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オスカー俳優ブレンダン・フレイザーが体現する“優しいうそ”…日本を舞台に“家族の境界線”描いた「レンタル・ファミリー」

オスカー俳優ブレンダン・フレイザーが体現する“優しいうそ”…日本を舞台に“家族の境界線”描いた「レンタル・ファミリー」

映画「レンタル・ファミリー」が2月27日に日本でも公開された
映画「レンタル・ファミリー」が2月27日に日本でも公開された / (C)2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

オスカー俳優のブレンダン・フレイザーが主演、アメリカを拠点に活躍する大阪出身のHIKARI監督の最新作となる「レンタル・ファミリー」。2025年にトロント国際映画祭(カナダ)、アデレード映画祭(オーストラリア)、ローマ映画祭(イタリア)、東京国際映画祭(日本)など各国のプレミアイベントで上映されて好評を博し、2月27日に日本でも劇場公開された。そこで幅広いエンタメに精通する音楽ジャーナリスト・原田和典氏が同作を鑑賞し、独自の視点でのレビューを送る。(以下、ネタバレを含みます)

■他人の人生の中で“仮の役割を演じる仕事”を描く物語

主人公は、東京で暮らす落ちぶれた俳優・フィリップ(ブレンダン)。日本での生活に居心地の良さを感じながらも、本来の自分自身を見失いかけていた。そんな中、“レンタルファミリー”として他人の人生の中で“仮の”役割を演じる仕事に出合う。レンタルファミリーの一員として、想像もしなかった人生の一部を体験し、出会う人々と交流を重ねるフィリップは、少しずつ自らの人生に向き合い、生きる喜びを見いだしていく――。

本作で描かれるのは、HIKARI監督が丁寧にリサーチした実在する“レンタルファミリー”をモデルにしたユニークなビジネス。依頼内容は多岐にわたり、結婚式の同伴者から、親、友人、謝罪代行など、あらゆる役割を演じ分ける。

例えば何かの行事で父親が必要というか、父親がいたほうがありがたい場合があるとする。だがリアル父親がいない場合、どうするか。そんなとき、「自分の描く父親像に近い男性を業者から借りればいい」という一つの選択肢を与える仕事。そのエージェントにはいかなる事例にも対応できるさまざまな年齢の男女がそろっており、日本人に限らない。加えて、しっかり演技派なのである。

レンタルファミリーの会社を経営する謎めいた男・多田(平岳大)もただオフィスにジッとしていることなく、さまざまなシチュエーションに呼ばれては家族の臨時メンバーになることをソツなくこなす。

ある日、とある中年のアメリカ人俳優が多田の目に留まる。それは、かつて歯磨き粉のユニークなテレビコマーシャルで人気を集めたフィリップだった。近年あまり見ることがなくなってしまったという点では、いわば落ち目のタレントということになるのかもしれないが、現役トップの有名人がレンタルファミリー業で働くことには無理があるので、むしろそれもこの職業に関しては都合がいい。やや皮肉だが、“ハマり役だ”。

■レンタルファミリーとして引っ張りだこに

欧米の外国人中年男性は日本ではマイノリティーに属するので、俄然オファーは多くなる。俳優としての夢を諦めきれない中、レンタルファミリーでの仕事も始めたフィリップ。“俺はこれでいいのだろうか。クライアントの要望に応えて演技はしているけれど、それはつまり第三者に対してうそをついているということでもあるよな?”的な自問をしながらも、プロの役者としてしっかり与えられた役を演じ、偽の父や偽の夫の像を温かく、優しく立ち上がらせていく。

クライアント側の少女が全身全霊で「お父さん」と慕ってきたら、自ら描く「お父さん」観のベストを尽くす。フィリップが“父親役”となった少女・美亜(ゴーマン シャノン 眞陽)との神楽坂の化け猫フェスティバルにおけるシーンは、映画に捉えられた「最高に輝かしい親子の形態」の一つであるように、私には強く感じられた。

だが、レンタルファミリー業はあくまでも時間制のビジネスであり、リアルな人間関係を築くのはご法度。あくまでも家族の一員のふりをしながら、その家族の抱える問題を手際よく解決するための手助けが求められる。

その点、多田はプロフェッショナルの極致という感じであり、だからこそこの仕事を成り立たせることができるのだろうが、それに対してフィリップはどこまでも人間臭く、よく壁にぶつかる。ときにレンタルファミリー業のリミットを超えようとも、その人と同じ呼吸を得ようとする。そんな彼の意欲と気迫がひしひしと感じられるのは、かつての名声を失いつつあるベテラン俳優・長谷川喜久雄(柄本明)とのシーンだ。
映画「レンタル・ファミリー」より
映画「レンタル・ファミリー」より / (C)2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.


■往年のレジェンド級俳優にジャーナリストとして相対

フィリップも忘れ去られ気味の役者であるとはいえ、長谷川のほうはそれに輪をかけて“過去の人”。しかも往年の活躍が猛烈に華々しかっただけに、より今の沈みっぷりが際立って感じられる。クライアント側の希望は、フィリップに長谷川のキャリアをたどるジャーナリストに扮(ふん)してもらい、少し認知症の症状も出てきた彼に栄光の日々を思い起こしてもらうこと。

フィリップが訪れたばかりの頃の長谷川は気難しさとネガティブさの塊だったが、プロとして丁寧に接し、徐々に心を通わせていく。彼は音楽が大好きなようで、部屋には立派なオーディオシステム、たくさんのアナログレコードがあり、その中にはチャールズ・ミンガスの隠れた名盤「ミンガス・プレイズ・ピアノ」も含まれていた。

ミンガスは著名なベース奏者で、自身のバンドから数えきれないほどの有能なミュージシャンを輩出した親分肌だが、このレコードではたった1人で語るように、心の内を明かすようにピアノを弾いている。このジャケットが映りこんだとき、「ああ、フィリップと長谷川はゆっくりと打ち解けていくのだろうな」と予感した。

モチーフとバリエーションがたっぷり詰まった、あっという間に過ぎ去ってしまう約2時間。作品を見終えた後、「さあ、自分ならこんなシチュエーションのとき、どうするだろう?」と内省の機会を与えてくれるのも得難い。そして「偽、うそ、仮」と「愛、情、誠」の間にいかほどの距離があるのかと、一種の問題提起を突き付けられた思いがした。

映画「レンタル・ファミリー」は全国公開中。

◆文=原田和典


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