「守る」から「回復する」へ ― ネイチャーポジティブという考え方

今回のアカデミーで繰り返し示されたキーワードのひとつが、「ネイチャーポジティブ」という考え方です。少し聞き慣れない言葉かもしれませんが、その意味はとてもシンプルです。自然をこれ以上失わないようにするだけでなく、傷ついた自然を回復させ、より良い状態へと戻していくという発想です。
これまでの環境保全は、「守る」という姿勢が中心でした。もちろんそれは大切なことですが、世界的にはいま、もう一歩踏み込んだ取り組みが求められています。自然の損失を止めるだけではなく、プラスへと転じさせる。そのために、企業や地域、教育の現場が連携しながら行動する動きが広がっています。
奄美大島での取り組みも、そうした流れの中にあります。自然を体験するだけでなく、その背景にある課題を知り、未来について考える時間を設けること。子どもたちが「きれいだった」「楽しかった」で終わるのではなく、「どうすれば守れるのだろう」と思いを巡らせるところまで導くことが、このプログラムの大きな意義です。
今回の開催を支援したアラムコ・アジア・ジャパン株式会社も、海洋環境の保全や生物多様性の保護に取り組んでいる企業です。企業が教育や地域の活動に関わることは、単なる経済的支援にとどまりません。自然を守る取り組みが社会全体の課題であるというメッセージを、広く発信する役割も担っています。
一方で、日本自然保護協会は長年にわたり「自然観察からはじまる自然保護」という理念を掲げてきました。幼いころの原体験が、やがて自然を大切にする行動につながるという考え方です。今回のアカデミーも、その延長線上にあります。自然を体感すること、そして現実の課題を知ること。その両方があってこそ、次の一歩が生まれます。
ネイチャーポジティブという言葉は、決して大人だけのテーマではありません。むしろ、これからの社会を生きる子どもたちこそが、その担い手になります。奄美の山や海に触れた時間は、未来のどこかで「自然をどう回復させるか」という問いにつながっていくはずです。 守るだけではなく、より良くしていく。その視点を子どもたちに手渡すこと。それこそが、この取り組みが目指している本質なのかもしれません。
自然観察からはじまる未来 ― 日本自然保護協会の歩み
今回の取り組みを主催した日本自然保護協会は、1951年に創立された、日本でも長い歴史を持つ自然保護団体のひとつです。ダム建設が計画されていた尾瀬の自然を守る活動をきっかけに、その歩みを始めました。その後も、屋久島や小笠原、白神山地など、日本各地で自然を守る活動に取り組み、世界自然遺産登録にも深く関わってきました。
長い歴史の中で一貫しているのが、「自然観察からはじまる自然保護」という考え方です。まずは自然をよく見ること。触れ、感じ、自分の目で確かめること。そこから自然を大切に思う気持ちが育ち、やがて行動へとつながっていくという理念です。
今回のアカデミーも、その思想が形になったものと言えます。奄美大島の自然に身を置き、山と川と海のつながりを学び、地域の人々の暮らしに触れる。子どもたちは、教室では得られない実感を通して、自然との関係を見つめ直す時間を持ちました。
また、このプログラムは地域の多くの団体や関係者の協力によって実現しています。自然保護や文化継承、地域活性化に携わる人々の支えがあってこそ、子どもたちは安心して学び、体験することができます。自然を守ることは、一部の専門家だけの役割ではなく、地域と社会全体で取り組むものだという姿勢が、ここにも表れています。
日本自然保護協会は、「自然のちからで、明日をひらく。」というメッセージを掲げています。それは単なるスローガンではなく、自然が持つ豊かさや可能性を、次の世代へとつなげていこうとする決意の表れです。
奄美大島での3日間は、その理念を体験というかたちで伝える時間でした。自然を守るという言葉を遠い話にせず、自分の生活とつながるテーマとして考えられるようにすること。そうした積み重ねが、これからの社会を支える力になっていくのだと感じさせます。
