけど、荒井くんが叩くことで人間の鼓動に合う響きが出たと思います。自分なりのドラえもん観として、ドラえもんは人の背中を押しすぎないというか、そっと背中に触れてその人が自分の足で歩いていきたくなるくらいの力なんじゃないかなと思うので、ばっちりでしたね。
他のサポートミュージシャンに対しても基本的にお任せしたんですが、今回はドラえもんという共通言語があったことで、一本筋は通りやすかったです。個人の解釈の違いがいい感じに合わさって、それぞれのドラえもん観が入っていると思います。
■デモを作っている段階で「Honto」という言葉を思いついた
――歌詞のポイントとして、「正解なんていいから 本当をしよう」という一節が印象に残りました。この言葉はどんなふうに導き出したんですか?
片岡:バギーという会話ができる車と一緒に海底を冒険していくんですけど、やっぱり機械だから人間の感情がわからないし、人間側も機械とどう接したらいいかわからないというところから物語が進むんですよ。それってまさに今直面している問題だなと思って。相談相手としてAIが当たり前になりつつある中で、正解を出すためのツールとしてAIと接している人もいるだろうし、あえて合理的ではない自分の感情を優先させたほうがいいと考える人もいると思う。
どちらが正解でどちらが不正解かじゃなく、どちらも肯定できるのが“本当”という言葉なんじゃないかと思ったんです。タイトルで「Honto」と「う」が抜けている表記にしたのは、より不完全な状態、確定していない未来を想起させるほうがドラえもんらしいと感じたから。デモを作っている段階で「Honto」という言葉を思いついて、僕自身も引っ張ってもらえた気がします。言葉の力を感じた瞬間でした。
小川:自分の人生を振り返っても、音楽をやっている理由がまさにそうなんですよ。何が正解かではなく、「これが自分自身の本当の気持ちだ」というところを信じて進んできたから今がある。進んだ先で人の縁に支えられて、今sumikaのひとりとして自分がいるのも、ちゃんとその都度、自分の中の“本当”を照らし合わせたからこそだと思うので、この歌詞は僕にもしっくりきました。
荒井:僕もすごくしっくりきました。僕たちの世代は、まだ“本当”に触れやすかったと思うんです。今ほどインターネットやAIが普及してなかったので、たとえば先生が教えてくれることや、両親や友達が言っていることを介して、自分でそれぞれの答えを探すしかなかった。今の時代は、本当にスマホひとつで正解っぽいことに辿り着ける時代になっているので、今青春時代を迎えている人たちにこそ、“本当”という言葉が届いたらいいなと思います。まあ、昔のほうが非効率だったと思うし、今の時代の向き合い方もありますけどね。
――「ドラえもん盤」には「Honto(TV Size)」が入っていますが、曲の前後にドラえもんのコメントが入っていて驚きました。
片岡:めっちゃうれしかったです! 声を収録する現場に行かせてもらったんですけど、感動がヤバかったですね。「ドラえもんがsumikaって言ってる!」って(笑)。背筋がピンとしました。家宝にします!
■幾田さんの声は期待以上の素敵な風を吹かせてくれた
――カップリング曲についても聞かせてください。「赤春花(feat.幾田りら)」は、キャンペーンソングとして片岡さんが楽曲提供した曲のセルフカバーということで。フィーチャリングボーカルに幾田りらさんを迎えていますが、一緒に歌ってみてどうでしたか?
片岡:率直にめちゃくちゃ楽しかったです。この曲の中で大事にしているのが風のイメージなんですけど、幾田さんの声は情景描写力がすごいので、期待以上の素敵な風を吹かせてくれました。もともと僕は個人的に春が苦手で、春を好きになるために春の曲を書いてきたんですよね。
苦手な要因のひとつとしては、学生だったらクラス替えで仲よくなった人と離れてしまったり、春に新生活を始めている人を見ると置いていかれるような感覚になったり…別れのイメージが強かったからなんです。でも、幾田さんの声が「きっとまた会えるよ」という希望を感じる風を吹かせてくれて、2026年の春に期待が膨らむような、とても嬉しい気持ちで制作を終えることができました。
――セルフカバーとして意識したことはありますか?
