
嵐で雷鳴が轟くと、ほとんどの人が空を走る稲妻に目を向けることでしょう。
しかしその瞬間、地上の森で生じていることに注目した科学者たちがいました。
米国のペンシルベニア州立大学(PSU)の研究チームは、雷雨の最中に木々の葉先で起きる「コロナ放電」という弱い電気現象を、特殊な紫外線カメラで世界で初めて直接とらえることに成功したのです。
研究成果は2026年2月12日付で学術誌『Geophysical Research Letters』にオンライン掲載されています。
目次
- 雷雨の中で木々に生じる“静かな放電”を初めて観測
- 木々の放電現象、その程度と影響は?
雷雨の中で木々に生じる“静かな放電”を初めて観測
雷といえば、空から地面へと落ちる巨大な放電を思い浮かべます。
しかし雷雲の下では、それとはまったく異なる、もっと静かな電気現象が起きている可能性が長年指摘されてきました。
それが「コロナ放電」です。
コロナ放電とは、電気が尖った部分に集中したとき、空気中へ漏れ出すように生じる弱い放電のことです。
雷のように空気を数万度にまで熱する激しい現象ではなく、周囲より少し温度が上がる程度の穏やかな放電です。
Trees throw silent UV raves under every thunderstorm while we complain about static shock. Thunderstorms secretly crown treetops with invisible swarms of ghostly electric fire, faint blue/UV coronae now captured outdoors for the first time, turning forests into living plasma… pic.twitter.com/k06HV9UzGW
— Nirmata (@En_formare) February 24, 2026
しかし弱いとはいえ、電気が流れていることに変わりはありません。
これまで研究者たちは、雷雲が森の上を通過するとき、地面付近の電場が予想より弱まることに気づいていました。
その原因として、木の葉の先でコロナ放電が起き、電荷が空気中へ逃げているのではないかと考えられてきたのです。
ただし決定的な証拠はありませんでした。
コロナ放電の光は非常に弱く、肉眼ではほとんど見えないからです。
そこで研究チームは、人の目ではなく「紫外線」に目を向けました。
コロナ放電は特定の紫外線を放出します。
研究者たちは、この紫外線だけを捉える特殊なカメラを搭載した観測システムを開発します。
彼らは望遠鏡と紫外線カメラを車に搭載し、GPSや電場計、気象観測装置も組み込んだ移動観測装置を作りました。
そして雷雨の中へ実際に車で乗り込み、ノースカロライナ州でモミジバフウやテーダマツの樹冠を観測したのです。
その結果、葉先で紫外線の光点が現れ、数分の1秒から数秒ほど続き、葉から葉へと飛び移る様子が記録されました。
風で枝が揺れると、その動きに合わせて光点も移動します。
これは、まさに葉の先端で放電が起きていることを示す直接的な証拠でした。
つまり「雷雨のとき、森の木々は放電している」という仮説が、初めて観測によって裏付けられたのです。
より詳しい数値や仕組みについては、次項で見ていきましょう。
木々の放電現象、その程度と影響は?
では、なぜ葉の先で放電が起きるのでしょうか。
雷雲の中では、電荷が分離して強い電場が生まれます。
この電場は地面にも影響を及ぼし、反対の電荷を地表に誘導する可能性があります。
そして雲と地面の電荷は互いに引き寄せ合うため、地面側の電荷はできるだけ高い場所へ集まろうとするのです。
森ではその通り道が幹を通って樹冠へと続いており、葉の先で電荷が集中しやすくなります。
ここで重要なのが「尖った形」です。
電気は尖った部分に集中しやすい性質があります。
葉の細い先端や針葉樹の針は、まさに電気が集中しやすい構造です。
こうした状況で電場が一定の強さを超えると、その先端から空気中へ電気が漏れ出し、コロナ放電が生じます。
Corona Discharges Glow on Trees Under Thunderstorms – McFarland – 2026 – Geophysical Research Letters – Wiley Online Library https://t.co/96gZLvqTfa
The forest was always the light show, and we just needed a periscope van to finally see the glow. Nature just dropped the ultimate… pic.twitter.com/qAsd7qWEqn
— Nirmata (@En_formare) February 24, 2026
また、紫外線の量から逆算すると、枝の一部を流れる電流はおよそ1マイクロアンペア程度と見積もられました。
雷の電流が数万アンペアであることを考えれば極めて小さな値ですが、雷雨のたびに繰り返されるとすれば、長期的な影響は無視できないかもしれません。
この放電は森の化学環境にも影響を与える可能性があります。
コロナ放電はヒドロキシルラジカルという反応性の高い分子を大量に生み出します。
これは大気中の汚染物質や、一部の温室効果ガスを分解する「大気の洗剤」とも呼ばれる存在です。
雷雨のたびに森の上空でこうした分子が大量に生まれているのだとしたら、森林は嵐の中で、空気の成分バランスを静かに変えている可能性があります。
とはいえ研究チームは、今回の観測が森のほんの一部に限られていることも認めています。
森全体でどれほどの規模で起きているのか、長期的に木の成長や生態系にどんな影響を与えているのかは、今後の研究課題です。
気候変動によって雷雨が増える可能性が指摘される中、この現象の重要性はさらに高まるかもしれません。
雷は空を引き裂きますが、その足元で森は静かに、目に見えない光で輝いています。
今回の研究は、嵐のもう一つの顔を私たちに教えてくれました。
参考文献
Trees Are Sparkling with Invisible Blue Electricity During Every Thunderstorm
https://www.zmescience.com/science/news-science/trees-are-sparkling-with-invisible-blue-electricity-during-every-thunderstorm/
Scientists Observe Electrical Discharges on Trees under Thunderstorms
https://www.sci.news/biology/thunderstorm-tree-coronae-14586.html
元論文
Corona Discharges Glow on Trees Under Thunderstorms
https://doi.org/10.1029/2025GL119591
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

