情シスならではのジレンマ
実は今回のようなケースは、情シス部門で働く人間にとって“あるある”の一つ。この手のネットワークトラブルは、不注意や知識不足によって引き起こされることが大半です。
回線のひっ迫と聞いて、多くの人がイメージするのは「大容量ファイルをダウンロードすると回線が混む」という場面かもしれません。しかし実際には、動画や画像をアップロードするときにも帯域は大きく消費されます。特にクラウドストレージやファイルサーバに長時間アップロードを行えば、他の社員の通信が巻き添えを食うことになります。
無自覚にネットワークに大きな負荷をかけてしまうことは、誰にでも起こり得ることなのです。
ですが、トラブルの原因が会社のトップや悪気のない同僚だった場合、情シスの担当者が「なぜこんなことをしたのですか」ときつく問いただすことは難しいでしょう。かといって、業務が止まったままでは会社の損失に繋がります。情シスは「原因を追求する」ことよりも「速やかに解決する」ことを優先し、裏側で奔走することしかできません。このジレンマこそ、情シスの現場で頻繁に起こる“あるある”なのです。
対策はどうするべきか
今回のようなケースでは、物理的な対策と社員教育という両面からのアプローチが重要です。
帯域制御や回線の冗長化
大容量通信による障害を防ぐには、ネットワーク機器で通信を制御する帯域制御や、回線そのものを増強して冗長化する方法があります。特に帯域制御は、特定のIPアドレスやアプリケーションの通信速度を制限することで、他の通信への影響を最小限に抑えられます。ただし、これには一定のコストがかかるため、中小企業ではすぐに導入できない場合もあります。
社員に求める「一言の相談」
現実的かつ簡易的な対策としては、社員に協力を仰ぐことです。誰もが「大きなファイルを扱うときは情シスに一声かける」という習慣を持つだけで、全社的な業務停止を防げます。この出来事をきっかけに、筆者の勤務先でも「大容量のアップロードや配信をする際は情シスに相談する」というお願いを社内サイトに掲載することになりました。社員一人ひとりの行動が、会社の業務にどう影響するかを理解してもらうことが必要です。
今回のケースは、一見すると笑い話のようですが、全社的な業務停止というリスクを伴う重大な出来事でした。
情シスの現場には、悪意ない不注意などから起こるトラブルが数多く舞いこみます。だからこそ「誰が悪いか」を問うのではなく「次に同じことが起きないために何をすべきか」を考えることが大切です。「あの日の社長の動画アップロードは、結果的に社員のネットワーク的な教訓になった」。筆者はそう前向きに振り返っています。
(執筆:そらのすけ、編集:雨輝)