荒井:キャンペーンソングとして発表された時に聴いて「すごく良い曲だな」と思ったんですけど、もしかしたらsumikaでやることがあるかもしれないなと思って、あまり聴き込まないようにしていたんです。1回形になったものをしっかり聴いてしまうと、どうしてもその印象に引っ張られてしまうので。だから、今回は改めて健太が最初に作ったデモのバージョンを聴いて、そこからイメージを構築していきました。
小川:僕も一緒ですね。キャンペーンソングのバージョンでトオミヨウさんが弾いていた鍵盤のアレンジを踏まえつつ、自分だったらこうするというアイデアも全部入れて、ゼロから考えていきました。ピアノでもしっかり春を描写したくて、1番と2番でちょっと色を変えてみたり、細かいところにこだわっています。
――小川さんが作曲と歌唱、片岡さんが作詞を担当した「Blue」は、『ドラえもん』の映画にインスパイアされた曲だそうですね。
小川:「Honto」の制作をしていく上で、改めてドラえもんについてたくさん考える瞬間があって。自分の中でドラえもんはどんな存在なのかと考えた時に、何かを経験するうえでのヒントをくれたり、そこから1歩先に進めた瞬間の喜びや達成感を濃くしてくれる存在だなと思ったんです。大人になると子どもの頃ほどそういう喜びは感じられなくなったと思っていたけど、ドラえもんを通して考えたら、今からでも全然遅くないよなって。これからもいろいろな変化を楽しんでいきたいという気持ちで作った曲です。
――歌詞は小川さんが歌う前提で書いていったんですか?
片岡:「Honto」とは別の視点でドラえもんと向き合って書いた歌詞だからこそ、ボーカルが変わったほうがわかりやすく両面性が伝わるかなと。せっかくsumikaにはボーカルがもうひとりいるので、小川くんが歌ったほうがいいんじゃない?と提案しました。
小川:自分でもすごくいい曲ができたなと思っていたところに、とてもいい歌詞を書いていただいて。ハードルが上がりまくったので、いざ自分が歌うとなってから急に緊張し始めました(笑)。でも、すんなり自分の心に入ってくる言葉たちだったし、メロディにもバチッとハマっていたので、気持ちよく歌えました。
■sumikaがどういうバンドなのか伝えきれる1枚に
――「ルサンチマンの揺籠」も小川さんの作曲ですが、ガラッと色が変わってヒップホップのビートが新鮮ですね。歌詞も含めて、今度はsumikaのもうひとつの顔が表現されているように感じました。
片岡:CDという作品を皆さんに向けて販売するという文化は今後も続いていくのか? という危機感がずっとある中で、CDを出す時は毎回これが最後の作品になっても後悔しないように心がけているんです。
だからこそ、この1枚でsumikaがどういうバンドなのかをちゃんと伝えきるために、こういうテイストの楽曲も入ってないとダメだなって。ずっと笑っている人たちなんてこの世に存在しないと思うし、まっとうに怒りや悔しさも抱えてないと人間らしくないじゃないですか。
荒井:そういう意味ではsumikaらしいし、曲調的にはsumikaの新しい側面が表現できた曲だと思います。
小川:最近は、自分自身を明るくしていきたいという思いも込めて明るいメジャーキーの曲を多く作っていたんですけど。その瞬間にガッと脈拍が上がるような、衝動的な感覚を曲として残しておくのも正義だなと思って、その感覚から生まれてきたのがイントロのピアノのフレーズなんです。そこからこういうリズムや歌い回しが自然と生まれてきました。ラップ部分は片岡さんに歌ってもらおうと思っていたんですけど、俺が行くことになったのは予想外でした(笑)。
片岡:(笑)。もともと譜割が細かいパートは僕が得意で、長い音符のメロディは小川くんが得意なんですよ。だから、あえてお互いらしくないほうに挑戦しました。僕もいちsumikaファンとして、今までやったことがないものが入っていたほうがドキドキできるので。
小川:やると決まったら、「やるか!」と腕まくりしましたね。レコーディングは楽しかったです。
片岡:めっちゃ良かったよ。ただ、まだリハでやったことがないから、ライブで成立するかはわからない(笑)。
小川:ピアノ弾きながらラップが出来るのか…(笑)。
――sumika Live Tour 2026『Unique』でどうなるか期待ですね。ツアーも含めて、2026年をどんな年にしていきたいですか?
荒井:今回のドラえもんのタイアップを経て、少年時代のピュアな気持ちをすごく思い出せたんですよね。今がピュアじゃないとは言わないですが(笑)、バンドを組んだ頃の初心も思い出すことができたので、今一度ひとつひとつの出来事に対して新鮮な楽しみや新しい発見を探していける1年にできたらいいなと思っています。
小川:主題歌のニュースが出た時に、かなり久しぶりの人からも連絡がきたのがすごく嬉しかったんです。いつも、「別れ際は寂しいけど、続けていれば絶対また会える」という希望を忘れないようにしているんですけど、それが本当に証明できた感覚があって。この先も僕ら自身の足でしっかりと歩んで続けていけば、さらにいろんな人に出会えるし再会できると思わせてもらえた。だから、2026年も精一杯音楽をやって、それを人生かけて続けていきたいです。
片岡:ふたりが言ってくれたので…僕からは「健康第一!」ということに尽きますね。楽しく心身共に健康に1年やり終えて、大晦日にみんなで美味しいお酒を飲めたらいいんじゃないかなと思います!
取材・文=後藤寛子/撮影=諸井純二

