今年の夏、チリのATLAS望遠鏡が捉えたひとつの光点が、天文学界を大きく揺さぶっている。その名は「3I/ATLAS」。太陽系外から飛来した史上3つ目の恒星間天体である。先に知られるオウムアムアやボリソフ彗星とは違い、今回の来訪者は桁外れの「大きさ」と「重さ」で世界を驚かせた。
観測によれば、その核は直径5キロ前後で、質量は少なくとも330億トンに達する可能性がある。これは過去の恒星間天体よりも3桁から5桁も重い計算だ。普通なら小さなかけらが先に見つかるはずなのに、いきなり巨体が姿を現したのだから、まさに「重大な異常」と言わざるをえない。
そしてこの規格外のスケールが「エイリアンの仕業ではないか」というロマンに火をつけた。ハーバード大学のアヴィ・ローブ教授は「教育的仮説」と断りながらも「もし産業合金のような特殊な成分が検出されれば、自然界では説明できない」と語る。さらに彗星の通り道が、太陽系の惑星が走る軌道面に極端に近い点も「偶然にしては、できすぎだ」と指摘している。
一方、NASAの研究者たちは冷静だ。「彗星らしい挙動を見せており、自然の産物と考えるのが妥当」との見解が多数派を占める。科学の最前線では夢と現実がせめぎ合っているのだ。
気になる地球への影響だが、3I/ATLASが最接近するのは10月末。その距離は約2億7000万キロ、月の700倍も遠い安全圏だ。ただし火星には3000万キロ弱まで接近するため、惑星科学者たちの視線はそちらに注がれている。
それにしても、なぜ太陽系にこんな巨体が迷い込んできたのか。宇宙のどこかに鉄やニッケルを豊富に抱えた「資源庫」のような領域があるのか。それとも誰かが意図して設計したものなのか。答えはまだ闇の中にある。
10月には火星探査機MROの高性能カメラHiRISEが、この彗星を観測する可能性がある。もし撮影が成功すれば、人工か自然かを見極める決定的な手がかりとなるだろう。仮に人工彗星だったとすれば、それは人類にとって、地球外文明からの最初の「ノック」となるかもしれない。
(ケン高田)

