
生態ピラミッドの頂点に位置する頂点捕食者たち。
もし別々の頂点捕食者が同じ場所で増えていくと、どんなことが生じるのでしょうか。
米国オレゴン州立大学(OSU)を中心とする研究チームは、イエローストーン国立公園におけるオオカミとピューマの関係を9年間にわたって追跡しました。
その結果、両者の相互作用が主に「獲物の強奪」によって駆動されていること、さらにピューマが食性を変えることで競争を緩和していることを明らかにしました。
研究成果は2026年1月26日付で『Proceedings of the National Academy of Sciences』に掲載されています。
目次
- 「戻ってきた頂点捕食者」2種が、同じ場所で増えると何が起きる?
- ピューマは食性を変化させることで「オオカミ」に適応していた
「戻ってきた頂点捕食者」2種が、同じ場所で増えると何が起きる?
オオカミとピューマは、ともに北米を代表する頂点捕食者です。
しかし20世紀には、家畜被害への懸念などを背景に大規模な駆除が行われ、両種は大きく数を減らしました。
特にオオカミは米国本土の多くの地域から姿を消します。
一方、単独で行動し人目につきにくいピューマは、山岳地帯などに局所的に残りやすかったと考えられます。
そんな中、彼らに転機が訪れたのは、1960年代から1970年代にかけての保護の流れでした。
ピューマは保護のもとで個体群が回復し始め、そこに1995年、イエローストーンへオオカミが再導入されます。
こうして、先に回復し始めたピューマの景観に、後からオオカミが戻る形で、長い空白期間を経て両者が再び同じ舞台で重なり始めたのです。
では、頂点捕食者同士はどのように競争し、どうやって共存しているのでしょうか。
研究チームは2016年から2024年まで、GPS首輪を装着したオオカミ38頭、ピューマ18頭を追跡しました。
さらに3,929件の潜在的捕食地点を現地で調査し、実際の摂食イベントを確かめています。
オオカミの摂食は852件で、そのうち716件が自力での捕殺でした。
ピューマは520件の摂食が確認され、そのうち513件が自力捕殺です。
加えて研究者たちは、GPSの移動パターンから「獲物を仕留めた可能性が高い場所」を推定する機械学習モデルを作りました。
そのうえで、それぞれの動物が、相手に近づいているのか、避けているのかを解析しました。
結果ははっきりしていました。
両種の接触の約42%は、ピューマが獲物を仕留めた地点で起きていました。
反対に、オオカミが獲物を仕留めた地点での接触は、調査期間を通じて1件しか確認されませんでした。
さらに2016年から2024年の間に確認された成獣ピューマ12例の死亡のうち2例はオオカミによるものでしたが、オオカミ90例の死亡の中にピューマが原因となったものはありませんでした。
では、これらの結果は何を意味するのでしょうか。
ピューマは食性を変化させることで「オオカミ」に適応していた
解析の結果、オオカミはピューマの捕食地点に強く引き寄せられていることが示されました。
しかもピューマがまだその場にいる場合、接近傾向はさらに強まります。
これは偶然の死肉利用ではなく、積極的な獲物の強奪、すなわち「盗み寄生」といえる行動です。
その中で、オオカミがピューマを殺す事例もありました。
しかし重要なのは、オオカミがピューマの死体を食べるために殺しているわけではない点です。
観察された事例では、オオカミはピューマを消費せず、ピューマが仕留めた獲物を食べていました。
目的はあくまで獲物の獲得であり、その過程で致命的な衝突が起きることがある、という構図です。
では、不利に見えるピューマは、なぜ完全に排除されないのでしょうか。
第一の鍵は地形です。
ピューマは険しい地形や登れる木の近くを選び、オオカミが近づくほど逃げ込みやすい場所に寄る傾向が見られました。
実際にオオカミに殺された2例では、逃げ込める地形が乏しかったことも示されています。
ピューマにとって、逃げ場の有無は生死を分ける条件になっているのです。
第二の鍵は食性の変化です。
ピューマは公園内でエルク(シカ科の大形哺乳類)が減少した状況に応じて、より小型のシカを仕留める割合を増やしていました。
過去(1998年から2005年)と近年(2016年から2024年)を比べると、ピューマの獲物はエルクが約80%から約52%へ減り、シカは約15%から約42%へ増えています。
この変化がなぜ効果的なのでしょうか。
理由は単純で、小型獲物は処理時間が短いからです。
大きいエルクは食べ終えるまで時間がかかり、捕食地点に長くとどまる必要があります。
その間にオオカミに見つかれば、強奪や衝突が起きやすくなります。
実際、エルクの死体はシカより強奪されやすく、ピューマにとってリスクの高い獲物になっていました。
小型の獲物へシフトすることで、捕食地点にいる時間を短くし、オオカミと遭遇する確率を下げられる可能性があります。
この研究が示した重要な点は、頂点捕食者同士の関係が単純な力関係だけでは説明できないことです。
ピューマはほとんど他者の獲物をあさることがなく、オオカミとの関係は利益よりもコストが目立ちます。
その一方で、ピューマは地形の利用と食性の調整によって、そのコストを下げ、同じ景観の中で生き残っていました。
共存の鍵は獲物の総量だけではなく、獲物の種類やサイズの多様性、そして逃げ場となる地形があるかどうかに左右される可能性が高いのです。
もちろん、本研究はイエローストーンという特定の生態系での観察研究です。
他地域でも同じ力学が当てはまるのか、獲物構成や地形条件が変わったときに結果はどう変化するのかは、今後の検証が必要でしょう。
頂点に立つ者同士であっても、自然界の共存は力比べだけで決まらないのです。
参考文献
Changes to cougar diets and behaviors reduce their competition with wolves in Yellowstone, study finds
https://www.eurekalert.org/news-releases/1113729
元論文
Diets, dominance hierarchies, and kleptoparasitism drive asymmetrical interactions between wolves and cougars
https://doi.org/10.1073/pnas.2511397123
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

