ゴール地点の東京駅前。歓喜の声に混じって、大会関係者の間からは「これのどこが世界メジャーの大会か!」「金返せ!」といった悲鳴のような怒号が聞こえてきた。
3月1日に開催された東京マラソンで、スタート直後に「事件」は起きた。2時間2分台の世界記録ペースを刻むはずの外国人ペースメーカー(PM)軍団があろうことか、1キロ2分53秒の設定を大幅に下回るスローペースでスタート。結果、10キロ地点で予定より30秒も遅れるというプロにあるまじき大失態を演じ、新旧日本記録保持者の対決に沸くはずだった42.195キロが、稀に見る欠陥レースとなってしまったのである。
マラソンで30秒の遅れを取り戻すのは、F1レースでタイヤがパンクした状態で追い上げるようなものだ、と喩えられるが、東京マラソンは高額な招待費用を払って世界トップランナーを呼び、世界最速タイムが出ることを最大の宣伝にしている大会だ。
「出場選手は皆、2時間2分台(世界記録級)を狙って調整してきているでしょう。序盤の遅れは『今日はもう記録は出ない』という大きな精神的ダメージでしかなく、それがレース全体の強度を下げてしまった。今大会は2028年ロサンゼルス五輪の代表選考会(MGC)への出場権がかかっていることもあり、若手や中堅選手が2時間6分30秒以内というタイム突破を目指していたはず。PMがまったく機能しなかったことで、選手たちは自力で風を切り、ペースを作らなければならないという状況を強いられてました。言うまでもなく、記録が出ないレースはメディア露出の価値が下がります。今回のPMの不手際は、世界一の高速レースを期待して出資したスポンサー並びに、高額な放映権料を払っているテレビ局の顔にも泥を塗ることになった」(スポーツ紙記者)
本来、PMは集団をバラけさせ、各選手が走りやすいスペースを作る役割を担うもの。そのためPMが遅いと、誰もが「自分が前に出て風除けになりたくない」と考え、集団が団子状態になる。足の接触や転倒のリスクが高まるため、ランナーは本来の走りに集中できず、集団の足並みが乱れてしまうというわけだ。
東京マラソンはテニスの「4大大会」やゴルフの「マスターズ」同様、マラソン界で最も権威があり、格が高い「アボット・ワールドマラソンメジャーズ」のひとつ。だからこそ、今回の外国人PM軍団による「ノロノロ運転」が、高額な放映権料を払うテレビ局やスポンサーに与えた影響の大きさは、計り知れないのである。
(灯倫太郎)

