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「小説と映像、唯一無二の表現」北方謙三×織田裕二(俳優)連続ドラマ「北方謙三 水滸伝」放送・配信開始記念対談

「小説と映像、唯一無二の表現」北方謙三×織田裕二(俳優)連続ドラマ「北方謙三 水滸伝」放送・配信開始記念対談

宋江と晁蓋、二人のぶつかり合い

――北方さんが創り出した宋江がいて、藤沢文翁さんの脚本があり、若松監督、そして織田さんが作り上げた新しい宋江がいる。そのリレーが面白いですね。

北方 それはそういうものでしょ。私が考えたのは小説の中の人間だから、スケベなことをさせたければそうするし。父親を亡くした娘の面倒を見たりね。小役人の給料でできるのかって思ったけど、まあいいやって感じで。
織田 それは僕も思ったんですよ。宋江はスパイを雇っていますけど、そのお金はどうしてるのかって。お金は大して渡してなくて、思いで通じ合っていたのかなとか。思いで動かされているなら無敵だなと思いました。お金で雇われている兵隊と、腐敗した政権を心の底から倒したいと思っている人たちが戦ったら、どっちが強いか一目瞭然じゃないですか。
北方 私は学生のときに機動隊とぶつかったんですよ。そのときもこっちは思いでやっているわけだよね。だからものすごく強かった。ドラマの中で嬉しかったのは、ちゃんと民衆が出てきて、彼らが少しずつ梁山泊(りょうざんぱく)に心を寄せていくという流れがよく表現できていたところ。宋江が世直しの志を持つきっかけになる少女との場面も切なくてよかった。宋江と晁蓋が出会って、「さあ、始まるぞ」というところなんか、この二人がこれから事を成すんだという期待が膨らみましたよ。
織田 宋江と晁蓋は、ドラマではまだ同じ目標に向かっている段階ですからね。
北方 あの二人はやがてぶつかって然るべきなんですよね。目指しているものは同じだけれど、立ち位置が違うから。
織田 ドラマでも意見が対立する場面がありましたけどね。でも、僕は不思議と戦っている気はしなかったんですよ。周りは、あれは二人の戦いのシーンだって言うんですけど、本人たちには戦っている意識がなかったんですよね。
北方 二人とも同じ思いなんですよ。だからぶつかったとしても、それはどこかでお互いを認め合ったうえでのぶつかり合い。
織田 こいつならわかってくれるだろうと思って自分の思いを吐露しているというか、夢を語るような感じで演じていました。みんなからは、あの緊張感がたまらなかったって言われるけど、「え、俺の中には緊張感ないんだけど」って。滔々(とうとう)と夢を語って、「わかるだろ、おまえだったら」ぐらいのつもりでやっていましたね。まだぶつかったとは思っていない。この先、ぶつかるのかもしれないけど。
北方 ぶつかれるからいいんじゃないですか。なあなあでやっているわけじゃないからさ。
織田 そうなんですよ。この仕事をやっているとしょっちゅうぶつかるんです。ものを作ると必ずそうなる。すんなり行ったなとか、言いたいことあったのに言えなかったんじゃないかなって思うときのほうが怖いですね。いいものを作ろうとしてぶつかるのは、決して悪いことではないと思うんですよね。
北方 何かを確かめ合っているんですよ。こいつ本気なのか、俺は本気だぞって。私自身はそういう場面に直面したことはないけれど、そんな相手がいればいいなと思ったことはある。いればいいなと思ったことがあれば、小説には書けるんです。だから、小説はずるい気がするけど。
織田 ずるくはないですよ。読者も、そういう相手がいればいいなと思っていますよ。
北方 まあね。小説は書かされているって思うことがあるんですよ。阮小五(げんしょうご)なんて、呉用(ごよう)が一生懸命軍師に育てようと思っていたのに志半ばで死んでしまう。書いていて、どんどん死ぬほうに行ってしまった。「待て待て待て。そっちに行くな」と私は思っているんだけど行ってしまうんです。
織田 走って行っちゃうわけですね。
北方 登場人物の生殺与奪を作者が握っているなんて大間違いですよ。阮小五が死んだときに一人で弔い酒を飲みましたから。サイン会で、読者のかたから誰それを殺さないでくださいって言われるしね。だらだら生きたってしょうがない、惜しまれているうちに死ぬのが華だって思ったりもしますけどね。私もいろんな死に方をしてみたいけど、一度しか死ねないから、小説の中でやっているんです。
織田 死もそうですけど、小説とか映画、ドラマで描かれているシーンって、人生で一回あるかないかみたいな場面が多いじゃないですか。だから、僕はすごく幸せな職業に就いたと思いますね。
 あるとき、親友に言われたんですよ。「おまえの仕事はいいな」って。実は、僕はそのときまで自分の職業に自信が持ててなかったんですよ。実用的な何かを作り出して、人の役に立つような仕事ではないから。でも、そいつが「おまえが出たドラマや映画を見て、人が喜んでくれたり、元気が出たって言ってくれる。それはとてもいい仕事だ」って言ってくれたんです。
北方 われわれがやっている表現っていうのは、人間が生きていくうえで必要なもの、人間的なものを形成する仕事なんです。人間的なものだから、一つとして同じものはない。織田さんの宋江も、織田さんを通して表現しているから唯一無二なんです。ドラマでは織田さんにしかできない宋江を見てほしいですね。

「小説すばる」2026年3月号転載

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