
宇宙空間でも生き延びるといわれる、最強生物・クマムシ。
真空や強い放射線、極端な乾燥にも耐えるその姿から、まるで不死身のように語られることもあります。
しかし最新の研究は、そんなクマムシでさえ“火星の砂”には手こずる可能性があることを示しました。
米ペンシルベニア州立大学(PSU)の研究チームは、火星の地表を覆う砂状の物質「レゴリス」を再現した模擬試料の中にクマムシを入れ、その活動がどう変化するかを実験。
その結果、火星の砂を再現した環境では、クマムシの活動が明らかに低下したのです。
研究の詳細は2025年12月5日付で科学雑誌『International Journal of Astrobiology』に掲載されています。
目次
- 最強生物でも動けなくなる?火星レゴリスの脅威とは
- 水で洗うと改善?火星土壌の「防御機構」
最強生物でも動けなくなる?火星レゴリスの脅威とは
クマムシは体長0.5ミリほどの微小動物で、乾燥状態(=乾眠)に入ると宇宙空間でも生き延びることが可能です。
ただし今回の研究で注目されたのは、乾燥して眠っている状態ではなく、水を含んで動いている「活動状態」のクマムシです。
研究チームは、火星探査車キュリオシティが採取した土壌データをもとに作られた2種類の火星レゴリス模擬試料を用いました。
ひとつは「MGS-1」、もうひとつは「OUCM-1」と呼ばれるものです。
どちらも火星の土壌の鉱物や化学組成を再現するよう設計されています。
その中に2種類のクマムシを入れ、2日後、4日後の活動状況を顕微鏡で観察しました。
実際の映像がこちら。音声はありません。
(動画は3つのシーンで構成されており、1つ目は実験1日目の通常に活動しているシーン、2つ目は活動レベルが低下したシーン、3つ目はレゴリスを洗浄すると活動レベルが回復したシーン。)
すると、どちらの模擬土壌でも時間が経つにつれて動いている個体が減少しました。特にMGS-1では影響が大きく、ある種のクマムシは2日後には活動が確認できなくなりました。
つまり、火星の砂に似せた環境は、活動中のクマムシにとって決して快適ではなかったのです。
研究では、クマムシの体表に細かな鉱物粒子が付着している様子も観察されました。
また、動かなくなった個体では体が不自然に膨らむなどの変化も見られました。
これらの結果は、火星のレゴリスには、動物の活動を阻害する何らかの要素が含まれている可能性を示しています。
水で洗うと改善?火星土壌の「防御機構」
興味深いのはここからです。
チームは、特に強い影響を示したMGS-1を水で数回洗浄してから、改めてクマムシを入れてみました。
すると、活動の低下はほとんど見られなくなったのです。
この結果から、MGS-1には水に溶ける有害成分が含まれている可能性が高いと考えられています。
具体的な物質は特定されていませんが、塩類や特定の化学物質が関与している可能性が示唆されています。
これは宇宙開発にとって重要な意味を持ちます。
将来、人類が火星に拠点を築こうとした場合、現地のレゴリスを使って植物を育てることが検討されています。
しかし、もしその土壌が動物や微生物に有害であれば、そのままでは利用できません。
一方で、この有害性は「惑星保護」という観点ではプラスに働く可能性もあります。
惑星保護とは、地球の微生物が他の天体を汚染しないようにする取り組みです。
もし火星の土壌そのものが外来生物に厳しい環境であれば、地球由来の微生物が定着するリスクは低くなるかもしれません。
つまり火星の砂は、「農業には厳しいが、汚染防止には有利」という二面性を持つ可能性があるのです。
参考文献
Could Mars soil block Earth microbes? ‘Water bears’ offer a clue
https://phys.org/news/2026-02-mars-soil-block-earth-microbes.html
元論文
Short-term survival of tardigrades (Ramazzottius cf. varieornatus and Hypsibius exemplaris) in martian regolith simulants (MGS-1 and OUCM-1)
https://doi.org/10.1017/S1473550425100220
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

