二大政党がなぜ、借金の原因なのか
借金が膨れ上がった直接的な原因は、政治システムに深く関係しています。
アメリカは伝統的に共和党と民主党という二大政党によって動かされてきました。皮肉なことに、どちらの党が政権を握っても結果的に借金を増やしてしまうという構造的なジレンマを抱えているのです。どういうことか、二大政党を見ていきましょう。
共和党の理念は、「政府の介入を減らし、民間の自由な経済活動こそが国を豊かにする」という「小さな政府」そのものです。この考えを象徴する政策が「減税」です。
レーガン政権(1981―89年)では86年税制改革により法人税の最高税率が46%から34%(のちに35%)へと引き下げられました。ブッシュ(子)政権(01―09年)でも減税路線が採られ、第一次トランプ政権(17―21年)でも大規模な法人税減税(税率を35%から21%へ引き下げ)を実施されました。
このように共和党政権は決まって企業や富裕層への減税を断行してきました。しかし、税収が減っても、同じだけ支出を減らすことは極めて困難です。「まずは減税ありき」で進められる政策は、必然的に国家の財政赤字を拡大させます。
一方の民主党は、「政府が積極的に社会に関与し、国民の生活を支えるべきだ」という「大きな政府」で考えます。
オバマ前々政権(09―17年)が導入した国民皆保険制度に近い「オバマケア」や、記憶に新しいバイデン前政権(21―25年)が推し進めた巨額の「インフラ投資・雇用法」、クリーンエネルギー政策を盛り込んだ「インフレ削減法」などがその典型です。
これらの政策は、国民生活の安定に寄与する一方で莫大な政府支出を伴います。
そして25年、再び政権の座に返り咲いたドナルド・トランプ大統領のもと、「アメリカ・ファースト」の旗が再び掲げられています。トランプ氏は、第一期政権のときと同様に、さらなる減税や大胆な規制緩和を経済政策の柱に据えることを公約しており、再び歳入が減少する可能性があります。
「共和党が歳入を減らし、民主党が歳出を増やす」というサイクルが繰り返され、まるでリレーのように借金のバトンが受け渡されてきたのです。
また、「有権者に痛みを強いる増税や歳出削減を訴えるより、減税や給付を約束するほうが選挙に勝てる」――この民主主義国家が抱える抗いがたい誘惑が、アメリカの借金を際限なく膨らませる最大のエンジンになっています。
では、歳出を減らせないのか。その内訳を見ていきましょう。
予算を縛る「軍事費」と「社会保障費」
アメリカの国家予算、すなわち歳出の内訳を詳しく見てみると、まるで聖域のように扱われ、削減することが極めて難しい二つの巨大な支出項目が存在することに気づきます。
それが「軍事費」と「社会保障費」です。この二つが歳出全体の半分以上を占め、国家財政をガチガチに固めてしまっているのです。
まず「軍事費」について。アメリカは自他ともに認める「世界の警察」として、世界各地の紛争に介入し、同盟国を防衛する役割を担ってきました。そのためのコストは凄まじく、アメリカ一国の軍事費だけで、世界全体の軍事費総額の約37%を占めると言われます。
これは、軍事費ランキング2位から10位までの国々を全て合計した額を上回る規模です〈図1―9〉。冷戦終結後に一時、軍縮ムードが高まりましたが、その後の対テロ戦争、そして近年の中国との覇権争いやロシアによるウクライナ侵攻といった「地政学的リスク」の高まりを受け、軍事費は高止まりを続けています。
また、どの政権にとっても軍事費の削減は政治的なタブーに近いのが現実です。「世界の警察」を自任するアメリカでは、軍事力の維持は国家の威信そのものです。
軍事費を削減すると国内外の敵対勢力につけこまれると考える有権者が多いため、「国防をおろそかにする弱い大統領」という批判は致命傷になりかねないのです。
さらにやっかいなのが「社会保障費」です。
これには、高齢者向けの公的医療保険「メディケア」、低所得者向けの「メディケイド」、そして日本の国民年金や厚生年金にあたる「公的年金制度」などが含まれます。これらの費用は、法律によって支出が定められている「義務的経費」に分類されます。
つまり、政府が毎年「今年はこれくらいに抑えよう」と裁量で決められるものではなく、有資格者が増えれば自動的に支出が増えていく仕組みなのです。
特に、戦後のベビーブーマー世代が次々と退職し、高齢者人口が急増しているアメリカでは、医療費や年金の支払いが毎年、雪だるま式に膨れ上がっています。
「地政学的な理由で減らせない軍事費」と「人口動態によって自動的に増え続ける社会保障費」。この二大経費が国家予算を圧迫し続けています。
その結果、財政の自由度は著しく奪われ、新たな政策課題に取り組むための財源を、結局はさらなる借金(国債発行)に頼らざるを得ません。この悪循環からアメリカは抜け出せずにいるのです。
さらにそれだけではなく世界経済全体が絡む、ある問題もあります。

