勝てば天国、負ければ地獄——感情の振れ幅が大きい阪神ファンだからこそ、熱量を“整える仕組み”が必要だ。推し活中毒にならずにファンを続けるためのリアルな習慣とは。
阪神タイガースの試合実況、ライブ配信、動画投稿を行っている人気インフルエンサー・さばかんさんと、新刊『「幸福感」に満たされたいなら阪神ファンを知りましょう マーケッターが気づいた「効果と法則」』を刊行した牛窪恵さんの対談の最終回。
負け試合の“エンド”を変えるリコーダー
――(牛窪恵 以下同)さばかんさんの試合実況で、負け試合後には“リコーダー演奏”が流れますよね。あれを始めたきっかけは?
さばかん(以下同) 2020年のコロナ禍です。開幕が6月まで延期されて、配信ネタがなくなった。そこで「ネタが尽きました」と言って、タイガースの1番から9番打者まで、リコーダーで応援歌を吹いたのが始まりです。
気が抜けた(腑抜けた)ような、ゆるいリコーダー演奏なのですが、その後、負け試合後に流すようにしたところ、ファンの皆さんから「負けた後のストレスや悔しさが和む」といった声を頂くようになって、いまも続けています。
――私が出した新刊『「幸福感」に満たされたいなら阪神ファンを知りましょう』でいう「ピークエンドの法則 ※1」にも通じます。試合が終わった後の“エンド”を少しでもプラスに転化することで、全体の印象がポジティブに変わる、というものです。
まさにそうだと思います。負けてすぐ配信を終えたら、「ああ……」と悔しさだけで終わってしまう。でも、その後にリコーダーの“ピーピピッピピッ♪”との腑抜けた曲が流れると、「まあ、いいか」と少し和んだ心地になってもらえる。
実際、試合が終わった直後に、視聴者数が少し増えるんですよ、それも「負けたとき」だけ。癒やされに来てくださる方がいるんじゃないかな、と思います。
――新刊にも書きましたが、「タイガースの優勝が、認知症の阪神ファンの方々の症状の改善に影響した」という研究(※2)もあります。負け試合後の癒やしも、周囲に良い影響を与えている可能性がありますね。
そう考えると、うれしいですね。負けたままイライラして終わるより、少しでも気持ちが和らいで終われたら、その周りの方々も穏やかでいられるかもしれない。なにしろ阪神ファンって、感情の振れ幅が大きいですから。だから、あのリコーダーで少しでも和らげばいいなと。自分も含めて、です。
※1:Kahneman,D.,et al.,(1996) ,“Patients' memories of painful medical treatments” , Published in Pain 1 July,66,1,pp.3-8)。
※2:脳神経内科「はつたクリニック」院長・初田裕幸氏による研究(産経新聞 2025年3月29日掲載記事)
大山選手のFA騒動と「赤いタオル」
――大山選手が国内FA(フリーエージェント)を宣言した2024年、さばかんさんは配信で「ファン感謝デー(ファン感)に行かれる人は、大山選手の赤い(推し)タオルを掲げてほしい」と呼びかけましたね。
はい。実は、あれには前段があって。DeNAベイスターズの前監督・三浦大輔さんが現役時代(2008年)にFA宣言した際、「DeNAに残留しようか、タイガースに移籍しようか」と迷っていたと言われるんですが、ファン感で、ある子どもに「行かないで」と呼びかけられたこともあって、最終的に残留を決めたそうなんです。
そこで、大山選手もファンの皆さんが掲げる「赤いタオル」を見たら、きっと残留を決断してくれるのではと。
――実際、多くの皆さんが「赤いタオル」を掲げてくださった。私もあの光景に、感動しました。
ですよね。僕はファン感には行けなかったんですが、大山選手がのちの残留インタビューで「多くの僕の(名前入りの)赤いタオルを広げてもらって、すごく嬉しかった」と答えたことを知った瞬間、掲げて下さった方々に、心から「ありがとう」と伝えました。僕自身も感謝を伝えて、幸せな気持ちになりました。
――まさにそれが、新刊でも書いた「情動伝染効果(Emotional Contagion Effect)」。とくに感謝に関する研究では、された人以上にした人のほうが、幸せを実感しやすいことが分かっているんです。
そうなんですね!阪神ファン同士の強い絆があればこそ、ですね。

